宮崎大学テニュアトラック推進機構

宮崎大学型若手研究リーダー育成モデル

OB研究者紹介

稲葉 靖子 H29.4.1~テニュア職(農学部)

2012.4.14

学部:農学部植物生産環境科学科・准教授
(テニュア審査後、農学部准教授としてテニュア職)

1.略歴

平成17年3月 東京大学大学院農学生命科学研究科応用生命工学専攻・博士後期課程修了
【学位】 博士(農学) 東京大学

平成17年4月 岩手大学21世紀COEプログラム COE研究員
平成18年10月 岩手大学農学部 研究員                                                                        ———平成22年4月から3月まで、第一子出産のため研究活動を中断————–
平成23年4月 宮崎大学IR推進機構 プロジェクト研究員(山村フェロー)
平成24年4月 宮崎大学テニュアトラック推進機構 テニュアトラック助教
———平成24年8月から10月まで、第二子出産のため研究活動を中断————–
平成24年11月~平成29年3月 平成24年4月以降の研究を継続して推進
平成29年4月~現在 宮崎大学農学部植物生産環境科学科 准教授

2.テニュアトラック期間中の研究分野と研究課題

研究分野:農学系 野菜・花き園芸分野
研究課題:観葉植物の開花結実における熱産生機構とその利用に関する研究

3.研究内容

呼吸を介したエネルギー生産は植物の成長に極めて重要です。しかしながら、一般の植物では呼吸量が環境の温度に大きく影響されるため、各成長ステージに適した呼吸量を自発的に維持することができません。例えば、環境温度の上昇による呼吸量の上昇は、一般花卉類の老化を促し、切り花の品質を損ないます。また、夏の冷害による呼吸量の減少は、穀物の生育を遅滞させ、収穫量に深刻な影響を与える一つの原因となっています。したがって、環境温度に影響されることなく植物体内の呼吸量を自発的に調節する技術の開発は、園芸作物の生産にとても重要です。私達は、こうした技術の開発に向けて、花の発達過程において呼吸量を調節する機構を持つ一部の発熱植物とクライマクテリック呼吸を行う一般花卉類を用いて、植物の花における呼吸代謝、ミトコンドリア生理、温度受容に関わる仕組みの解明を目指します。将来的には、これらの仕組みを一般の植物に適用して、地球規模の機構変動に翻弄されない安定的な農作物の供給に貢献できるものと考えています。

1.植物の熱産生を支える発熱関連タンパク質に関する研究

植物ミトコンドリアのシアン耐性呼吸酵素(AOX)と脱共役タンパク質(UCP)は、ともに余剰エネルギーを解消する役割をもつことから植物熱産生の鍵タンパク質と考えられています。これまでに、日本の寒冷地に自生するザゼンソウ(図1)という発熱植物を用いて解析を行ったところ、AOXとUCPの各タンパク質はミトコンドリア内膜上に局在し、活性も検出されました。また、両タンパク質の発現は発熱レベルに応じて調節されていることもわかりました。ただ、AOXやUCPを介した発熱分子機構についてはまだ不明な点が多く、今後の研究の中で明らかにしていきたいと考えています。

(図をクリックすると拡大されます)  

2.植物の熱産生を支えるミトコンドリア諸性質およびトランスクリプトームの解析

動植物を問わず発熱組織では呼吸が活発であることから、熱産生機構を理解する上で酸素呼吸の場であるミトコンドリアは重要なオルガネラです。ザゼンソウを用いた最近の研究で、活発に発熱する花は発熱に関与しない花よりもミトコンドリアを豊富に含むことがわかってきました(図2)。また、活発に発熱する花ではミトコンドリアタンパク質をコードする遺伝子やエネルギー代謝に関わる遺伝子が高く発現していることがわかりました(図3)。こうした知見を踏まえ、今後は、発熱植物に共通のミトコンドリア諸性質を明らかにするとともに、トランスクリプトームの規模を拡大して解析を進めていきたいと考えています。


(図をクリックすると拡大されます)

  3.花のクライマクテリック呼吸を支える分子機構に関する研究

花の発達過程における呼吸量の増加は、クライマクテリック呼吸を行う多くの一般花卉類でも観察される現象です。例えばカーネーションの場合、花が開き始めた時に呼吸の最初のピークが観られ、成熟につれて次第に低下した後、比較的短時間に急激な増大が観られます。他にも、アサガオ、ペチュニア、バラ、スイトピー等がクライマクテリック呼吸を行う花卉として知られています。クライマクテリック呼吸を行う花卉では、呼吸の上昇と相前後してエチレンの急増が観られ、その後に急速に老化が進行します。これまで、エチレンの急増については分子レベルでの研究が数多くなされてきましたが、呼吸の急増に関わる分子機構についてはよくわかっていません。そこで本研究では、こうしたクライマクテリック呼吸を支える分子機構をその生理的意義も踏まえて明らかにしていきたいと考えています。

4.研究業績

論文 【着任後】 *corresponding author

1.Tokumaru, M., Adachi, F., Toda, M., Ito-Inaba, Y., Yazu, F., Hirosawa, Y., Sakakibara, Y., Suiko,M., Kakizaki, T., Inaba, T*. (2016) Ubiquitin-proteasome dependent regulation of GLK1 in response to plastid signals in Arabidopsis. Plant. Physiol., in press. 

2.Ito-Inaba, Y.*, Masuko-Suzuki, H., Maekawa, H., Watanabe, M., Inaba, T. (2016) characterization of two PEBP genes, SrFT and SrMFT, in thermogenic skunk cabbage (Symplocarpus renifolius). Scientific Reports., 6:29440, DOI: 10.1038/srep29440.

