のうがく図鑑

第48巻

マサバを完全養殖する

海洋生物環境学科
長野 直樹 教授
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 マサバ(図1)は水産資源として重要な多獲性の大衆魚として知られますが、1970年代をピークにその漁獲量は減少し、漁獲サイズも小型化しています。その様な状況において、天然魚のみならず養殖マサバの需要が急増し、西日本を中心に盛んに養殖が行われています。これまでは天然で捕獲した稚魚を育てる養殖方法が主流でしたが、近年、人工ふ化させた仔魚を稚魚から親魚に育て、その親魚から卵を採って人工ふ化させるサイクルを繰り返す完全養殖技術が開発されました(図2)。

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図1.水槽で遊泳するマサバ

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図2.マサバの完全養殖サイクル

 マサバの完全養殖サイクルを確立するためには、まず雌親魚から良質な卵を採取するための技術開発が重要です。マサバの卵巣や精巣の成熟は水槽内の飼育でも進みますが、水槽内では自然に卵を産まないので最終的には性腺刺激ホルモン等の筋肉注射(図3)により卵の最終成熟を促し、自然産卵または人工授精により採卵します。人工授精では親魚の腹部をやさしく圧迫することにより卵を採集し(図4)、この卵にすばやく精子を混ぜ受精卵を採取します。採卵用の親魚には1歳~3歳のものを用い、水温が18℃から22℃になる4月から6月の間に採卵します。得られた受精卵は卵径0.9~1.0 mm で、雌親魚1尾あたり平均約50,000粒が得られます(図5)。

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図3.マサバ親魚へのホルモン投与。麻酔後、雌雄判別し、個体毎に背部筋肉へ注射する

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図4.マサバ親魚からの採卵

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図5.マサバの受精卵

 仔魚はふ化後2日齢(体長約3 mm)で口が開くので、ワムシやアルテミアといった動物プランクトンを与えます。ふ化後14日齢前後からは魚粉を主成分とした配合飼料を与えます。配合飼料の給餌後は急速に成長し、40~50日齢では体長70~80mmに達します。仔稚魚飼育の課題としては共食い(図6)の防除が挙げられ、共食いの有無により生残率は10~40%も変動します。その後、夏場の高水温や赤潮を乗り切った稚魚は約1年後に体長30 cm、体重が400 gに成長し、出荷されます。

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図6.共食いをしたマサバ

 完全養殖マサバの品質の特徴として、"脂の乗り"があげられます。天然のマサバは、漁獲時期や海域により、品質、特に脂ののりが不安定ですが、養殖マサバは、餌の成分を管理できるので、1年中一定以上の脂ののりを保つことができます。年間平均の脂質含量は20%以上です(図7)。また、生食による食中毒の原因となるアニサキスの寄生のリスクがほとんどないことも完全養殖マサバの特徴となっています。アニサキスは寄生虫(線虫)の一種で、天然海では魚類の餌となるオキアミを介して寄生することが知られます。しかし完全養殖マサバは、稚魚から出荷サイズの成魚まで人の手で管理された餌により育てられるため、アニサキスの感染経路を絶つことが可能となります。
 こうした一連の研究により完全養殖技術が確立され、研究の成果物は佐賀県唐津市で"唐津Qサバ"として出荷・販売されています(図8)。

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図7.養殖マサバと天然マサバの脂質含量

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図8.マサバの活き造り


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