のうがく図鑑

第28巻

おいしく食べて健康になれるトマトを作ろう

植物生産環境科学科
圖師 一文 教授
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 皆さんはトマトが好きですか?
 私は大学3年生のころまで嫌いでした。というよりも、おいしくなさそうだったので食べたこともなかった気がします。ここで鋭い人は「えっ」と思ったかもしれません。この文章のタイトルは「おいしく食べて健康になれるトマトを作ろう」で、現在私はトマトの研究をしています。なぜ嫌いなトマトの研究をと思うかもしれませんが、実は大学の研究室に配属されてからおいしいトマトに出会い(初めは先輩から無理矢理食べさせられた気がしますが・・・)、今ではトマトが大好物です。
 では、研究の話をしましょう。おいしいトマトといっても人それぞれ好みが違って、甘いトマトが好き、酸っぱいトマトが好きな人がいるので難しいのですが、私が研究しているのはできるだけ甘いトマトです。さらに、トマトには健康に良い成分も含まれているので、おいしくって健康に良い成分も多いトマトを作ろうとしています。
どうやって作るのでしょうか?「愛情を込める!」のもいいかもしれませんが、実はトマトをいじめればいじめるほどおいしくなります。このことを、ストレスを与えるといいます。実際には、トマトを栽培する際に水やりを抑えて作ったり(乾燥ストレス)、塩を混ぜた水を使ったり(塩ストレス)します。大きさは小さくなりますが味の濃いトマトになり、スーパーマーケットなどでフルーツトマトと名付けられて販売されています(図1)。


 
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図1 おいしいトマトの作り方のイメージ図

 私たちは、このようなトマトがどのようなメカニズムでおいしくなるか、健康に良い成分を高めることができるかを研究しています。具体的には、いろいろな種類のトマトに塩ストレスを与えて(図2)、実際に食べてみたり、味や健康に関する成分を測定したりして、おいしさに違いがあるか、なぜ成分が増えたり減ったりするのか調べています。研究するうちに、ストレスを与えるとトマトが水を吸えなくなり果実が小さくなって成分が濃縮したり、枯れないようにいろいろな成分(抗酸化成分といって,私たちにとっては病気の予防などの健康に良い成分です)を作ったりして自分で身を守ろうとしていることが分かってきました(図3)。つまり、トマトが生き残るために頑張っているのを横取りしているということになりますね。少しかわいそうな気もしますが・・・


 
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図2 研究で栽培したトマト。慣行栽培に比べて塩トマトでは大きさが小さくなることが分かります。

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図3 乾燥ストレスや塩ストレスによるトマトの高品質化メカニズムのイメージ。

 ところで、このような研究をしていると困ったことが起きます。実際にストレスをかけたトマトを自分たちで栽培しているので、収穫時期になると実験に使うトマト以外はもったいないので食べます。すると、おいしいトマトを食べ飽きたり、普通のトマトが食べられなくなったり、かなりぜいたくな困ったことです。
最後に、このように初めは嫌いだったトマトを研究するようになったので、人生何があるかわかりませんね。読んでいる皆さんも苦手なことにチャレンジしてみると、もしかしたら・・・ということになるかもしませんよ。


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