のうがく図鑑

第62巻

水の動物学

獣医学科
池田 正浩

 水は水素と酸素の単純な化合物(図1)で、皆さんにとって大変身近なものです。哺乳動物の多くは、水を飲まないと一週間くらいしか生きられません。水があれば一か月くらいは食べなくても生きることができます。

 
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図1.水分子の構造.水分子は、1つの酸素原子(O)と,2つの水素原子が(H)一直線上で結合しないために、結合の極性が打ち消されずに、極性を持つ。わずかにマイナスの電荷を持つことをδ-と、わずかにプラスの電荷を持つことをδ+とそれぞれ表されている.この極性によって水分子同士が弱い結合をするために水という液体の状態になる。

 哺乳動物の体重の60%が水です。そのうち体重の40%が細胞の中(細胞内液)、20%が外(細胞外液)にあります。私たちは、哺乳動物の水管理システムについて研究をしています。
 多くの哺乳類(海や川で生活している哺乳類以外)は、水を非常に得難い陸地で生活しています。それにも関わらず哺乳動物の体重の60%が水です。いったいどうやってその水が保持されているのでしょうか?このことを理解するためには、生体の水の通り道であるアクアポリン分子のことを理解しなくてはなりません。2019年のセンター試験にもアクアポリンに関する問題がありました。
 アクアポリンとは、細胞膜に存在する水の通り道です。1992年にアメリカのAgre博士(2003年ノーベル化学賞を受賞、図2)により最初のアクアポリンが発見されました。今では哺乳動物においてアクアポリン0(ゼロ)からアクアポリン12までの合計13種類が見つかっています。この分子は、図3のような構造をしていて、水の通り道を、細胞の外と内との間などに作ります。この構造の中には巧妙な仕組みが備わっています。アクアポリン分子の壁の一部が、水分子に似た化学構造を持っているために、通るときに水分子が周りの水分子と勘違いして、アクアポリン分子の壁と結合するために、水だけが通るという仕組みです。通す速度は非常に早く、一秒間に一億個の水分子が通ると言われています。

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図2.アクアポリンの発見者であるAgre博士と筆者.中央のメダルがノーベル賞メダル

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図2.アクアポリンの分子構造.
A:通常アクアポリン分子は、4つの分子が集まって4量体を形成して細胞膜に存在する。図は、4分子のアクアポリンが細胞膜を貫通している模式図。各単量体を水分子が通過する。
B:アクアポリンのアミノ酸配列から分子シミュレーションにより立体構造を推定したもの。上から見た図。左下の単量体だけ色を変えてある。

 皆さんは、汗をかくとおしっこが濃くなることを経験したことがあると思います。このとき、脳からバゾプレシンと呼ばれるホルモンが分泌され、それが、腎臓の細胞に働きかけると、尿細管(おしっこが通る管)と細胞との間に、アクアポリン2が水の通り道を作ります(図4)。その結果、おしっこ中の水が、この通り道を通って体の中に回収されるために、おしっこが濃くなるのです。このようにバゾプレシンと連携してアクアポリン2の働きがオンオフするので、体重の60%の水分量が維持されます。
 何となくアクアポリンが水の通り道であることをお分かりいただけたと思います。この分子の働きがおかしくなると、例えば、体の中の水が失われる病気や目が乾く病気が起こったり、口の中が乾燥したりします。私たちは、ヒトや動物のアクアポリンに関する分子進化(図5)、機能、そして病気の研究をしています。皆さんが、今後の生活で、体の中の水の通り道のことを少しだけでも意識して頂けるとうれしいです。

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図4.腎臓に発現しているアクアポリン2
A:血液中のバゾプレシンが少ないときの発現状態。緑色がアクアポリン2を、青色が細胞の核をそれぞれ表している。
B:血液中のバゾプレシンが多いときの発現状態。Aに比べて緑色が濃くなっている。また、×印側の細胞膜に発現が増えている。×印のところを尿は通過する。

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図5.アクアポリン1のアミノ酸配列を基に作成した系統樹。
枝に沿った距離が短いほど、種間が近縁である確率が高い。図から、イルカはウシやブタに近いことが分かる。


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