本学科で行っている研究例
研究紹介のQ&A
いますが、具体的にどんな研究ですか?太陽光発電パネルや太陽熱温水器がよく見られますが、
どのような新しい利用方法の研究をしていますか?
何か問題があるのですか.リサイクルも機械系の研究分野になりますか.
Q:農業用機械設計もしていますか?
A:まず、機械分野は機械製造業だけではなく、医療、化学、食品、建築、健康・スポーツ等々、あらゆる分野で役に立っています。農業生産にも古来より沢山の機械が使われています。この収穫機の開発は地もとの方からの要請で開発されたもので、これまでの専用機械と異なりほとんどの根菜を収穫できることが特徴です。この機械は教員、学生と地元企業との共同作業で設計から製作しました。ミニゴボウやイモの収穫は見事にできました。
独自設計製作した汎用根菜収穫機の収穫風景(根菜なら何でも彫り上げられます)
3D-CADを用いた汎用根菜収穫機の設計と動作確認
Q:宇宙に使うエンジンでどこがすごいの?強いの?パワーがありそうですが。
A: 人工衛星など宇宙機に搭載するロケットエンジンは推進機(スラスタ)と呼ばれ,打ち上げ用のロケットエンジン(H-IIロケットのLE-7Aは1074 kN)に比べて,推力は非常に小さく範囲が広くなっています.たとえば,コウノトリ(HTV)のメインの化学推進機の推力は1機あたり500 Nですが,はやぶさの場合は,イオンエンジンが8.5 mNで姿勢制御用の化学推進機が20 Nです.宇宙空間では,摩擦や重力が無いため,微小推力でも長時間作動させてゆっくりと時間をかけることにより加速することもできます.
推進原理はどのロケットエンジン同じで高速のジェットを噴射して反作用により推力を得るのが基本ですが,ジェットの加速方法は多岐にわたります.打ち上げ用のロケットの場合,ノズルにより燃焼ガスを加速して噴射し推力を得る化学推進機が用いられています.それに対し,宇宙用のスラスタは推力が小さくても良いため,化学推進機だけでなく,プラズマを様々な電気の力によって加速する電気推進機も利用されています.以上のように,宇宙機用スラスタの推力は,打ち上げ用のロケットエンジンに比べてパワーも大きさも小さいですが,推力レベルや加速方法はバラエティーに富んでいます.
Q:宮大も宇宙用のエンジンを研究していますか?
A: 化学推進と電気推進の両方を研究しています.化学推進に関しては,液化ガス推進剤スラスタとレーザ固体マイクロスラスタを,電気推進はホールスラスタのインテリジェント化の研究を行っています.
【液化ガス推進剤スラスタ】
液化ガスを推進剤とする環境に優しいスラスタを研究しています.従来の液体推進機は,毒性が強い推進剤が使われてきましたが,私たちは,無毒な液化ガスであるN2OとDMEを推進剤とすることを提案し性能と環境適合性を両立することを目指しています.また,推進剤を気体として供給することにより液滴の蒸発を待つ必要が無くなり燃焼室がコンパクトになります.現在,提案するスラスタの推力測定を行っており,将来は,大学等が製作する超小型衛星用のマイクロスラスタ(超小型ロケット推進機)にまで発展させたいと考えています.詳しくはこちらのページを御覧下さい.
【レーザ固体マイクロスラスタ】
このスラスタでは,レーザ加熱によって固体推進機のOn/OFFとスロットリング(推力調整)を可能にします.従来の固体推進機は,構造が簡単で信頼性が高いという長所がありますが,作動のOn/Offやスロットリングが困難でした.そこで,配合などを調整して,レーザ加熱中にのみ燃焼する固体推進剤を開発し,マイクロスラスタに利用することを提案しています.これにより,作動のOn/Offとスロットリングが可能な固体マイクロスラスタを実現します.詳しくはこちらのページを御覧下さい.
レーザにより固体推進剤の燃焼制御が可能であることを示し,スラスタの設計に必要な燃焼速度を計測しています.黒い棒状の物体が固体推進剤で,レーザ光の照射と中断により燃焼を制御できていることが分かります.
