偶然の出会いが導いた植物のデジタル3D計測
私は最初から植物に興味があったわけではありません。むしろ中学から高校の頃(1990〜1995年)、興味があったのはコンピュータでした。当時はインターネットが広く普及する前の時代で、自分でプログラムを入力して動かすことが楽しく、工学系に進学することを考えていました。ところが、色々と悩みながら進んだ先は農学部。生物や化学に取り組む中で、気づけば「工学的手法を活用した農学研究」に取り組んでおり、自分でも不思議に感じています。
日本シバとの関わりも偶然から始まりました。もともとは植物に含まれる有用物質に関する研究をしていましたが、機会を得て2014年から日本シバ(Zoysia属)の全ゲノム解析を行うプロジェクトに参加しました。この経験をきっかけに、日本シバの形態的な多様性や育種研究に取り組むようになり、「いかにして形質を安定的かつ客観的に測定するか」という課題に直面しました。その時、これもタイミング良く取り組むことになったのが、デジタル3Dモデルを活用した形態計測技術の開発です。
この技術は、まず植物をさまざまな角度から撮影し、写真から3Dモデルを自動で組み立てる技術を使い、コンピュータ上で3Dモデルとして再構築します。そこから、高さ、葉の広がり、体積、色合いなどを非破壊で数値化する技術です。従来の「定規で測る」方法では限界がありましたが、デジタル技術、最近ではAIも活用することで、わずかな違いや成長の過程を詳細に捉えることができるようになりました。まさに農学と工学の融合が生み出した新しい手法と言えるでしょう。
この研究の面白さは、データから植物の姿が見えてくるところにあります。手計測ではわからなかった特徴が浮かび上がり、これまで気づかなかった発見につながります。現在は、シバだけでなく、イネやダイズ、牧草などにも適用範囲を広げています。さらに、このデータを活用して、農場や牧草地での計測にも活かせないか、挑戦しています。まだ思い通りにいかないことも多いですが、持続可能な放牧草地や食料生産の未来を支える目標に向けて、一歩一歩取り組んでいます。
私自身、コンピュータ好きから出発し、偶然の重なりの中で今ではすっかり植物、特に牧草として使える植物の育種などの研究に取り組んでいます。目標に向かって一途に努力することはとても大切ですが、時には流れに身を任せてみると、思いがけない出会いや発見により新しい未来が待っているのかもしれません。

図1 Apple Campusと初代Macintosh
好きすぎて、スティーブ・ジョブズがCEOだった時代に聖地巡礼(左)。国立アメリカ歴史博物館に展示されている初代Macintosh(右)。

図2 本学事務局棟前ロータリーの芝生
世界で初めて全ゲノム解析を行った際に使われた系統の一つ。
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図3 植物体全周囲撮影装置と撮影した写真から再構築したデジタル3Dモデル
ポットで栽培した植物体(左)を全周囲から写真を撮影し(中央)、その写真を元にしてコンピュータで再構築したイネとダイズのデジタル3Dモデル(右)。