のうがく図鑑

第55巻

魚が細菌感染症からカラダを守る仕組み

応用生物科学科
引間 順一 教授
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 我々、ヒトはインフルエンザに罹ったり、結核になったり、病原性ウイルスや細菌の感染によって、病気を引き起こしますが、魚も同じように感染症を引き起こします。感染症からカラダを守る仕組み(免疫システム)は、魚でもヒトと類似した点が多く、免疫を担当する細胞の多くは魚にも備わっており,抗体産生も可能です。また、魚類は、ヒトなどの哺乳類と同じ背骨を持った脊椎動物の中でも最も古くから地球上に棲息してきた生物です。つまり、魚の免疫システムを理解することは、魚類特有の生体防御機構を学ぶことができるのと同時に、免疫の起源となる基礎的知見を新たに発見することに繋がります。
 私たちの研究室では、メダカなどの魚類を用いて感染症に対する免疫システムについて研究しています。脊椎動物の免疫システムは大きく2種類に分けることができます。まず、全ての動物に備わっている非特異的に異物を標的にする自然免疫、そして抗体などを産生して特異的に異物を排除する獲得免疫です。細菌やウイルスの感染症に対しては、これら両方の免疫が効率よく機能することが大切です。それには、自然免疫の1つであるパターン認識機構が機能的に働き、2つの免疫機構を効率よく活性化して、感染症からカラダを守ることができます。パターン認識機構とは、感染症を引き起す細菌やウイルスの一部の分子パターンを様々な受容体で認識することで、異物を食べる細胞(貪食細胞)を活性化させたり、抗体産生を促す細胞分化を誘導させたり、炎症反応を誘導するための伝達物質(サイトカイン)を産生したりします。魚類のパターン認識機構を図1に示しました。たくさんのパターン認識受容体が発見されていますが、まだまだ、わからないことだらけです。

 

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図1.魚類の細胞内外におけるパターン認識機構

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図2.CRISPR-Cas法によるCSAP1遺伝子ノックアウト・メダカの構築

 我々は現在、小型魚モデルであるメダカを用いて細胞内寄生細菌の感染に対する免疫システムを解き明かそうとしています。細胞内寄生細菌は、名前の通り、細胞の中に寄生・感染して重篤な病気を引き起こします。一度、細胞内に取り込まれてしまうと、抗体などが作用できなくなり病原菌を直接排除することが困難になります。そこで、細胞内で働く免疫システムが重要になります。その中でも病原体を認識して免疫を活性化するシステムである、パターン認識が重要であると考え、感染した細胞内寄生細菌に対して、どうのようにこれらの機構が活性化されるかを調べています。我々の研究室では現在、炎症反応を誘導するために重要なインフラマソーム(タンパク質複合体)の機能や、腸管内における病原細菌に対する自然免疫システムの役割について研究を行っています。インフラマソームについての研究では、ゲノム編集技術を用いて、この分子を構成するASC(アポトーシス関連スペック様カード蛋白質)やカスパーゼ1(CASP1)遺伝子のノックアウト(機能不全)メダカを作製しました(京都大学との共同研究)。図2には作製したCASP1遺伝子ノックアウト(KO)メダカの例を示しました。このメダカは、遺伝子欠損を起こすのと同時に、標識となるEGFP(オワンクラゲ緑色蛍光タンパク質)遺伝子をノックインしており、目視で容易にKOメダカの選別ができます。KOメダカの受精卵を観察すると、ふ化前には、目が緑色に光っているのが確認できます(図2)。一方、他にも腸管内で抗菌分子の産生をコントロールしているインターロイキン17というサイトカイン遺伝子を変異させたメダカも作製しました(図3)。現在、これらの遺伝子変異メダカを用いて、細胞内寄生細菌が感染する時に免疫システムがどのように応答するかについて詳細に研究しています。また、細胞内寄生細菌であるエドワジェラ症原因菌Edwardsiella piscicida (旧名: E. tarda) を用いた感染症モデルの構築にも成功しており(図4)、これにより本菌のメダカへの感染が繰り返し観察できるようになりました。

 
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図3.実験に使用しているメダカたち

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図4.メダカ細胞内寄生細菌・感染症モデル

 現在、少しずつ新たなデータが得られ始めている中で、予想もしなかったような、まったく新規の結果もあり、感動と興奮が日々、我々研究者をインスパイアーしてくれます。もちろん、失敗もたくさんありますが、失敗の中から得られた予想外の感動!まさしくセレンディピティ!震えるようなドキドキが体験できます。興味のある人は、遠慮なく私たちの研究室のドアをノックして下さい。皆さんウェルカムです。

 


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