スラスタの試作機の推力測定実験の様子です.透明なアクリルの中に推進剤を入れ,レーザヘッドからレーザを照射しています.レーザの照射開始と停止により共に推力のOn/Offができていることが分かります.
【電気推進】
次世代の大型ホールスラスタのインテリジェント化の研究を行っています.はやぶさのイオンエンジンのように,比推力(燃費に相当)に優れる電気推進機が人工衛星に搭載されるようになりました.現在,深宇宙探査や大型静止衛星用の大型電気推進機の研究が世界各国で活発になり,ホールスラスタが注目されています.一方で,長時間作動により推力や安定性が低下する可能性があるため,経年劣化が起きても安定性と性能を両立する必要があります.そこで,ホールスラスタの状態を計測して適切な制御を行うことにより常にベストコンディションで作動させるシステムの研究を進めています.
Q:振動ってなんですか?なぜ振動について研究するのですか?
A:振動とは,何らかの量がつり合った状態のまわりを繰り返して変動する現象のことをいいます.身近なものでは,音や地震がその例にあたります.私たちが日常使用している交流電源も電圧の振動現象に他なりません.私たちは,気づかずに様々な振動現象の中で生活しています.この振動は,機械にとって騒音や故障をもたらすたいへん厄介なものになります.とくに,非常に大きな振動を伴う「共振」という現象が起こると大事故につながりかねません.振動が起こる原因は,もとの状態に戻ろうとする「弾性」という性質と,いまの運動状態を保とうとする「慣性」という性質にあります.ほとんどすべての機械はこの2つの性質を併せ持っています.すなわち,機械にとって振動は避けることができない現象です.したがって,振動の発生を未然に防ぐ方法や,振動を低減する方法について研究することは非常に重要になります.本学科では,機械の設計・開発に役立つような新しい振動抑制技術や解析ツールの開発,さらには振動を利用して有用な仕事をする機械の開発を行っています.
鉄塔モデル(10万自由度)の振動を解析した計算結果:本研究室で開発した振動解析手法は非常に高性能であり,大規模な問題も高速に計算することができます.
人に優しい振動工具の開発
建築現場などでは,様々な手持ち振動工具が使用されていますが,工具に発生する振動が人体に伝播することによって,様々な疾病(手腕振動障害と呼ばれています)が発症することが問題となっています.この疾病を防止するためには,工具のハンドル部に生じる振動を抑制することが重要ですが,振動を利用する工具の場合,必要な振動は発生させなければなりません.本研究室では,このように相反する目的を同時に実現するために,自己同期現象と呼ばれる振動現象に着目し,手持ち振動工具への応用に向けた新しい機構の開発に取り組んでいます.
電動ハンマへの応用に向けて開発した実験装置:ピストンを取り付けた2個のDCモータを逆位相で同期回転させることで,ピストンが打撃振動している場合でも,上側のブロック(ハンドル部)を制振することができます.
Q:宮大の機械設計システム工学科には太陽エネルギーを利用する研究が行われていると聞いていますが、具体的にどんな研究ですか?太陽光発電パネルや太陽熱温水器がよく見られますが、どのような新しい利用方法の研究をしていますか?
A:地球環境やエネルギーの問題が顕在化する中,太陽エネルギーの利用が注目されています.石油や石炭などの化石エネルギーとは異なり,太陽エネルギーは使ってもなくならないで繰り返し使うことができる(再生可能),無限といえるエネルギーです.太陽エネルギーを直接利用する技術には,太陽光を電気や熱に変える太陽光発電や太陽熱温水器などがあります.しかし,従来の化石エネルギーを再生可能エネルギーに置き換えるには,まだまだ力不足です.そこで,私達は,太陽エネルギーを高効率に利用できる太陽集光・高温太陽集熱を利用する技術開発の研究に取り組んでいます.