3. Uehara, S., Adachi, F., Ito-Inaba, Y., Inaba, T. * (2016) Specific and efficient targeting of cyanobacterial bicarbonate transporters to the inner envelope membrane of chloroplasts in Arabidopsis. Front. Plant Sci.,7, doi: 10.3389/fpls.2016.00016.

4. Ito-Inaba, Y.* (2014) Thermogenesis in skunk cabbage (Symplocarpus renifolius): New insights from the ultrastructure and gene expression profiles. Advances in Horticultural Science 28.73-78.

 5. Okawa, K., Inoue, H., Adachi, F., Nakayama, K., Ito-Inaba, Y., Schnell, DJ., Uehara, S., Inaba, T.* (2014) Targeting of a polytopic membrane protein to the inner envelope membrane of chloroplasts in vivo involves multiple transmembrane segments. Journal of Experimental Botany, 65,5257-65.

 6. Ito-Inaba, Y.*, Masuko, H., Watanabe, M. and Inaba, T. (2012) Isolation and gene expression analysis of a papain-type cysteine protease in thermogenic skunk cabbage (Symplocarpus renifolius). Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry 76, 1990-1992.

著書

Sato, M., and Ito-Inaba, Y. Mitochondria of thermogenic skunk cabbage. “Atlas of Plant Cell Structure”, Springer, 2014.

論文  【着任前】※主要なもののみ記載。

1. Ito-Inaba, Y., Hida, Y., Matsumura, H., Masuko, H., Yazu, F., Terauchi, R., Watanabe, M. and Inaba, T. (2012) The gene expression landscape of thermogenic skunk cabbage suggests critical roles for mitochondrial and vacuolar metabolic pathways in the regulation of thermogenesis. Plant, Cell and Environment 35, 554-566.

2. Ito-Inaba, Y., Hida, Y. and Inaba, T. (2009) What is critical for plant thermogenesis? – Differences in mitochondrial activity and protein expression between thermogenic and non-thermogenic skunk cabbages. Planta 231, 121-130,

3. Ito-Inaba, Y., Sato, M., Masuko, H., Hida, Y., Toyooka, K., Watanabe, M. and Inaba, T. (2009) Developmental changes and organelle biogenesis in the reproductive organs of thermogenic skunk cabbage (Symplocarpus renifolius). Journal of Experimental Botany 60, 3909-3922.

4. Ito-Inaba, Y., Hida, Y., Mori, H. and Inaba, T. (2008) Molecular identity of uncoupling proteins in thermogenic skunk cabbage. Plant and Cell Physiology 49, 1911-1916.

5. Ito-Inaba, Y., Hida, Y., Ichikawa, M., Kato, Y. and Yamashita, T. (2008) Characterization of the plant uncoupling protein, SrUCPA, expressed in spadix mitochondria of the thermogenic skunk cabbage. Journal of Experimental Botany 59, 995-1005.

6. Ito. Y., Kanamaru, K., Taniguchi, N., Miyamoto, S. and Tokuda, H. (2006) A novel ligand bound ABC transporter, LolCDE, provides insights into the molecular mechanisms underlying membrane detachment of bacterial lipoproteins. Molecular Microbiology 62, 1064-1075.

7. Ito, Y., Matsuzawa, H., Matsuyama, S., Narita, S. and Tokuda, H. (2006) Genetic analysis of the mode of interplay between an ATPase subunit and membrane subunits of the lipoprotein-releasing ATP-binding cassette transporter LolCDE. Journal of Bacteriology 188, 2856-2864.

8. Ito, Y., Tomita, T., Roy, N., Nakano, A., Sugawara-Tomita, N., Watanabe, S., Okai, N., Abe, N. and Kamio, Y. (2003) Cloning, Expression, and Cell Surface Localization of Paenibacillus sp. Strain W-61 Xylanase 5, a Multidomain Xylanase. Applied and Environmental Microbiology 69, 6969-78.

総説

稲葉(伊東)靖子, 齋藤茂 (2008) 熱産生における脱共役タンパク質の役割と適応進化. 化学と生物, 46, 841-849.

著書

稲葉(伊東)靖子 (2009) 生物による温度センサーの分子機構. 温度と生命システムの相関学 東海大学出版会, p50-71.

その他

稲葉(伊東)靖子「発熱するザゼンソウ-大量のミトコンドリアを発見-」 科研費NEWS, Vol.3, 2009

 

5.外部資金獲得実績

1)2016年度稲盛財団研究助成「呼吸ロバストな細胞系統を利用した植物ミトコンドリア活性化因子の同定と機能解析」(1年間)

2) 科学研究費補助金:若手研究(B)「発熱植物ザゼンソウの温度受容機構におけるクロマチンサーモスタットモデルの検証」(2014~2016年度・代表)

3) 2013年度内藤記念女性研究者研究助成金「植物における温度受容とフロリゲンを介した開花生理をつなぐ新規分子機構の解明」(3年間)

4) 科学研究費補助金:研究活動スタート支援「発熱植物のミトコンドリア動態を支える転写制御機構の解明」(2011年度~2012年度・代表)

 

6.担当講義

      ・観賞園芸学  (学部2年生・15回)

      ・入門セミナー(学部2年生・5回)

 

7.連絡先

〒889-2192 宮崎市学園木花台西1-1
宮崎大学 稲葉(靖)研究室
E-mail:ykoina☆cc.miyazaki-u.ac.jp(☆を半角@に変更してお送り下さい。)

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