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トップ のうがく図鑑 獣医学科 病気の探偵 ― 顕微鏡から見える動物たちのメッセージ ―
第77巻
 
2026.08.04 掲載

病気の探偵 ― 顕微鏡から見える動物たちのメッセージ ―

獣医学科
福家 直幸 助教

皆さんは、「病理学」という学問を知っていますか。

病理学とは、病気によって動物の体の中で何が起こっているのかを調べ、その原因や仕組みを明らかにする学問です。

私は獣医病理学を専門に、動物の病気を研究しています。病理学者の仕事は、いわば「病気の探偵」です。動物たちが体に残してくれた変化を手がかりに、病気の原因や進み方を一つ一つ解き明かしていきます。

動物は、「どこが痛いのか」「いつから苦しいのか」を言葉で伝えることはできません。しかし、病気になると体の中にはさまざまな変化が残されます。臓器を観察し、顕微鏡で細胞を詳しく調べることで、病気の正体に少しずつ近づくことができます。病理学の面白さは、目には見えない病気の仕組みを、細胞の小さな変化から読み解いていくところにあります(図1)。

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図1 顕微鏡を覗く筆者(右側)と学生(左側)

私が研究している病気の一つが、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)です。

SFTSは、マダニが媒介するウイルスによって引き起こされる感染症です。

人だけでなく、猫や犬などの動物にも感染し、特に猫では重症化して命を落とすことがあります。また、感染した動物から人へ感染した事例も報告されており、人と動物の双方の健康を守るうえで重要な病気として注目されています。

これまでの研究から、SFTSでは免疫細胞の働きに異常が起こることや、血液中の血小板が減少すること、さらに免疫反応が過剰になることで体に大きなダメージが生じることなどが分かってきました(図2)。

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図2 SFTS発症猫のリンパ節
本来は丸く整ったリンパ濾胞が壊れ、その周囲に通常より大きなリンパ球が多数現れている。左下の黒いバーは100μmを示す。

しかし、同じウイルスに感染しても、重症になる動物もいれば回復する動物もいます。なぜそのような違いが生じるのか、なぜ一部の動物では命に関わるほど重い症状になるのかなど、まだ多くの謎が残されています。

私は、その謎を解くために、病気になった動物の臓器や細胞を詳しく調べています。顕微鏡による観察だけでなく、特殊な染色や分子生物学的な手法を組み合わせることで、ウイルスが体のどこで増殖し、免疫細胞がどのように反応しているのかを調べています。その結果、ウイルスは免疫をつかさどるBリンパ球で増えることがわかりました(図3)。

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図3 SFTS発症猫の脾臓組織

SFTSウイルスの遺伝子を可視化した画像。茶色の点はウイルスが存在する場所を示す。左下の黒いバーは25 μmを示す。

一つ一つの発見は小さいかもしれません。しかし、その積み重ねが病気の仕組みの理解につながり、新しい診断法や治療法、さらには予防法の開発へとつながっていきます。

また、動物の病気を研究することは、動物だけのためではありません。人と動物は同じ環境で暮らし、共通する感染症に直面することがあります。だからこそ、動物の健康を守ることは、人の健康を守ることにもつながります。

私たちは、動物たちが残してくれた小さな「証拠」を丁寧に読み解き、病気の原因や仕組みを明らかにすることで、動物と人がともに健康に暮らせる未来を目指して研究を続けています。

顕微鏡の向こうには、まだ誰も知らない発見が待っています。その小さな発見が、未来の動物医療、そして人の健康を支える大きな一歩になるかもしれません。