羽ばたいた事業

入江正和教授の写真 入江 正和
農学部
畜産草地環境科学科
教授
共同研究・特許・応用分野など
  • 畜産の発展や振興に寄与する様々な研究成果を上げることを目的としています。

研究テーマ

エコフィードで作られた高品質な地域特産畜産物

連携先:(有)観音池ポーク、永田種豚場(株)、都萬牛生産グループ、宮崎県(畜産試験場、行政、産業支援財団)

研究概要

1.連携のきっかけ・必要性

 わが国は世界一の食料輸入国である一方で、食料供給量の1/4を廃棄しています。また家畜飼料の輸入も多く、このことが食料自給率の低下、畜産経営の不安定要因になっています。利用されない食品や製造副産物を家畜の飼料化にすることができれば、畜産経営に役立つだけでなく、食糧問題、環境問題(廃棄食品の焼却処理問題だけでなく、飼料輸入に伴う燃料石油の消費や、窒素やリンなどミネラルの蓄積など)の対策にもつながります。さらに一歩進めて、地域飼料資源を用いて畜産物の高品質化を図ることができれば、コスト競争では勝てないわが国畜産にとって意義あるものになります。そこで、産官学連携で様々な取り組みをはじめました。

2.具体的な内容

1)わが国コンビニ業界最大手であるセブンイレブン、処理業者、生産者と組んで、弁当類の調理残渣を乾燥処理して(プラスチック類の焼却時の廃熱利用)エコフィードを作り、その添加量や給与期間が、豚の発育や肉質に及ぼす影響を調査しました。その結果、コスト削減に成功するともに、高品質な豚肉を生みだすことに成功しました。なおエコフィードはコンビニ業界初の試みで、そのモデルケースにもなりました。また(有)観音池ポークはその優れた取り組みで九州農政局や県から賞を受けました。
2)焼酎粕は大量に廃棄物として出され、以前は海洋投棄されていました。焼酎粕は飼料価値があり、その特性を活かした高品質豚肉を生産することに産学(永田種豚場(株))で取り組みました。沖縄県のブランド豚(アグー)を利用した肉質試験にも並行して取り組み、きわめて高品質な豚肉生産「南の島豚」に成功しました。この豚肉は東京や大阪の有名店等でも高価で販売され、その後、口蹄疫で市場から消えたのですが、「代わるものがない」という流通・消費者からの熱い要望から、いち早く復興しました。
3)口蹄疫は大きなダメージでしたが、都萬牛生産グループは、その被害からの復興の中で、いままでの霜降り牛肉とは違った、消費ニーズに合った赤身寄りの和牛肉生産を行いはじめました。生産者達の熱意を受け、学からの協力がはじまりました。美味しい牛肉を作るためには、餌にこだわることが必要で、地域に豊富な焼酎粕や米ぬかといったエコフィード、さらにお茶や飼料稲まで積極的に取り入れました。その結果、二年がかりで生産者直販にまでこぎつけ、多くのファンが生まれつつあります。

3.現在までに得られている成果

①霜降り豚肉の作出技術
廃棄パンを餌として多く与えると霜降りになるということは既に以前に私たちが発見していたのですが、その量が多くなると、発育が悪くなりました。そこで、試験によって最適な量や給与期間を明らかにし、実用化に結びつけました。さらに、最近はパンを用いなくても栄養成分を調整すればよいことがわかってきました。アミノ酸インバランス法やカロリーアップ法という新たな方法を考案したのですが、これら技術はエコフィード利用者だけでなく、わが国養豚農家全体の福音にもなる成果と思われます。
②焼酎粕などの利用と地域特産物の作出
焼酎粕は家畜の嗜好性もよく、蛋白質に富むことから、発育に好ましい飼料であることがわかりました。さらに焼酎粕は豊富にビタミンEを含んでおり、それらは畜産物中に蓄積し、変色、風味劣化や保水性低下を抑制することがわかりました。この技術等を利用して生み出された銘柄豚が「南の島豚」や「都萬牛」です。さらに南の島豚では遺伝による肉質への影響が調査され、都萬牛では他にも様々な地域資源飼料が活用されています。

4.今後の展望

①エコフィードを活用した特産畜産物の品質特性とその制御、加工品の開発
 私たちが開発した霜降り豚肉の作出技術は、エコフィードの利用にブレークスルーを与えましたが、その詳しいメカニズムはまだわかっていません。新たなエコフィード資源をも活用しながら、その研究を進展させたいと思っています。
 また、都萬牛では経産牛を活用していますが、経産牛肥育は確立しておらず、さらに低コストで十分な肉量をとれるような飼料設計を進めてゆきたいと思っています。また今まで和牛といえば脂肪交雑の研究が中心であったわけですが、赤身の重要性にも着目し、その品質向上を図る研究に着手しています。さらに、新規加工品の開発も計画しています。
②エコフィードの普及と展開
 九州ではエコフィードはまだまだ伸びる余地があります。今後の利用法も含めた様々なエコフィードの展開が必要だと思います。また研究室の学生達はエコフィードに興味を持ち,チャレンジプログラムという本学事業を通じて、自ら積極的に普及活動しています。

メッセージ・インフォメーション

  以上は宮崎発の地域ブランドですが、いずれもマスコミで紹介され、全国でも有名な存在になりつつあります。これらはモデルケースであり、他の生産者や食品業界の方々も是非見習って頂きたいと思います。今後の畜産の一つの活路として、地域資源を活用し高品質な畜産物を作り、さらに生産者の顔を出して流通・消費とつながっていくことがとても重要なことだと思います。

関連リンク

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