のうがく図鑑

第65巻

心臓のエコー検査:犬、猫の心臓病の診察に必須のスキル

獣医学科
大菅 辰幸 准教授

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 私は普段、附属動物病院で犬、猫の診察を行っており、特に犬、猫の心臓病の診察を専門としています。今回は、心臓病の診察に必須なエコー検査についての話をしようと思います。

 エコー検査がどのようなものであるのかについては何となく分かるでしょうか?妊婦さんが産婦人科で胎児のエコー検査を受けるところを思い浮かべてください。胎児のエコー検査で用いられるのと同じような機器(心臓用に特化していますが)を使って、私たち獣医師は犬、猫の心臓のエコー検査を行っています(図1)。エコー検査では、プローブと呼ばれる器具を胸に当てて心臓に対して超音波を送ります。すると、反射現象により心臓から超音波が返ってくるので、その超音波をプローブで収集することにより心臓の形や動きを画像化します(図2)。

 心臓病の診察においてエコー検査を行う主な目的は、①心臓病の診断(どのような種類の心臓病に罹っているかを判断すること)と②心臓病の重症度評価(どれくらい病気が重症なのかを判断すること)です。心臓病の診断や重症度評価を行うことで、「どのような治療法が必要になるのか?」や「この後どれくらい生きることができるのか?」といったことが判断できます。

 昔は心臓病の診断や重症度評価のために開胸手術や心臓カテーテルが第一選択として行われてきました。しかし、これらの検査法は身体への負担が大きく、検査自体が動物の生命を危険にさらす可能性もあります。また、これらの検査法に要する費用は高額です。現在は、エコー検査の普及により身体への負担や金銭的負担を最小限にしながら心臓病の診断や重症度評価を出来るようになりました(図3)。

 私は日々犬、猫の心臓病の診察を行いながら、犬、猫の心臓病の重症度評価における心臓のエコー検査の有用性の向上を目指して研究も行ってきました。心臓のエコー検査では色々な"エコー指標"を計測して心臓病の重症度を評価します(例:左心室の容積は何mL?)。私は、ヒトで用いられているエコー指標を犬の心臓病に新たに応用して、そのエコー指標が今まで犬の心臓病で用いられてきたエコー指標よりも正確に「この後どれくらい生きることができるのか?」を予測できることを明らかにしました(図4)。

 今後も心臓のエコー検査に関する研究を続けていき、「皆が使っていて教科書にも載っているあのエコー指標は宮崎大学の大菅先生が有用性を確立したんだよ」と言われるようになりたいです。

1 猫に対して心臓のエコー検査を行っているところ。図1.jpg

2 健康な犬の心臓のエコー画像。左心房、左心室、右心房、右心室を観察しています。図2.jpg

3 僧帽弁疾患の犬の心臓のエコー画像。僧帽弁とは左心室と左心房の間にある弁のことで、僧帽弁疾患は犬で最も多い心臓病です。僧帽弁が変性することにより起こる左心室から左心房への血液の逆流(僧帽弁逆流)が赤、青、黄、緑が混ざったモザイク状のシグナルとして観察されます。図3.jpg

4 私の研究結果の一つ(Osuga T, et al. J Vet Intern Med, in press)。僧帽弁疾患の犬において、左心室と全身の動脈の"相互関係"(左心室-大動脈カップリングといいます)をエコー検査により評価したところ、"相互関係"が悪いと"相互関係"が正常な場合よりも早期に亡くなってしまうことが明らかになりました。図はカプラン・マイヤー曲線と呼ばれるもので、"相互関係"が悪い場合と正常な場合にそれぞれどのようなペースで僧帽弁疾患の犬が亡くなっていくかを示しています。図4.jpg


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