のうがく図鑑

第64巻

獣医師としてウイルス感染症と向き合う

獣医学科
齊藤 暁 准教授

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 私が獣医学科でウイルスの研究をしていると言うと、「何の動物のウイルスを研究しているの?」とよく聞かれます。実は、私は学生時代(私は本学農学部獣医学科のだいぶ前の卒業生です)からずっと、人のウイルス感染症を中心に研究を続けています。
 なぜ獣医師が人の病気の研究を?と思われるかもしれません。人のウイルス感染症のワクチンや治療薬を開発する際には、マウスやサルなどの実験動物モデルにおける評価が不可欠です。この際、実験動物の生理や病理を基礎から学んでいる獣医師は重要な役割を持つと考えています。
 私の研究内容の紹介をさせていただくと、10年以上、人のエイズウイルス(HIV)の研究をしています。具体的には、HIVの動物モデルの開発に取り組んでいます。HIVは人とチンパンジー以外の動物ではほとんど増えず、人のウイルス感染症(インフルエンザや麻疹など)の実験動物としてよく利用されるサルでは全く増えないことがわかっていました。その理由は長年不明でしたが、国内外の研究者による熱心な研究の結果、約15年前に、サルで(少しだけ)増えられるHIVが作られました。といっても、まだ人での病気を完全に再現できているわけではないので、現在その改良の作業を進めています。また、2020年からは生物物理学や細胞生物学を専門とする先生とフラビウイルス(デングウイルスや日本脳炎ウイルス)についての共同研究を進めており、新しい技術、考え方にいつも刺激を受けています。
 2019年に宮崎大学農学部獣医学科に赴任してからは、動物のウイルス感染症についても研究を進めています。具体的には、牛のレトロウイルス感染を妨害する細胞性因子に関する研究を進めており、重要な家畜感染症の制御に貢献できればと考えています。また、台湾の友人との共同研究として、鳩のウイルス感染症についての研究も進めています。これらのテーマには、まだまだ解明されていないことが多く、研究室の学生さんと一緒に、毎日ワクワクしながら研究を進めています。
 さらに、本原稿執筆時(2021年8月)、全世界で新型コロナウイルス感染症が問題となっています。現在、国内の複数のグループと共同研究を進めており、新規治療薬候補の探索や、変異型ウイルスの特徴を調べる実験を行っています。
 獣医師の活躍の場は、犬や猫を中心とするペットの診療から、牛や豚など家畜の診療、保健所での公衆衛生業務、大学や企業での研究など、多岐にわたります。研究者としてのキャリアは時に厳しいこともありますが、国内外の研究者、友人との共同研究や国際学会参加など、楽しいこともたくさんあります。個人的には、2年間留学生活を送ったニューヨークでの思い出や人とのつながりは一生の財産になっています。ウイルスの研究に興味のある方は是非ご連絡ください。

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