宮大には,2012年8月にビームダウン式太陽集光装置が設置されました.この装置を使って太陽エネルギーを利用する研究が行われています.太陽光発電パネルは太陽光を直接電気に変えるものですが,ビームダウン式太陽集光装置は太陽光を集めるものです.集めた太陽光を熱に変えて,エンジンを動かして発電を行ったり,材料を溶かす太陽炉などに利用したりします.機械設計システム工学科では,太陽光を熱に変えるレシーバーと呼ばれる装置の開発,エンジンの開発,夜でも発電できるように熱を蓄えておく蓄熱装置の開発などに関する基礎的な研究を,実験やコンピュータによる解析によって進めています.また,家庭用の太陽熱温水器も太陽光を熱に変えるものですが,太陽熱温水器では水を高々数十℃までしか加熱できません.一方,宮大の装置では1000℃以上という高温まで材料を加熱することができます.材料を高温になるまで加熱することで,クリーンで高効率な発電や省エネルギー型の太陽炉といった様々な用途への利用を実現するための応用研究にも取り組んでいます.
ビームタウン式太陽集光装置の集光原理
ビームダウン式太陽集光装置は,下図のように中央にある16mのタワーに取り付けられた楕円鏡,太陽光を楕円鏡に向けて反射するヘリオスタットが重要な部品です.
ヘリオスタットというのは,太陽(ヘリオス)の光を反射して,いつも同じ場所にとどめ(スタット)ておく装置です.宮崎大学のヘリオスタットには10枚の凹面鏡を取り付けており,集光度を強くするばかりでなく反射した光が飛行機に迷惑をかけないようにも配慮されています.
一方,楕円鏡は第1焦点と第2焦点の2つの焦点があり,第1焦点を通って楕円鏡で反射された光は,第2焦点に向かう性質があります.
そこで,ヘリオスタットは太陽光が楕円鏡の第1焦点に向かうように太陽の動きに合わせて凹面鏡の向きを調整し、88基のヘリオスタットで集められた太陽光は第2焦点に集まります.第2焦点に集まった高密度の太陽光は,通常の700倍以上の強さになり,この強烈な光を熱に転換し、発電や太陽炉などに利用します.
Q: GFRPとは何ですか.何に使われていますか? GFRPで作った製品を廃棄処分するときに何か問題があるのですか.リサイクルも機械系の研究分野になりますか.
A:GFRPとは樹脂にガラス繊維を混合して作製したプラスチックのことです.プラスチック製ボートやヘルメットなど様々な製品に使われています.GFRPは「軽くて強い」という優れた性質がありますので利用価値は高いのですが,製品の老朽化などのために廃棄する際にはリサイクルが難しいという問題があります.現在,そのほとんどが埋め立てにより処分されていますので,将来の環境汚染が懸念されています.
機械設計システム工学科では「人と自然にやさしいものづくり」を教育理念として掲げています.ものづくりにかかわる技術者は,環境に配慮して製品を設計・製作し,さらにその廃棄処理方法まで考えておく必要があります.このように環境にやさしい材料の開発や廃棄物のリサイクル方法の開発も機械系分野の重要な課題の一つとなっています.
本研究室では廃棄GFRPを有効利用するという課題に対して,廃棄GFRPを粉砕し,粘土と混合して焼成することにより,高い強度を持つ多孔質セラミックを製造する方法を提案しています.現在,土木・建築用製品にこのセラミックを適用できるように研究を行っています.
Q.大きい風洞を使ってどんな問題を解決しようとしているのですか?
A.日本は台風,季節風,竜巻などの強風に襲われることが多く,外に建てられている構造物の被害が多い国です.したがって,太陽光発電システム,タワー,建物,橋梁などの構造物にかかる風による力(空気力)を正しく見積もり,十分な強度を持たせる必要があります.風洞は風を人工的に作り出す装置で,その中に構造物の小さな模型を置いて,まえもって構造物にかかる空気力を予想することができます.
Q.乱流とはどのようなものですか?乱流をどうして研究するのですか?
A.水道の蛇口を少しだけ開くと,スーッと糸を引くように流れます.ところが蛇口を思い切り開くと流れが勢いよく乱れて流れていくはずです.このように乱れた流れを「乱流」と言います.実は日常的な流れは殆ど乱流であり,風も常に乱れています.乱流の性質を知ることは,空気力を予測したりする上で非常に重要です.1世紀以上の研究者の努力にもかかわらず,乱流の性質はまだよく分かっていません.
写真(左)はマルチファン型風洞の風の 取り入れ口を示しています.99個の風を起こすモーターが並んでいます. イラスト(右)は風洞内にいろいろな構造物を置いて風から受ける力を調べる実験の様子を示しています.
