のうがく図鑑

第66巻

ストレスに強くなるには

応用生物科学科
山本 昭洋 准教授

 私は大学の先生として向いているなぁを思う点があります。それは、普段ストレスを(あまり)感じないで仕事や生活ができていることです。ただ、ストレスを受けていないわけではないようで、体に変調が現れてから「何かストレスがあったのか」とか「疲れていたのかな」などと思うことはあります。言い方を変えれば、ストレスのセンサーが鈍感なだけかもしれません(良い言い方をすれば、心の方はストレスに強いと言えます)。
 さて、私は植物の環境ストレス応答、特に塩ストレスに関する研究を行っています。世界で拡大している沙漠化の人為的要因の1つに、乾燥地帯での灌漑農業由来の土壌の塩類集積化があります(図1・図2)。このような環境下で植物は塩類、特にNaによるストレスを受けることになります。植物の持つ耐塩性(塩ストレスに強い)のメカニズムを解明することは、沙漠化の防止に寄与すると考えられます。

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図1.アメリカ南西部で行われているセンターピボット農法(灌漑農法)
作物栽培を行っているところ以外は荒涼とした台地が広がっています。降雨も少なく、見渡す限り水源のないところでも農業が行われています。このような乾燥地域では、地下水をくみ上げ肥料を混ぜて巨大な散水器(半径400~1000 m)で1日に数回降雨のように灌漑しています。

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図2.アメリカ南西部の沙漠化した土地

 現在は、皆さんもよく目にするシバを研究材料の1つとして研究を行っています(図3)。シバは比較的耐塩性が高い植物といわれています。シバは葉の表面に塩類腺と呼ばれる器官を持っています(図4)。この塩類腺はエネルギーを使って塩類を体外に排出する機能を有しています。シバが持つ耐塩性はこの塩類腺からの塩類排出によるもので、塩類腺密度が高ければ耐塩性も高いとされてきました。本当にそれだけで説明がつくのだろうか?という疑問から、日本に自生する主要なシバ属3種(Zoysia japonica, Z. matrella, Z. pacifica)のうち九州・南西諸島から収集された野生系統を用いて、塩類、特にNaの排出と蓄積について調べました。その結果、Z. matrellaZ. pacificaでは塩類腺から排出量が高く、Z. japonicaでは葉内の蓄積量が高いことがわかりました(図5)。このことから、種によってNaの排出・蓄積の様式は異なり、Z. matrellaZ. pacificaはNa排出型、Z. japonicaはNa蓄積型であることが明らかとなりました。また、塩類腺密度とNaの排出、蓄積とは明瞭な関連性は見いだせなかったことから、必ずしも塩類腺密度が高ければ耐塩性が高いと言えないことも新たに明らかとなりました。では、いったい何が耐塩性をもたらしているのか?残念ながら今のところその理由は明らかになっていませんが、植物体内の生体成分に注目しています。"将来的には、シバで地表面を覆うことにより過度な水分蒸発や塩類集積を防ぎ、沙漠化の進行を食い止めたい"、という夢を抱いて研究を進めています。

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図3.実験で使用した3種のシバ
a: Zoysia japonica・b: Zoysia matrella・c: Zoysia pacifica
バーは5 cmを示している

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図4.シバの塩類腺の電子顕微鏡写真
矢印で指した囲み部分が塩類腺で、バーは50 µmを示している

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図5.シバの塩類腺からのNa排出量と葉内のNa蓄積量
Z. japonicaは11系統、Z. matrellaは20系統、Z. pacificaは17系統の平均値を示している

 研究は、壁にぶち当たることも(多々)あります。でも、学生時代に楽しくまじめに研究に取り組んで、社会に出る前にその壁をぶち破る(ストレスに強くなる)経験は大事なことなんじゃあないかと思います。


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