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2024年度宮崎大学学生農学特別賞(研究部門)表彰式を開催しました

令和7220日(木)、宮崎大学農学部では、農学分野における顕著な研究業績を残した学生を表彰する宮崎大学農学部表彰式(研究部門)を開催しました。

本制度は、学部学生および大学院生の研究意欲向上を図るともに、宮崎大学の研究成果の国際発信力を高めるため、国際的に評価の高い学術誌等に論文を掲載した学生を顕彰するものです。

3年目となった今年度は10名が選ばれ、國武久登農学部長からお祝いの言葉が述べられた後、賞状と記念品が授与されました。受賞した学生の皆さんおめでとうございます。今後より一層のご活躍を期待しています。

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農学部創立100周年記念特設サイト:https://www.miyazaki-u.ac.jp/agr100th/

のうがく図鑑:https://www.miyazaki-u.ac.jp/agr/books/

受賞者の論文とコメントを紹介:2024年度宮崎大学学生農学特別賞(研究部門)受賞のことば

各受賞者の論文概要

・氏 名:椎 槙子

論文名:Effects of fertilization of male gametes with heavy-ion beam irradiation on embryo and endosperm development in Cyrtanthus mackenii

受賞論文の発表誌名等:CYTOLOGIA, Vol.89(2), p.133-139

ヒガンバナ科キルタンサスの花粉に重イオンビームを照射すると、染色体の分配異常により非還元性の雄性配偶子が形成することが報告されている。本研究では、重イオンビームとしてアルゴンイオンビームを花粉に照射し、授粉後の種子発達過程を調査した。照射花粉由来の雄性配偶子が受精した結果、正常な胚および胚乳形成に加えて、胚を形成しないが胚乳のみを形成する異常胚乳形成や巨大胚乳核形成を誘導することが明らかになった。異常胚乳および巨大胚乳核の誘導効率は、以前に報告のあった炭素イオンビームに比べ高く、低線量照射で誘導可能であることが示された。従って、アルゴンイオンビーム照射花粉は、重複受精時のDNA損傷応答の研究に有用である。さらに、アルゴンイオンビーム照射雄性配偶子の受精に由来する胚(受精卵)と胚乳は、多様なDNA量を持つことから、新たな育種法としての利用が期待される。

・氏 名:根井 俊輔

論文名:Lactiplantibacillus plantarum 06CC2 Enhanced the Expression of Intestinal Uric Acid Excretion Transporter in Mice

受賞論文の発表誌名:Nutrients, Vol.16(17), p.3042

Lactiplantibacillus plantarum 06CC2(LP06CC2)は、尿酸(UA)やインドキシル硫酸(IS)などの物質を体外に排出するABC輸送体Gサブファミリー2ABCG2)の腸内発現を促進する可能性がある。高プリン体食を与えたマウスにLP06CC23週間摂取させたところ、小腸でのABCG2発現が増加し、大腸でも発現増加傾向が見られ、LP06CC2による腸内排泄輸送体ABCG2の発現増加が示唆された。全体として、LP06CC2の投与により糞中の尿酸排泄が増加し、ISの排泄も増加傾向を示したことから、LP06CC2の投与が腸管ABCG2の発現を高め、尿酸および他の物質の腸管からの排泄を促進する可能性が示唆された。

・氏 名:竹口 徹

論文名:Koji Mold-derived Lipids Disrupt the Intracellular Redox State by Decreasing the GPx4 and Intracellular Glutathione Levels, Promoting Membrane Lipid Peroxidation, and Inducing Ferroptosis in HL-60 Cells

受賞論文の発表誌名:Journal of Oleo Science, Vol.73(7), p.991-999

本研究では、数種の溶媒を用いて麹菌由来抽出物のがん細胞致死活性を評価した。麹菌脂質抽出物(KML)はヒト白血病細胞株に対して強力な細胞毒性を示した。KMLをシリカゲルクロマトグラフィーで分画した結果、フラクション(Fr.)6に活性成分の存在が明らかになった。Fr.6の細胞毒性作用は、フェロスタチン-1SRS11-92、鉄キレート剤デフェロキサミンによって阻害されたが、興味深いことにフェロトーシス阻害剤はKML誘発細胞死を防ぐことができなかった。Fr.6はグルタチオンペルオキシダーゼ4GPx4)の発現を減少させ、過酸化細胞膜脂質のレベルを増加させた。さらに、Fr.6は細胞内のグルタチオンレベルを低下させた。以上の結果から、KMLに含まれるFr.6HL-60細胞にフェロターシスを誘導することが示唆された。

・氏 名:山本 樹奈

論文名:Accumulation and Phagocytosis of Fluorescently Visualized Macrophages Against Edwardsiella piscicida Infection in Established mpeg1.1Transgenic Japanese Medaka Oryzias latipes

