2019.03.08 掲載
「化石」と聞いたら、何をイメージしますか?まっさきに頭に浮かぶのは恐竜ではないでしょうか。あるいはアウストラロピテクスといった人類の祖先の頭蓋骨を思い出す人もいるでしょう。このように化石は動物に由来するイメージが強いですが、私たちの身近な植物にもある種の化石を土の中に残すものがあるのをご存知ですか?
その化石の名前は、プラント・オパール(植物珪酸体化石)です。英語ではplant opalあるいはphytolith、中国語では植物蛋白石あるいは植物硅酸体と呼ばれています。これは、イネやススキ、タケといったイネ科やドングリが実るブナ科など、根から吸収した水に含まれるガラスの成分(珪酸:SiO2)を自分の細胞(主に表皮細胞)の細胞壁に蓄積する性質を持つ植物だけが残す、細胞の形をした化石(細胞化石)のことです。
大きさは、元が細胞ですので、大きいのものでも100ミクロン(10分の1ミリ)程度で、顕微鏡を用いないと観察ができません。また、ガラスでできているため、化学的・物理的な風化に強く、数万年は消失することはありません。さらに、その形や大きさには、植物によって違いがあるため、一般的な化石と同じように、地層に含まれるプラント・オパールの種類を調べることで、過去にどのような植物が存在していたかを知ることができるのです。
私は、この中でも、東アジアの重要な作物であるイネのプラント・オパールを利用して、日本や中国での現地調査を行いながら、稲作の歴史を研究しています。ここでは、具体的な内容を少しだけ紹介したいと思います。
【古代の水田を探し出す】
水田では、毎年毎年、イネが栽培され、収穫した後のイネの葉や茎は、水田の土に還されます。その結果、一定期間、利用された水田の土には1g当たり数千~数万個のイネのプラント・オパールが含まれています。そのため、イネのプラント・オパールが含まれる地層と範囲を探査することにより、国内外の古代水田の所在と規模を明らかにできます。
【栽培されたイネの種類や生産量を調べる】
これまでの研究によって、土に含まれるプラント・オパールの密度からイネの生産量、形状から栽培されたイネの種類(亜種や生態型)を調べることができるようになっています。最近では、さらにプラント・オパール内部に残る遺伝情報も分析できるようになりつつあります。
このように、日本をはじめ、東アジアのさまざまな地域と時代について、「当時の水田がどんな場所にどのくらいの規模で営まれ、どんなイネが栽培されたのか」を明らかにしてゆくことで、より正確な稲作の歴史を解明してゆきたいと日々研究に取り組んでいます。
さて、最後に話は変わりますが、みなさんは、大学に博物館があることをご存知でしょうか?最近は、雑誌やテレビ番組でも紹介されることがありますので、聞いたことがあるかもしれません。博物館が成立するためには、一定数(少なくても数万点)の標本(ひょうほん)が必要です。標本とは、いつ、どこで、集められたという情報を持ったモノ(分かりやすいものでは、化石、植物の葉、動物の骨など)です。研究の基本は比べることです。比べて、その違いを説明できる理由を見つける活動が研究といって良いでしょう。したがって、研究を行っている大学には、さまざま標本が長年にわたり蓄積されているので、博物館をつくる標本には困らないのです。
私が仕事をしている農業博物館は、全国でも珍しい農業をテーマにした大学博物館です。農業(農林畜水産業)に関する標本と大学の研究成果を紹介しています。プラント・オパールの研究についても展示があります。ぜひ、見学に来て下さい。みなさんのご来館をお待ちしています。