地域の芽

竹下伸一先生の写真竹下 伸一
農学部
森林緑地環境科学科
准教授
共同研究・特許・応用分野など
  • 棚田の多面的機能や,棚田特有の気象環境の解明,水稲の高温障害対策 技術開発など,地域の発展に資する研究の進展に努めていきます。

研究テーマ

人の営みが作り上げた美しい景観の歴史的な価値を再評価
~次世代を担う新たな米作り基地としての棚田へ~
連携先:日南市

研究概要

1.連携のきっかけ・必要性

 日南市に「坂元棚田」と呼ばれる美しい石垣が規則正しく並ぶ棚田があります。一般に、棚田と呼ばれる光景は、等高線に沿った不整形な小さな水田が並ぶものですが、「坂元棚田」は写真のように全く異なる構造をしています。私たちは、この棚田が築かれるに至った歴史的背景とそこに用いられた土木技術、農業水利技術などに興味を持ち総合的な調査を始めました。さらに、稲作を巡る新しい問題が注目される中にあって、米の生産場としての棚田の特徴についても、研究を進めています。中山間で農業を営む地域の経営環境は厳しさを増すばかりです。再評価された棚田の価値が、新しい地域の魅力となって、地域再生の分岐点になることが期待されています。

石垣が並ぶ坂本棚田

●石垣が並ぶ坂元棚田

2.具体的な内容

 日南市教育委員会と共同で「坂元耕地整理組合関係文書」を調査し、明治大正期の土地改良耕地整理に関する文書や、宮崎県土地改良史などと照らし合わせながら、当地に棚田を造成するに至った背景やその設計思想を整理しました。さらに、現在残っている田んぼの区画や石垣の特徴などを「坂元棚田保存会」や「やっちみろかい酒谷」の方々と協力しながら、調査を進めて整理しています。
 最近、夏の高温によってお米の品質が低下する問題が発生しています。けれども、棚田のある中山間地は、昼間温かく夜涼しいという気温環境に加え、利用している山からの水が冷たいこともあって、高温による品質低下が起こりにくいと考えられるようになってきました。そこで、宮崎県内の他の産地と温度環境やお米の品質を比較して、それを確かめる研究を進めています。

坂本棚田の特等的な区画

●坂元棚田の特徴的な区画

不整形な棚田の区画

●不整形な棚田の区画

 
3.現在までに得られている成果

 坂元棚田は、大正14年に設計され、昭和3年着工、昭和8年完成しています。調査の結果、この棚田には、明治・大正から昭和初期にかけての、わが国の耕地整理のコンセプト、当時の近代化農業の姿がそのままの形で残されていることがわかりました。農地でありながら近代化遺産としての側面をも持つ貴重なものであることから、これらの調査結果をまとめ2012年12月にシンポジウムを開催しました。さらに日南市が調査結果と保存計画を併せてまとめ、宮崎県内初の重要文化的景観として文化庁へ申請しました。2013年6月21日に文化審議会の答申を受けましたので、夏には登録される見通しとなっています。
 お米の品質を調べた結果、坂元棚田産の米は、他産地に比べて良質で、食味も良いことが明らかにされつつあります。とくに高温障害による品質低下の割合が低いことがわかってきました。

シンポジウム

●シンポジウム

4.今後の展望

 地球温暖化が進行し多くの地域で暑さがお米の品質を低下させている中、棚田はその低温な環境がかえって良いお米を生み出す地域として再認識されはじめています。しかし、棚田産のお米の品質には、田んぼ間で大きなばらつきがあります。棚田で安定して美味しいお米を作るために必要な条件等を明らかにし、これを技術としてまとめ、普及させることが大事だと考えています。

棚田産のお米

●棚田産のお米

メッセージ・インフォメーション

 今、地域の方々は、重要文化的景観への登録をきっかけに、坂元棚田の価値を広くアピールし、多くの方々に注目してもらえる地域作りを行っていこうとしています。私たちは、景観としての棚田だけではなく、本来の姿である米作りの場としての棚田を維持することこそが、本当の意味での景観の保全と地域の発展に繋がっていくと考えています。今後も連携を強めて、そのサポートをしていきたいと考えています。

関連リンク

その他の研究紹介、卒論・修論紹介