受賞論文の発表誌名:Marine Biotechnology, Vol.26(4), p.658-671

エドワジエラ属(Edwardsiella)のような細胞内寄生細菌は、マクロファージ内で生存し増殖することができる。しかし、宿主マクロファージの免疫応答や病原体の回避戦略に関する詳細なメカニズムは依然として明らかにされていない。この分野の研究を進展させるために、蛍光で視覚化されたマクロファージを持つトランスジェニック(Tg)メダカ(Oryzias latipes)を作製した。マクロファージのマーカーとして、メダカのさまざまな組織で主に発現しているマクロファージ発現遺伝子1.1mpeg1.1)を選出した。蛍光標識された細胞のマクロファージとしての形態的特性を確認するため、May-Grünwald Giemsa染色およびペルオキシダーゼ染色を行なった。その結果、標識細胞は単球/マクロファージ様細胞に一致する形態学的特徴を示し、ペルオキシダーゼ活性は陰性であることが確認された。また、共局在解析により、蛍光標識細胞が感染したメダカ幼魚の腸や腎臓でE. piscicidaと共局在し、これが貪食を介した細菌の取り込みを示していると推察した。さらに、セルソーターにより分取された標識細胞はマクロファージマーカー遺伝子を発現していたが、好中球マーカーは発現していなかった。これらの結果から、Tg[mpeg1.1:mCherry/mAG]メダカの蛍光標識細胞は単球/マクロファージであり、マクロファージによる細菌感染メカニズムを理解するための将来的な研究に役立つことが示唆された。

・氏 名:古川 涼悟

論文名:Dynamics of the thymic transcriptome at stages of acute thymic involution in Japanese Black calves with a poor prognosis

受賞論文の発表誌名:The Veterinary Journal, Vol.307, p.106225

子牛の廃用例の多くは胸腺急性退縮を伴っている。子牛の胸腺急性退縮に伴う胸腺トランスクリプト―ムの変化を明らかにするため、予後不良と診断され剖検された子牛の胸腺に対しDNAマイクロアレイ解析を行った。様々な急性退縮の病理組織学的進行ステージにある8頭の子牛胸腺に対してDNAマイクロアレイ解析を行ったところ、各サンプルがそれぞれ多様な遺伝子発現パターンを示すことが分かった。階層的クラスター解析を行ったところ、各胸腺は急性退縮ステージの段階に応じて3つのクラスターに分けられた。主成分分析を行ったところ、第一主成分得点は、正常に近いサンプルの数値が大きく、重度の急性退縮のサンプルは数値が低かった。軽度の急性退縮のサンプルは中間に位置しており、子牛胸腺の組織状態が急性退縮期の遺伝子発現に最も大きく影響していることが示唆された。GOエンリッチメント解析の結果、第一主成分ベクトルが上位5%の遺伝子群には細胞増殖に関わる機能を持つ遺伝子が富み、第一主成分ベクトルが下位5%の遺伝子群には、細胞分化や遊走制御、血管新生といった機能に関わる遺伝子が多く含まれていた。リアルタイムRT-PCRによるバリデーションを行ったところ、細胞増殖に役割を持つPCNAKIFC1HES6の発現が重度の急性退縮の際に低下することが明らかとなった。一方、炎症反応に関わり、間葉系組織で発現するTWIST1SYNPO2PDGFRBは重度の急性退縮を起こしている胸腺で発現が上昇していた。免疫組織化学を行ったところ、胸腺皮質のKi67陽性細胞数は胸腺急性退縮に伴って減少した。胸腺皮質における活性型カスパーゼ1陽性細胞の割合は、活性型カスパーゼ3陽性細胞の割合よりも急性退縮の早い段階で増加していた。また、正常な胸腺皮質でほとんど見られないビメンチンは、急性退縮に伴って皮質に出現していた。これらの結果から、予後不良の子牛胸腺の急性退縮期では、細胞増殖不全と炎症反応が関与していることが示唆される。

・氏 名:日髙 芽衣

論文名:Effects of Excessive High-fructose Corn Syrup Drink Intake in Middle-aged Mice

受賞論文の発表誌名:In Vivo, Vol.38(3), p.1152-1161

2型糖尿病の世界的有病率は年々増加し続けており、その発症原因を解明する必要がある。High Fructose Corn SyrupHFCS)の飲料や食事への使用の増加が、代謝性疾患の発症に関与していると考えられている。そこで本研究では、エネルギー摂取量制限下におけるHFCS飲料の過剰摂取が、壮年期マウスおける2型糖尿病の発症に及ぼす影響を調べることを目的とした。壮年期の雄性マウスをHFCS群と対照群に分け、それぞれ10HFCS水または脱イオン水を12週間自由に摂取させた。HFCS水の飲水量を毎日測定し、総エネルギー摂取量が一致するように、通常飼料を用いてペアフィードを行った。飼育期間終了後、経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)、インスリン負荷試験(ITT)、組織重量測定、血液生化学検査、mRNA発現評価を行った。エネルギー摂取量制限下でのHFCSを過剰摂取は、体重および脂肪組織質量を増加させなかった。さらに、血液生化学検査において血清脂質パラメーターには差がなかった。しかし、OGTTにおいてHFCS群は対照群よりも高い血糖値を示した。さらに、膵臓重量とインスリン遺伝子2mRNA発現量が減少した。壮年期におけるエネルギー摂取量制限下でのHFCS過剰摂取は肥満を誘発しなかったが、耐糖能異常を誘発し、膵臓への悪影響を示した。HFCS過剰摂取は代謝機構に影響を与えるが、その影響は年齢や性別によって異なる可能性が示唆された。

