のうがく図鑑

第69巻

海に宝物を見つけに行こう!

海洋生物環境学科
林 康広 准教授

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 私たちは海洋資源からの創薬を目指しています。生命は、約40億年前に海で誕生したといわれています。それに比べると、陸上生物の歴史は、まだ数億年に過ぎません。海洋は壮大なロマンと太古の歴史が刻まれた未知の資源の宝庫です。生命の長い歴史の中で忘れられた海洋資源を人類の福祉と健康に役立てて行くことが必要だと考えています。本研究室では海洋資源(動物、植物、微生物など)から生理機能活性を有する天然物を探索し、その物質の特定を行い、詳細な作用機序を明らかにしていきます。

 私が、これまでに行った薬の開発を目指した研究の一部を簡単に紹介します (図1)。中国の武漢で発生した重症急性呼吸器症候群コロナウイルス 2SARS-CoV-2)はパンデミックを引き起こしています。SARS-CoV-2 のスパイクタンパク質を介した膜融合を抑制する化合物を調べた結果、ジヒドロセラミドデサチュラーゼ (DEGS1) の阻害剤である4-HPR で処理した細胞において細胞膜融合が抑制しました。さらに、4-HPR は膜融合のみならず 臨床分離した SARS-CoV-2 感染も抑制することが分かりました。4-HPRは抗ガン剤としての臨床研究が進んでおり、肺癌、膀胱癌、前立腺癌などの臨床データおよび安全性のデータが蓄積されていることから、4-HPRは抗 SARS-CoV-2 剤として早急な実用化が期待できます。また、私たちが発見した抗SARS-CoV-2感染作用のみならず、他の研究グループらにより4-HPRCOVID-19における急性呼吸促迫症候群のサイトカインストームを抑制する機能を持つことが示唆されています。これより、4HPRは抗ウイルス剤そしてサイトカインストーム抑制剤としてCOVID-19 重症化治療への適応が期待できます。

「海洋資源の研究を人間の健康へ応用する」というテーマのもと、海洋資源からの創薬を目指します。ぜひ一緒に海に宝物を見つけに行きませんか?

 図1. 新型コロナウイルスの感染を抑制する化合物の探索 

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