のうがく図鑑

第45巻

組織標本の声を聴く

獣医学科
平井 卓哉 准教授

 病理学とは、病気で異常になった病変部位を目で見て(肉眼観察;図1)、顕微鏡でさらに詳しく見て(顕微鏡観察;図2~図4)、どのような変化があるのか、どのような状態なのか、原因は何か、などを論理的に読み解いていく学問です。病気になると体を構成する細胞の形や並び方が変わったり、異常な細胞が増えたりします。その細胞の種類や形の変化を顕微鏡で捉えて病気の診断をします。私の仕事は、動物の病気を診断し、病気の原因を明らかにすることです。

 
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図1 病変部の肉眼写真

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図2 病変部の肉眼写真と組織写真の合成像


 
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図3 病変部の組織写真(低倍像)

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図4 病変部の組織写真(高倍像)

 扱う動物は、イヌ・ネコ・ウサギなどのペット、ウシ・ブタなどの産業動物、イルカなどの野生動物、その他に水族館や動物園の動物など多岐にわたります。観察する組織標本は2つに大別されます。一つ目は病理解剖材料で、不幸にして亡くなった動物の死因を検証し、今後の治療や予防に活かすことを目的にしています。もう一つは生検材料で、手術で切除された組織を顕微鏡でどのような病気かを診断し、どの程度病気が進展しているかを調べます。顕微鏡で観察すると、過去に起こった変化、現在の状況、そして今後どうなるか、などが読み取れます。小さな変化を見つけ、点在する情報を結びつけていき、診断していきます。
 宮崎には産業動物が多いことから、私はブタやウシの病気を研究しています。産業動物の死因として多いのは肺炎です。病原体が経気道性に肺に侵入する場合と、血行性に侵入する場合があり、それによって肺病変の分布に違いがでてきます。また、ウイルスによる肺炎と細菌による肺炎では組織像が異なります。さらにウイルス性の肺炎に細菌性の肺炎が加わって、複雑な組織像を示すこともあります。一般的に感染症の場合、別の個体に病気が広がってしまうため、早期診断が重要です。
 動物は言葉を話せません。しかし、組織標本が語る声を聴き、丹念に調べて診断していきます。適切な診断ができなければ、適切な治療や予防はありえません。病理診断により治療や予防に役立てるのが、獣医病理医の仕事なのです。


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