地域の芽

伊藤 哲
農学部
森林緑地環境科学科
教授
共同研究・特許・応用分野など
  • 低コストな木材生産と環境保全を両立させる森林管理を目指しています。

研究テーマ

郷土の重要な山城史跡の保存と利活用
-穆佐城跡整備保存計画の立案-
連携先:宮崎市教育委員会文化財課

研究概要

1.連携のきっかけ・必要性

 宮崎市高岡町の穆佐城(むかさじょう)跡は、宮崎の中世を代表する日向三高城のひとつです。今でも大規模な城の全容が良好な状態で保存されており、平成14年3月には国指定史跡に指定されています。しかし、城跡の多くが荒れた人工林で覆われるなど、重要史跡としての今後の保存や利活用の面では多くの問題がありました。そこで、当時の高岡町は用地を買い取り、教育委員会(現在は宮崎市教育委員会)に「穆佐城跡保存整備専門委員会」を設置して、山城の保存や利活用の方法を検討してきました。その一環として、平成18年度に宮崎市から「穆佐城跡立木管理活用調査」の受託を受け、宮崎大学農学部で城跡の立木管理整備計画を立案することになりました。

 山城史跡の管理についてなぜ大学の農学部に調査を委託するのか? そこには複雑に絡む様々な問題がありました。
 まず、自然の地形を生かして敵の攻撃から防御していた山城は、山体の形状(地形)そのものに史跡としての大きな価値があります。したがって、地形を壊さないことが史跡保存の第一の目的になります。また、これを利活用する上では、①「曲輪(くるわ)」と呼ばれる小台地上の地形を山城の外側から見て確認できること(外部からの視認性)と、②史跡見学者が安全にかつ地形を壊さずに見学できることが必要です。しかし、荒れた人工林は景観的にも悪く、また放っておくと台風などで根こそぎ倒れることによって、大事な史跡の地形を壊してしまうおそれがありました。
 では、荒れた人工林を伐採すればそれでよいかというと、そう簡単でもありません。急な斜面に樹木がなければ、斜面が崩壊したり表層の土壌が侵食を受けたりすることで、やはり史跡が破壊されてしまいます。とくに穆佐城は、シラスと呼ばれる崩れやすい火山灰土壌が地面を厚く覆っており、取り扱いが非常に難しい場所です。また、一部には地元の方々が大事にしているイチイガシの巨木等も林立しており、これらは史跡の一部として保存することも必要でした。
 さらに難しいことに、史跡の周辺には民家が多く存在し、この山城の麓から湧き出す水を利用しています。安易な樹木の伐採は周辺への災害や湧水の利用にも影響を与えるため、きめ細かい調査や、科学的データに基づいた多面的な検討を行う必要がありました。

2.具体的な内容

 調査の依頼を受け、私たちはまず、穆佐城域の地形、植生、表土の侵食状況等を詳細に調査し、その結果と宮崎市文化財課から提供された曲輪等の史跡情報を地理情報システム(GIS)と呼ばれるコンピュータのシステム上でデータベースとして統合しました。次に、このデータベースを用いて、斜面の崩壊・土壌侵食の危険度や、外部からの視認性、活用できる樹木群、風倒の危険のある樹木群、自然林の再生可能性といった多面的な視点から、穆佐城を評価し、管理計画を立案するために城跡を管理の目的ごとに分割する“ゾーニング”を行いました。その結果、荒れた人工林を伐採して外部からの視認性を高める場所や、土木・緑化工学的手法で地面を安定させるべき場所、歩道等を整備して内部見学に活用すべき場所等を設定することができました。また、それぞれの場所について、整備後の植生管理の方法等についても具体的に提案しました。

3.今後の展望

 この調査結果の報告後、さらに「穆佐城跡保存整備委員会」で検討を重ね、現在ではこの調査結果に基づいて、史跡の整備や立木の管理が進められています。同時に、宮崎市文化財課による埋蔵遺跡(建物遺構など)の調査も進められており、穆佐城の全容が明らかになる日もそう遠くはなさそうです。また、佐土原城跡など他にも国指定の山城遺跡が存在しており、これらについても今後の立木管理を含めた史跡保存整備が検討されています。

メッセージ・インフォメーション

 この調査がきっかけとなって、地域の史跡に興味を持つようになりました。調べてみると、古くは古墳時代から近世まで、宮崎や日本の歴史を大きく動かした重要な史跡が身近なところに多く残っています(詳細は末尾に記載した宮崎市「生目の杜遊古館」のホームページを参照)。同時に、ここ数十年の里山の放棄や衰退に伴って荒れてしまい、適切な植生管理が必要な場所もあるようです。私の研究室や学科が対象としている「みどり」は人間生活に様々な恩恵を与えてくれますが、場合によっては放っておくと始末の悪い結果をもたらすこともあるようです。今後も可能な限り、地域の「みどり」を適切に管理するための研究に取り組んでいきたいと思います。

関連リンク

その他の研究紹介、卒論・修論紹介