のうがく図鑑

第58巻

目に見えていない侵略者・外来牧草の謎を追って

附属フィールド科学教育研究センター(森林緑地環境科学科)
西脇 亜也 教授

 科学の魅力の一つは「謎」を解くことです。宮崎大学でも多くの先生や学生さんが様々な「謎」に取り組んでいますが、今回は私が取り組んでいる「謎」の一つである、「外来牧草の謎」を紹介します。2017年に「散歩する侵略者」と言う、「目には見えない侵略」を扱ったSF映画(長澤まさみ主演)が公開されましたが、外来牧草の場合は「目に見えていない侵略」だと思います。
 私は月に一度、宮崎県の最南端にある都井岬のシバ草地を訪問して植物の種類と生産量の調査を行っています。宮崎大学に赴任した1999年の秋からこの調査を開始しましたので、約20年間の通算で200回以上、都井岬を訪問したことになります。
 都井岬には昭和28年11月14日に国の天然記念物に指定された「岬馬およびその繁殖地」があります。この馬(天然記念物としての名称は岬馬ですが、一般には御崎馬と呼ばれています)の放牧は、江戸時代に高鍋藩の秋月家が始めてから300年以上も続いています。このように長く維持されている放牧地は日本では本当に少ないですし、他の放牧地と異なり、無肥料、無農薬で管理されている野生の草地(野草地)であることも珍しいです。
 このような野生の馬と草との関係が長く続いてきたのは、牧養力(Carrying capacity)が安定しているからではないか?そう考えて、都井岬のシバ草地のいろんな場所に設置した移動式のプロテクトケージ(禁牧区)の内外の草の量を、月に一回測定することによって、馬に食べられた草の量や再生した草の量の変動を調べてきました。馬の頭数や地球温暖化などの変化が草の生産量の変動にどのように影響するか?などの「謎」解きも行っています。
 しかしこの調査は、予想もしていなかった「外来植物による侵略」が都井岬の放牧地で生じていることを記録することになりました。都井岬の小松ヶ丘は日本在来のシバを主体とする草地でしたが、この10数年でこのシバのほんどがカーペットグラスやバヒアグラスなどの外来牧草に置き換わってしまいました(写真1)。

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写真1

 都井岬の歴史始まって以来の大きな変化ですが、外来牧草を含めた外来植物も見た目は緑色で、シバなどの日本在来の植物との識別が困難であることから、一般にはこの「外来植物による侵略」は「目に見えていない」、つまり「気がついていない」ようです。馬はシバも外来牧草もえり好みをせずに食べていますし、特に気にしている様子はありません。
 馬にとって悪いものでなければ特に目くじらを立てる必要は無いとは思うのですが、気がついたら外来牧草が増えていたと言うのは、映画「散歩する侵略者」で夫や友人など周囲の人々が次第に侵略者に入れ替わったというストーリーにも似て不気味です。
 映画の侵略者達は人間の「概念」を奪ってゆくのですが、都井岬の侵略者・外来牧草達は何か悪さをするのでしょうか?
 調べて見ると、まだ外来牧草が侵略していない草地では、シバだけでなく多くの種類の在来植物が生育していましたが、外来牧草が侵略した草地では草の種類数(種多様性)が減っていました。そこで、侵略者・外来牧草は在来植物との競争に勝って種多様性を低下させると思った私は、確認のための様々な競争実験を行ってみました(写真2)。

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写真2

 結果は意外でした。予想に反し、刈り取り頻度や踏圧などを変化させても、外来牧草は常に在来植物(シバ)との競争に負けてしまう結果になったのです。ポット栽培による競争実験の結果は、放牧地で外来牧草が侵略する条件を明らかにできませんでした。
 では、競争に弱い外来牧草が放牧草地を侵略できるのはなぜでしょう?この謎を解くためには、放牧地で被食や馬糞、蹄傷の影響を制御する工夫を加えることによって、外来牧草が侵略的になる条件を明らかにすることが必要だと考えました。
 そこで、まずは外来牧草の侵略が進行した草地に対して金網を張ったプロテクトケージを用いて数年間の禁牧を行った結果、在来植物の種多様性が増加し、外来牧草が消失しました。この結果は、高い放牧圧が外来牧草の侵略と種多様性の減少の原因であったことを示します。でも金網を張ったプロテクトケージによる禁牧は、被食も馬糞や蹄傷による裸地形成も全て制限してしまいます。そこで、金網が無い枠組みだけのプロテクトケージを放牧地に設置すれば、馬は頭をケージ内に入れることが可能なので草は被食されますが、体全体や足をケージ内に入れられないので馬糞や蹄傷による裸地形成は制限されます。そして、ケージ内外の草を調査すれば外来牧草の侵略に対して被食と裸地形成のどちらの効果が大きいかを明らかにできると考えました(写真3、写真4)。

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写真3

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写真4

 また、外来牧草の侵略がまだ進行していない放牧草地では馬の密度が低く、馬の蹄や馬糞が作った裸地が少ないのです。そこで、人工的に馬糞を置いたり、蹄による地面のひっかき傷を模したりすることによる裸地形成が外来牧草の侵略を促進するのかどうかを明らかにしようと考えました(写真5)。

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写真5

 これらの野外実験は2018年から開始したばかりで、結果はまだ出ていませんが、「目に見えていない侵略者・外来牧草の謎」が解けることを期待して、これからも研究を進めたいと思います。


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