のうがく図鑑

第73巻

草を育てて、ウシを活かす

畜産草地科学科
石井 康之 教授

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 草本植物というと,皆さんは野原に咲くタンポポやシロツメクサがまず思いつくかもしれません。あるいは花壇のチューリップやスイセンでしょうか。そのような色鮮やかな植物に比べて,私たちが育てているのはイネ科の牧草(ぼくそう)です。イネ科の植物というと,日本人の食生活を支える米,麦などの穀類がすぐ思いつくかもしれませんが,牧草とは花が咲いても目立たず,かえって花粉をまき散らすために人によっては花粉症を引き起こすかもしれない厄介者とも捉えられる代物です。しかし,皆さんが学校給食で毎日飲んでおられた(今も飲んでいるかも)牛乳は,黒白斑な乳用牛(ホルスタイン牛など)に毎日草本植物を与えないと健康に育てることができません。さらには,真っ黒な毛をした黒牛(クロウシ)は最高級の牛肉を生産してくれますが,そのような牛を産む母牛には,牧草を毎日たくさん与える必要があります。でもこのような母牛やその子牛は,牛小屋(畜舎)の中で飼われているため,一般の人の目に触れにくいのが現状です。

 このような牧草は,草原で放し飼いにして牛に与えることもあり,北海道ではその比率がかなりありますが,都府県ではほとんどが畜産を営む人々が自ら育て,牛に与えているのが主流です。皆さんが抱かれる草のイメージとしては,芝生や道ばたで人に踏み付けられるもの(図1)と思いますが,牧草には4 mを超す背の高さのもの(長草型,図2)や,一旦植えたら何年間も生えてくるもの(多年生)があり,それらが草本植物の中でもイネ科の牧草を農業に利用するのに最も適した特性といえると思います。

図1.png          図2.png                                   

 一方,ウシなどの反芻(はんすう)する動物では,草を与えることが必須であるのはお話しましたが,その草の色はどうでしょうか。多分青々とした(みどりみどりした)イメージと思います。宮崎が生んだわが国の代表的歌人・若山牧水の名歌にある,

「青草の なかにまじりて月見草 ひともと咲くをあはれみて摘む」

の景色は,宮崎などのわが国暖地(だんち)で広く栽培される暖地型(だんちがた)牧草でも正に当てはまるところです,夏の間は。しかし,冬の訪れからは,

「冬枯の 黄なる草山ひとりゆく うしろ姿を見むひともなし」(若山牧水)

の世界となります。植物は枯れ果て,動物は冬眠した静なる世界―――

ではなく,黒牛は黙々と枯れた草を食んでくれます(図3)。この性質を利用すれば,夏と同じく冬でも,ウシを活かすことができる(図4)のです。このような考えを延長して,牧草を育て年間平衡給与にいかに近づけていけるのかを模索しています。

図3.png            図4.png              

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           留学生と一緒に


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