研究紹介

気候変動下の社会における自然と調和した河川管理を目指す河川流域環境研究

土木環境工学プログラム糠澤 桂 准教授

河川防災における環境の位置づけ

気候変動や異常気象が叫ばれ,2021年現在,毎年のように豪雨に伴う河川の災害が頻発しています.河川管理は「治水」「利水」「環境」の3要素から取り組むことになっています.しかし,気候変動も踏まえて現実的に起こり得る洪水を予測してそれに備える「治水」に対して,「環境」は限られた調査データと検討にとどまっているのが現状です.その理由として,環境・生物の調査はコストが大きいこと,評価方法が確立されていないことが挙げられます.

防災と環境を一体的に捉えるための「水文学」

本研究室では,降雨,浸透,流出,蒸発散といった水文過程を「モデル化」する水文学の技術を河川流域の環境保全へ役立てるために研究を進めています.

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水文モデルによって,広大な河川流域の上流から下流までを対象として,降雨があった時の突発的な出水を含めて時々刻々と変化する水の動きを再現することが出来ます.さらに,研究を発展させることで,水がもたらす様々な環境変化(例えば,熱の輸送,遅い速いなど川の流れ方)を再現するとともに,気候変動や都市開発などによる影響を予測することも可能となります.

現地観測も組み合わせた,生態系の「予測」

本研究室で取り組んでいることは,河川の環境や生態系を形作る根源とも言うべき「水」の動きが再現できるようになれば,生態系の「予測」もできるのではないかということです.理屈としては,下図にあるように,生物種の水環境への選好を統計的に「モデル化」して,それを広域に拡張したり,将来の状況に当てはめたりすることになります.

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このためには,機械学習モデルや高度な数学的手法が求められますが,それ以上に重要かもしれないのは,実際の河川の現場を深く知ることと考えています.河川のフィールド調査は,ウェーダーを着て実際に川に入って水生昆虫などを採集したりします.上流から下流まで「入れる所には入る」くらいのつもりで河川流域の生物相や環境を観測します.若さと元気にあふれる学生さんの力が頼りです.
最近では,環境DNAと呼ばれる最先端の生物調査手法も取り入れています.環境DNAとは,水中に溶け込んでいる生物の皮膚片や粘液などに由来するDNAを含む物質を回収し,実験室でターゲットとなる生物種の遺伝領域を検出することで,その生物種が調査地点にいるかどうかを判定する手法です.現場で行うことは「水をくむだけ」のため,調査コストが大幅に削減され,さらには生物への影響も少なく非侵略的であるなど,多くの実務的なメリットがあります.

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最先端の知見や技術を集約して,より良い河川環境を未来に残していくことを目標に,日本のひなた宮崎にて研究開発を進めています.


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