2019.01.24 掲載
以下、大学で果樹の研究をしている桃栗参然先生と高校2年生の柿四朗くんの会話です。
桃栗先生(以下、桃):「果樹の研究は楽しいですよ。」
柿くん(以下、柿):「果汁ですか?」
桃:「いえいえ、果樹、果物です。」
柿:「というと、新しい品種とかを作っているのですか? ミカン? マンゴー? それともブドウでしょうか?」
桃:「新品種を作るだけが、果樹の研究ではありません。果樹の研究にはいろいろあります。私は、果樹の苗木を作る方法を考えたり、台木が果樹の成長に与える影響などを調査しています。」
柿:「苗木? 台木?」
桃:「私たちは果『樹』を取り扱っているので、苗のことを苗『木』と呼んでいます。果樹の苗木はホームセンターのガーデニングコーナーで見つけることができます。もし、機会があれば、その苗木の下の方を見て下さい。ほとんどの果樹の苗木は接ぎ木されています。」
柿:「『接ぎ木』って聞いたことあります。2つの植物をくっつけるんですよね。」
桃:「果樹だけでなく、野菜の苗も接ぎ木されているものがあります。野菜は『木』ではないのに、同じように接ぎ『木』と呼ばれて不思議です。ただ、イネの接ぎ木は聞いたことがないです。話が脱線しましたが、果樹の苗木が接ぎ木されている理由はいろいろありますが、一番大きい理由は、多くの果樹は『挿し木』で発根しないということです。」
柿:「挿し木は知っていますよ。枝を取ってきて、それを地面に挿すと根が出て、大きくなって、、、」
桃:「その通りです。ブルーベリーやイチジクなどは、挿し木で苗木を増やすことは比較的簡単ですが、多くの果樹は挿し木しても簡単に根は出てきません。」
柿:「だったら、種をまいて、苗木を作ったら良いですよね。」
桃:「ところが果樹の場合、例外もありますが、種をまいて出てきた植物は親や兄妹とは違います。」
柿:「イネとは違うのですね。」
桃:「とても乱暴なたとえですが、四朗くんはお父さんとお母さんの子供ですが、お父さんやお母さんとは違いますし、お兄さんやお姉さんとも違います。そして、四朗くんが食べた甘ガキの種をまいて出てきたカキ樹のほぼ全てが、渋い果実を実らせます。」
柿:「わ! せっかく、一番美味しかった甘ガキの種を庭にまいたのに、、、もう1メートル以上も伸びちゃった。残念。」
桃:「甘ガキを実らせたいのであれば、そのカキの苗木に甘ガキの枝を接ぎ木すれば大丈夫です。3~4年ぐらいしたら甘い果実がなるでしょう。」
柿:「『桃栗三年柿八年、柚子は大馬鹿一八年』ではないのですか?」
桃:「それは種から育てた場合の話です。接ぎ木をすると、早く実がなります。」
柿:「面白いですね。接ぎ木すれば甘ガキがすぐに実るとわかってとても嬉しいです。よく考えると、種をまくと、根が出てきます。挿し木で根が出ないのであれば、種から出た根を利用して、それに接ぎ木をすれば良いのですね。」
桃:「その通りです。根を持っている部分を台木、台木に接がれる方を穂木と呼んでいます。そして、台木はただ単に根を持っているだけでなく、穂木の成長、そして穂木に着いている果実にも影響を及ぼすことがわかっています。例えば『わい性台木』というのがあります。」
柿:「わい性台木?」
桃:「『わい性』とは、『丈が低い』という意味ですが、果樹であれば木を大きくさせない台木ということになります。」
柿:「大きくならない果樹って、何か良いことがあるのですか?」
桃:「果樹農家さんは収穫だけでなく、他の農作業でも、高いところにある果実に触る必要があるため、脚立を使わなければなりません。」
柿:「脚立に上ると眺めは良いけど、不安定で怖いです。」
桃:「脚立から落ちたら大けがをして農作業どころではなくなってしまいます。しかし、不幸にもそういった事故は、頻繁に起こっているのが現実です。私も農場実習中に脚立から落ちて、腰を抜かして、カキ樹にしがみつきながら学生に枝の切り方の指導したことがあります(笑)。」
柿:「先生失格ですね。」
桃:「、、、」
柿:「『わい性台木』以外にも『何とか台木』とかあるのですか?」
桃:「『耐病性台木』、『耐虫性台木』、「耐凍性台木』、『耐寒性台木』、『耐乾性台木』、『耐アルカリ性台木』などいろいろあります。」
柿:「わけわからないです。それらの台木も種から増やすのですか?」
桃:「そういった特性を持った台木は、その特性を確実に親から引き継ぐために、種ではなく、挿し木で増やすのが一般的です。」
柿:「え、果樹の挿し木は難しいって言っていましたよね。」
桃:「だからその『難しい』挿し木がどのようにしたら『簡単に』挿し木できるようになるのか、また挿し木した苗が実際に販売出来るレベルまでコストを下げる方法を開発するのが、私の研究テーマの1つです。」
柿:「あれ? 先生の研究テーマって、脚立から落ちない方法を開発することじゃなかったんですか!?」