のうがく図鑑

第40巻

木でつくられた空間で癒される。

森林緑地環境科学科
雉子谷 佳男 教授
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 子供の頃から木が好きでした。神社や森林で土に根を張りたくましく生きている木も神秘的で好きでしたが、なぜかスギやヒノキの板や角材が好きでした。木の香りや手触りを楽しみ、断面ごとに表れる木目の模様を見て綺麗だと感じていました(図1)。いろいろな感覚で木を感じることができ、幸せな気持ちになっていたのかもしれません。研究者になって木を研究するようになり、実験データに基づいて木がとても優れた材料であり私たちの暮らしを豊かにしてくれる重要な資源であることを説明できるようになりましたが、子供の頃に感じた木の魅力は色褪せることがありませんでした。大人になっても、自宅リビングの木の床に寝転がったときに幸せを感じます(図2)。木が嫌いという人に会ったことがないので、私が感じる木の魅力は人にとって普遍的なものかもしれません。


 
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図1 家に使われる木

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   図2  木の床にネコも癒される?


 木は身近な材料ですが、中学校や高校の授業では、木の詳細は勉強しないかもしれませんね。研究者として木のことを少し説明したいと思います。資源が少ないと言われる日本ですが、森林資源はかなり豊富です。他の資源と違って、森林資源は伐採して使っても、また植えたら再生します。木はもともと植物の体(幹)なので、細胞の集合体です。厳密には、死んだ細胞なので、細胞壁が集まってできています。私たちに安全な空間を提供してくれる木の家は、軽くて丈夫です。木は植物なので細胞分裂と細胞の分化によって木の細胞ができます。高校の生物の授業では、植物ホルモンの働きについて勉強しますね。木にも、オーキシン、ジベレリン、サイトカイニン、アブシシン酸、エチレンなど多数の植物ホルモンが存在し、これらが働いて細胞をつくります。生育環境によって、同じ種類の木でも強い木になったり弱い木なったりします。家に使われる木は、強くて寸法が狂わないものが選ばれます。貴重な森林資源を無駄なく活用するには、用途に合った木を育てることが大切ですね。木の性能を高めるために、植物ホルモンについて詳しく知ることが必要になることもあります(図3)。

 
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図3 木の細胞をつくる分裂細胞(形成層)周辺に局在するオーキシン


 木を沢山使ったカフェはとても居心地が良いので、ついつい長居をしてしまいます。私たちの社会が、もっと木を使うようになることを願っています。そのためには、もっと沢山の研究をおこなって木の秘密を調べる必要がありそうです。高校生のみなさん、自然豊かなキャンパスで木の秘密にせまってみませんか?


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