のうがく図鑑

第74巻

「安く」「安全に」「快適に」

森林緑地環境学科
櫻井 倫 准教授

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 わたしたちの身の回りでは,多くの場所で木材,あるいは木材由来の資源が使われています。日本の住宅はその大半が木材を主な材料としていますし,毎日のように使っている紙も木材を分解して作られています。ほかにも,家具や小物,杭,また最近では再生可能エネルギー発電の燃料まで,さまざまな用途があります。

 これらの木材は,森林を伐採し,伐った木を運び出して社会に供給されています。森林・木材にはその木を育ててきた所有者がいて,木を伐って木材を運び出すために働く人(写真1)がいて,木材を運ぶ機械(写真2,3,4)が動いています。森林を所有する人,木材の生産にたずさわる人達は,木材を売ったお金から給料をもらって生活していますから,生産にかかる費用を下げて,より安全快適に木材を生産したい,と考えるのはごく自然なことです。

 私が専門とする「森林利用学」はその「より安く」「より安全に」「より快適に」を実現するため,「産業の場」としての森林を活用するためのさまざまな研究をしています。安く生産するためには,1本の木材を生産するのにかかる時間を短くすれば,1日の生産量が上がり,結果的に安く生産できます(写真5)。速く生産するためには,性能がよい機械を使えばいいでしょう。ところが,生産が速くなって安くなった費用よりも,機械を買い替えるために使った金額が高ければ逆効果です。また,伐って・集めて・加工して・運んで,とつながっている生産工程(写真6)のなかで,どれかひとつの作業,たとえば「加工」だけが速くなっても,なかなか集まらないので加工の機械がぼうっと待っている,あるいは加工したものが運ばれずにたまっていくばかり。作業全体のバランスを考えることも重要です。各工程をこなす機械が森林に入るためには道路も必要で,その道路もどれだけ作ればよいのか,建設費とのバランスを考えなければいけません。さらにはそこに,環境への影響や持続性も複雑にからんできます。一度かぎりではなく,森林があり続けるためにはただ伐りっぱなしでもダメで,「伐ったあと」「作業をしたあと」「道を作ったあと」も考えないといけません(写真7)。このように,「より安く」だけでも問題は実に複雑で,唯一無二の最適解というものは存在しません。地域の事情などを考えながら,ひとつひとつ丁寧に解き明かしていく,パズルを解くような快感がそこにはあります。

 もちろん,理論でうまく行くからといって,実際にうまく行くとは限りません。さまざまな要因で,改良や開発の効果が全くないこともあります。実際の産業を題材にしていますから,こちらの思うように進まないこともあります。ですが,協力してくれた人達に,自分なりの知識を活かして「よかった」「助かった」と言ってもらえること,これには何物にも代えがたい喜びがあります。

 のんびりした,スローライフにも見える山の仕事。実は,さまざまな学術的知見に裏打ちされた理論がはたらいています。ちょっと覗いてみませんか?写真1.png         写真2.png

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