・氏 名:羽田 崇彦

論文名:Comprehensive analysis of diel rhythmic expression of the medaka toll-like receptor gene family

受賞論文の発表誌名:Developmental and Comparative Immunology, Vol.154, p.105134

近年、哺乳類において、「免疫の概日リズム」に関する研究が盛んに行われているが、魚類免疫学分野における当該知見は非常に乏しい。本研究では、メダカ(Oryzias latipes)を対象に、病原体認識において重要な役割を果たすToll様受容体(TLR)ファミリーが、概日リズムを発振するかについて検討した。9種のtlr遺伝子(1, 3, 5m, 7, 8, 21, 22)の発現解析より、tlr1, tlr5m, tlr21が概日リズム発現を示すことが明らかとなった。さらに、時計遺伝子(bmal1:clock1)を過剰発現させたメダカ胚細胞において、リズムを発振した全てのtlr遺伝子の発現量が有意に増加した。また、モルフォリノオリゴを用いてbmal1をノックダウンした胚細胞において、同tlr遺伝子の発現量が有意に減少した。これらのtlr遺伝子の転写制御領域には時計遺伝子応答配列が保存されていたことから、メダカのtlr1, tlr5m, tlr21は時計遺伝子によって制御された概日リズムを有することが示唆された。

・氏 名:岸 大悟

論文名:Paragoniastrea variabilis Kishi, Nomura & Fukami, sp. nov. (Cnidaria, Anthozoa, Scleractinia), a new coral species previously considered as a variant of Paragoniastrea deformis, from Japan and northern Taiwan

受賞論文の発表誌名:Zookeys ,Vol.1205, p.205-222

本論文は、造礁性イシサンゴ類の新種記載を含む分類学的研究である。造礁性イシサンゴの1種であるミダレカメノコキクメイシは、日本の九州以北および台湾北部の温帯域にのみ生息している。この種には、長年2つの形態多型が知られていた。本研究では、この形態多型が種内変異なのか別種なのかを明らかにすることを目的とし、2種の分子マーカーを用いた分子系統解析と、13個の量的形質と2個の質的形質を用いた形態解析を実施した。その結果、この形態2型は両解析において明確に区別することができた。さらにタイプ標本を精査した結果、2型のうちの一つが未記載種であることが判明したため、本研究においてヘンゲカメノコキクメイシParagoniastrea variablisと命名した。本研究は、温帯域に特異的な種を発見しただけではなく、質的形質主体であったサンゴの記載に量的形質に基づく形態解析を取り入れた画期的な研究となった。

・氏 名:田中 里奈

論文名:Development of vitamin K analysis method using column switching highperformance liquid chromatography method and analysis results of various food items for vitamin K content

受賞論文の発表誌名:Food Analytical Methods, Vol.17, p.1218-1228

本論文は、ビタミンKの分析において蛍光検出を接続したカラムスイッチング高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法の開発を行ったものである。従来のビタミンKの分析法は、脂質を抽出し、固相抽出や薄層クロマトグラフィーを利用した精製操作によって不純物を除きHPLCでの分析を行っているため、分析に時間を要し、さらに、精製操作による回収率の低下が懸念されている。本法で使用したカラムスイッチング法により、精製操作を行わず不純物が除去され、HPLCでの分析が可能となった。この方法を利用し、フィロキノン、メナキノン-4、メナキノン-73種のビタミンKの同時分析が可能となり、水産物、畜肉、野菜、乳製品、サプリメントに含まれるビタミンK含有量の評価を行った。その結果の一つとして、市販のサプリメントにおいて、メーカーまたは国によって添加しているビタミンKの種類が異なる事が明らかとなった。さらに、食用海藻類にも多くのビタミンKが含有されていることが明らかとなった。

・氏 名:堀江 崚平

論文名:Effect of seasons and fishing ban period on umami-related and functional components of greeneye (Chlorophthalmus albatrossis) from Japanese coast

受賞論文の発表誌名:Journal of Food Composition and Analysis, Vol.139, p.107163

本論文は、宮崎の特産水産物である「メヒカリ」を1年間通して、機能性成分の分析を行った報告である。宮崎県の場合は、5月にメヒカリの禁漁期間を設定していることから、6月以降の夏期において機能性成分(脂質含有量、脂肪酸、ビタミンE、イミダゾールジペプチド)が増加することを明らかにした。また、「メヒカリ」の場合は骨をそのまま食べるためカルシウムの供給源としても注目されるが、その含量は季節による変化は見られず、年間を通して安定的に供給できることも明らかにした。本論文は宮崎県延岡市の北浦漁協の協力のもとで行われ、「メヒカリ」を1年間を通して栄養成分の変化を分析した報告は国内外で初めてである。本結果は宮崎県産の「メヒカリ」の特徴を明らかにしたことから、宮崎県産「メヒカリ」のブランド化および販売促進に本論文の結果が活用されることが期待できる。


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