のうがく図鑑

第22巻

魔法の言葉

森林緑地環境科学科
篠原 慶規 准教授
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 どこか新しいところに行って、初めて出会う人に話しかけるのは緊張しますよね。「なんて話しかけたらよいのかな?」ってドキドキしませんか?私はとてもシャイなので、いつも緊張します。「兄弟姉妹はいるの?」とか、「どこに住んでいるの?」とか、「趣味は?」とか、とりとめのないことを聞いてその場をしのぎます。でも、初めて会った研究者に話しかけるのは、とても簡単です。それは、「ご専門は何ですか?」と尋ねれば良いからです。これが、「魔法の言葉」です。実際、初めて会う研究者や行政の人、市民の方々などに、私もよく聞かれます。

 ぜひ皆さんも試してみてくださいと言いたいところですが、私には聞かないで下さいね。私は、自分の専門を聞かれると、とても困ってしまいます。私のことを昔からよく知っている人は、私の専門を「森林水文学(しんりんすいもんがく)」って答えるでしょう。最近知り合った人は、いやいや「砂防学」でしょって答える人もいるでしょう。これから会う人は、「農業気象学」って答えるかもしれません。

 なんで困ってしまうのか?それは、専門分野を転々としてきたからです。私は、小さいとき、「水」、もう少し正確に言うと、「水資源」にとても興味がありました。皆さんは生まれていないかもしれませんが、1994年、日本中は渇水に見舞われました。水道をひねっても水が出なくなる時間帯が1日20時間以上になった場所もあります。「水」が好きで、「水」は山(森林)から流れてくるので、森林と水の関係にとても興味を持っていました。


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図1  森林から流れてくる水

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図2  水は農地や都市で利用される


 そこで、大学では「森林水文学」を勉強したのですが、残念ながら、「森林水文学」というのは、日本では、とてもマイナーな分野です。「森林水文学」が専門の人を採用したいという募集はめったにありません。でも、研究者だって生活があります。給料をもらって生きていかなくてはいけません。私が選んだ選択肢は、専門分野を少し変えるということでした。「水」ではなく「土砂」の研究をするところに就職しました。正直、「水」の研究をしたい、でも「土砂」の研究をしなければ、という葛藤はありましたが、「土砂」の研究を始めると、それは非常に興味深く、楽しく研究ができました。そうして、今年の4月から宮崎大学に来たのです。宮崎大学では、「農業」に関わる「水」の研究もしたいと思っています。自分自身にどういう未来が待ち受けているのか、とても楽しみです。


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図3  樹木が使う水の量を計測しているところ

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図4  2017年九州北部豪雨での災害調査


 今一番興味があるのは、私たちの持続可能な生活をいかに維持していくのか?ということです。これから、日本は人口がどんどん減少していきます。それに伴って、今、問題だと言われていることが将来は問題ではなくなるかもしれません。例えば、水需要が減り、水不足は起こらないかもしれません。また、災害の危険性が高い場所の人口が減り、災害のリスクも下がるかもしれません。一方で、気候変動に伴う極端な気象現象の増加によって、水不足や災害が助長されるかもしれません。私は、私たちの生活を脅かすリスクを見極め、自分なりの解決策を提示していきたいと思っています。このような問題に対峙する場合、様々な視点からのアプローチが必要となるはずです。そう考えると、専門分野を転々と変えることも悪くないのかなぁと思います。

 私の研究の話は全然していませんでしたね。それは、またの機会にしましょう。人生、思い通りに進んでいますか?なかなか思い通りにいかないことだらけですが、とりあえず目の前のことをがんばってみてはどうですか?道が開けてくるかもしれません。


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