のうがく図鑑

第26巻

細胞からのメッセージをうけとる

獣医学科
園田 紘子 准教授
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 職業を尋ねられ、「獣医学科で研究をしています。」と自己紹介をすると「どの動物を対象(あるいは専門)にしているの?」とよく聞かれます。しかし、獣医学分野の基礎研究では動物特有の病気だけにとどまらず、ヒトと動物で共通かつ重要な病気について未だ解明されていないメカニズムや治療法、予防法などについても研究しています。ヒトと動物で共通して重要な病気の一つに腎臓病があります。日本では慢性腎臓病患者は一千万人以上いるといわれています。また、動物では死亡原因として腎臓病はネコで第2位、イヌでは第3位という報告もあります。このように腎臓病はヒトにも動物にも重要な病気なのです。でも腎臓病の治療薬もなければ、具体的に腎臓のどこが悪いのかを教えてくれる簡便な検査方法もありません。

 最近になって、腎臓でつくられる尿の中に細胞が放出する直径100 nm(1 ㎜の1/10000)程の小さな粒(つぶ)が存在することが明らかになりました(図1)。この粒の作られ方は、細胞の活動状態によって決まることが分かってきました。腎臓(図2)は複雑な臓器で、20種類以上のたくさんの細胞からできています。私たちは、この粒を調べることによって、たくさんの細胞の一つ一つからのメッセージを受け取れるのではないかと考えて研究を進めています。そして将来的にはそのメッセージを読みとくことで腎臓病の時に、腎臓のどこが悪いかを診断できる方法を開発したいと思っています。


 
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図1 細胞から放出される粒のイメージ図

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図2 ホ乳類の腎臓


 研究成果を少し紹介します。人間の腎臓は一日に180リットルの尿を作っています。しかし、健康な人は一日に1.5~2リットルの尿しか出しません。これは腎臓にあるアクアポリンと呼ばれるタンパク質が水分の99%を体に戻す働きをしているからです。アクアポリンは腎臓の特定の細胞から放出される粒に存在することが分かっています。腎臓が悪くなると尿が通る管が異常に広がったり、管を作っている細胞が死んだりします(図3)。すると、尿が出なかったり、逆にたくさん出すぎたりします。私たちはこのような腎臓病の時に、粒に含まれるアクアポリンの量が変わることを発見しました。これはアクアポリンをもっている細胞が病気だということを示すメッセージであると思われます。このように、細胞の状態によって変化する粒に含まれるタンパク質を研究することで尿中に含まれる細胞からのメッセージを受け取り、ヒトや動物の健康に貢献できるような研究を続けていきたいと考えています。


 
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図3 健康なマウスと腎臓病のマウスの腎臓


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