地域の芽

石井先生の写真 石井康之
農学部
畜産草地科学科
教授
共同研究・特許・応用分野など
  • ネピアグラスのバイオ燃料利用の研究にも着手しています。

研究テーマ

暖地型牧草矮性ネピアグラス栽培による耕作放棄地等の放牧利用の推進
連携先:宮崎県畜産試験場、宮崎県営農支援課、中部および東臼杵南部農林振興局(農業改良普及センター)

研究概要

1.連携のきっかけ・必要性

 宮崎県の肉用牛は,約8千戸の生産者により約25万頭が飼養され,本県畜産業の根幹を支えています。特に約8万頭の繁殖雌牛(母牛)から毎年約6万頭の子牛が出荷される肉用繁殖牛経営にとっては,飼料コストの低減と粗飼料(生草、サイレージ《主として乳酸発酵させた牧草》,わら類等)の自給率の向上が所得向上に有効な手段です。しかし,繁殖牛経営では就農者の高齢化・後継ぎ不足,中山間地域の立地による優良農地の不足,青刈飼料作物(生育途中で刈り取り,生のまま家畜に給与する目的で栽培されている作物)への獣害発生などの諸事情により,従来からの自給粗飼料生産が困難となっています。
 一方,地球温暖化の進行により,夏期に旺盛な成長を示す暖地型牧草の本県への普及が熱望されています。暖地型牧草の矮性(普通種に比べて草丈が低い)ネピアグラスは1980年代にアメリカ・フロリダ州で育成され,1996年に宮崎大学に導入され,栽培特性,放牧適性,南九州各地(熊本,長崎,鹿児島,大分各県)への適応性などの検討を進め,本県低標高地域に立地する繁殖牛経営にとって好適な特性を有することが明らかとなりました。
 本牧草の増殖は,サトウキビなどと同様の栄養茎繁殖(種子ではなく栄養器官である茎から次の世代の植物を増やすこと)ですが,セル‒トレイ(野菜等の苗を育てるためのくさび形のポットが連結したプラスチック製のパネル)を用い晩秋に増殖する手法を確立し,宮崎県内各地への普及に道筋が付けられました。また,県内でも果樹や桑などの樹園地が中山間地域を中心に耕作放棄され,里山の荒廃を招き,イノシシ,シカなどの獣害を助長する側面も指摘され,これら農地の有効活用が必要となっています。

2.具体的な内容

 耕作放棄農地では事前に繁殖雌牛の放牧により前植生を被食・被圧させた後(図1),通常5~6月に矮性ネピアグラスの栄養苗を1本/m2の栽植密度(a当たり100本)で移植しています。移植後1か月間隔で2回畦間の除草と施肥を行い,矮性ネピアグラスの初期成長を確保することが肝要で,雑草防除に配慮すれば,移植3か月後には草高(自然の高さ)1.2~1.3 mに達し,放牧利用を開始できます(図2)。
 ネピアグラスは株型の牧草であるので,過剰に被食されると再生できないダメージを受けてしまいます。そのため,連続した放牧は行わず,草高30~40 cmまで被食させた後には退牧(放牧を中止)し(図3),その後,施肥管理を行って,草高が再び所定の高さに達したら,晩秋に再度放牧(輪換放牧)をします。
 暖地型牧草は降霜で葉が枯死するため,冬季には寒地型牧草のイタリアンライグラスを追播(追加の播種)することにより,春季に短期間の放牧利用が可能です(図4)。矮性ネピアグラスは宮崎県内の低標高地では越冬できるため,2年目以降は年間3~4回の輪換放牧が可能で,適切な施肥・放牧管理を行えば,造成当年から耕作放棄農地を自給粗飼料生産を行える放牧草地に改良できます。

図1~4
3.現在までに得られている成果

 宮崎県内2か所(宮崎市高岡町の果樹園跡地;図5,日向市美々津の桑園跡地;図6)に,矮性ネピアグラスの栄養苗を,2013年6月上旬に750本および550本移植・造成し,晩夏に肉用繁殖雌牛の放牧に供しました。また,今年度には宮崎県畜産試験場での圃場試験(図7)に栄養苗を200本,宮崎市佐土原町(図8)および南那珂管内の繁殖牛生産者に,各々栄養苗100本を供給しました。

図5~8
4.今後の展望

 宮崎県中央(宮崎市高岡町),県北(日向市美々津),県西(畜産試験場)および県南(南那珂)に本年度造成した矮性ネピアグラスの草地および放牧管理を,適切に実施できるように助言等に努め,来年度以降はこれら放牧地の拡張と周辺生産者への普及を推進したいと考えています。

メッセージ・インフォメーション

 本記事に興味を持たれた生産者,農業改良普及員ならびに試験研究機関の方々からのご連絡をお待ちしております。石井康之(Email: yishii◆cc.miyazaki-u.ac.jp)※◆を半角@に変更してお送りください。

関連リンク

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