Q.飛行機はなぜ飛ぶんですか? ― 流体力学から説明できます.
A.「流体」とは空気のような気体や水のような液体といったものをいい,流体が流れるときの力の関係を調べる学問分野を「流体力学」といいます.我々が今この瞬間も流体中にいるように流体はとても身近なもので,流体力学を工学的に応用(「流体工学」といいます)した例はたくさんあります.例えば,呼吸,水道,ポンプ,タービン,エンジン,自動車,新幹線,飛行機,ドローン,ロケット,船舶,気象,人工心臓など生命の維持や工業,交通,医学,環境保存,文化生活の発展にとって不可欠なものです.考えて見れば,宇宙上のすべてのものは流体かあるいは流体の中で動いているものです.
飛行機後方に現れる後流渦(©AirTeamImages)
写真のような400トンもなるジャンボ機はどうやって飛ぶんだろう?とても不思議と思いますが,これらは流体力学から説明できます.では,流体はいったいどう流れるのだろう?流れを利用するため知りたい流体の力の関係はどう分かるのだろう?疑問があって当然ですが,流れを調べるためには,風洞や水槽を使った実験,またはコンピューターを使った数値計算によって研究を行います.例えば,下の動画は水の中に置かれた円柱の周りの流れの様子を目で見えるようにした水槽実験の例です.
学部生による円柱周り流れの水槽実験結果
水や空気は透明であるので流れをうまく見ることができないが,このように流れを可視化することで円柱の後方にできた渦が上下振動しながら流れて行く様子がよく分かります.実際この渦は動く物にとっては大きい抵抗になります.つまり,飛行機が空を飛んでいる時,機体には抵抗がかかるのです.抵抗が大きければ大きいほど,それに打ち勝つ推進力を出さなければならないため,燃料もたくさん必要になります.だから,飛行機や船を設計するときには,空気や水の抵抗が可能な限り小さくなるよう抵抗を減らす工夫が重要です.また流れによる振動も悪いもので,社会的な問題を引き起こす例がたくさんあります(例えば,こちらをご覧ください©Imperial College).
そこで,本研究室では,流れが持つ様々な性質を効率よく利用し,流れの制御や流体機械・流体機器を最適に設計するための工学的応用に関する研究を行っています.風洞や水槽を使った実験,またはコンピューターを使った数値解析をとおして流れの複雑な現象とその規則性を明らかにします.
Q.流体機械って何ですか?
A.「流体機械」とは水車,風車,ポンプ,圧縮機,タービンのように流体と機械との間でエネルギーの授受を行う機械類を総称する言葉です.これら流体機械はあらゆる産業分野から家庭にいたるまで極めて広く使用されており,その性能や安全性の向上を常に要求しています.
液体ロケット用ターボポンプ(©JAXA)
写真は液体ロケットの心臓ともいえるエンジンのターボポンプです.これはインデューサ(左側)付きの2段遠心ポンプが右側のタービンにより駆動するよう設計されています.ポンプ内部の流れはとても複雑ですが,運転中相変化が起こり液体から蒸気の泡が発生するとさらに複雑になります.このように物体が液体の中を高速で動くとしばしば液体が蒸発し泡が生じます.これをキャビテーションと呼びます.これは流体機械に悪い影響を及ぼすもので,数年前に起こった日本H-IIロケット8号機の打ち上げ失敗もターボポンプインデューサで発生したキャビテーションが原因とされています.流体機械の性能改善はもとより,流体機械・機器の高効率,安全寿命設計のため,流体機械流れの挙動を明らかにするのはたいへん重要であり,産業界からも大きな関心を集めています.
コンピュータ・シミュレーションによる遠心ポンプ内部の流れ
上の動画は,コンピューターを用い解析した遠心ポンプ内部で生じるキャビテーション流れ(気・液混相流)の数値シミュレーション結果の一例です.ポンプの入口から入る吸い込み渦の挙動と全体的な流れの様子がよく分かります. このように,本研究室では,流体機械流れを効率よく解析するために数値解法の研究とコンピューター計算プログラムの開発など,流れの物理の工学的応用に関する研究を行っています.これらは流れ現象の解明および設計道具としての実用化を目指して行われ,流体工学の発展と次世代先端流体機械の設計・開発に大きく寄与しています.