のうがく図鑑

第25巻

「草」とともに

畜産草地科学科
井戸田 幸子 教授
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『草地』あなたはこの漢字を何と読みますか?「くさち」と思った人がいるかも知れませんが、「そうち」と読みます。日本ではあまり聞かない言葉ですが、世界の陸地面積の約37.1%は草地(草原)が占め、ステップ、プレイリー、サバンナなど様々な名称で呼ばれています。草地は、アフリカのサバンナで暮らすシマウマやライオンなど野生動物の生活の場でもあり、ウシ・ヒツジ・ヤギなどの反芻家畜(写真1)やその他の動物のエサ作りの場でもあります。また、草地には雨や風で土が流されるのを防ぐ土壌保全機能や公園の芝生や天然芝のグランドのように私たちに憩いや安らぎを与えてくれる保健保養機能もあります。気温が低い、雨が少ないなどの気象条件で主食となるコメ・コムギ・トウモロコシなどの穀物の栽培に適さない地域では古くからヒツジやヤギなどの家畜に自然の草を食べさせて、そのミルク・肉・毛などを人間が利用して生活してきました。このような地域では、草を求めて家畜と人が一緒に移動する遊牧が行われてきました。遊牧の形式は変化してきていますが、草地に家畜を放して草を食べさせる家畜の飼い方(放牧)が行われています(写真2)。


 
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写真1 反芻家畜(ヒツジ、ヤギ)

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写真2 草地に放牧されているウシ科の家畜ヤク


 中国での草地調査に参加したことがありますが、調査の間テントで寝泊りしていてテントの側で家畜が草を引きちぎる「ブチッ」という音で目が覚める貴重な体験をしました。
 今は、いつどんな種をまき、いつ収穫すれば効率よく品質の良い草ができるか?いい草を育てるには土壌にどんな肥料を撒けばいいのか?環境にやさしく持続的に利用するにはどうすればよいかなど草地の管理に関する研究に取組んでいます。草といっても種類や形、大きさは様々で10円玉より小さな種(写真3)の中には約3ヶ月で4mを越えるほど大きく成長するもの(写真4)や2週間以上水をあげなくても枯れずにがんばるもの(写真5)など草のことを知れば知るほどそのパワーと能力に驚かされます。


 
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写真3 牧草・飼料作物の種子.
左からイタリアンライグラス、ペレニアルライグラス、テフグラス、ソルガム、デントコーン


 
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写真4 生育3ヶ月で4mを越える大型のソルガム.

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写真5 テフグラスの乾燥試験の様子.
(左:潅水中止18日間、右:毎日潅)


 草地に関する調査や研究は草の成長に関するものだけではなく、植物細胞や遺伝子に関するもの、草地の景観や環境に関連するもの、草地に暮らす昆虫や動物に関するもの、人工衛星の画像を利用して草の状態を評価するものなど非常に幅広く、あなたにも興味が持てる分野が必ずあると思います。


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