甲状腺の初期進化:ヤツメウナギ内柱の祖先性を覆す新しい進化シナリオ -研究成果が発表されました-
宮崎大学農学部海洋生物環境学科の宮西弘助教が参画し、理化学研究所(理研)開拓研究本部倉谷形態進化研究室の高木亙基礎科学特別研究員(研究当時、現東京大学大気海洋研究所助教)、生命機能科学研究センター形態進化研究チームの倉谷滋チームリーダー(開拓研究本部倉谷形態進化研究室主任研究員)、兵庫医科大学生物学の菅原文昭准教授らを中心とする国際共同研究グループ※は、顎のない脊椎動物である円口類のヌタウナギの「甲状腺」と、ヤツメウナギの幼生が持つ甲状腺の類似器官、「内柱」の発生を詳細に解析し、これまで祖先の名残と考えられてきたヤツメウナギの内柱が、ヤツメウナギ現生種の系統で独自に獲得された可能性を見いだしました。
本研究成果は「ヤツメウナギの幼生が、祖先的な脊椎動物の姿を反映している」とする従来の考えに疑問を呈し、脊椎動物の初期進化に対する新しいシナリオを提示するものです。
今回、国際共同研究グループは、ヌタウナギの甲状腺の形成過程を形態および遺伝子レベルで詳細に解析し、ヌタウナギの甲状腺が顎のある脊椎動物(顎口類)の甲状腺と非常によく似た発生様式を示すことを明らかにしました。さらに、ヤツメウナギの甲状腺関連遺伝子を解析した結果、甲状腺と内柱では時空間的な遺伝子発現パターンが異なっており、甲状腺と内柱は異なる分子基盤をもとに発生することが分かりました。近年のヤツメウナギ類の化石の知見とあわせて、「ヤツメウナギ類が幼生期に一過的に発生させる『内柱』は、脊椎動物に近縁なホヤなどが保持する祖先的な内柱を受け継いだものではなく、二次的に獲得されたものである」とする新たな仮説を導き出しました。
本研究は、科学雑誌『BMC Biology』オンライン版(4月1日付:日本時間4月1日)に掲載されました。
https://bmcbiol.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12915-022-01282-7
本研究で扱った顎のない脊椎動物である円口類のヌタウナギとヤツメウナギ
理化学研究所よりプレスリリースされています(2022年4月1日)
https://www.riken.jp/press/2022/20220401_1/index.html
※国際共同研究グループ
理化学研究所
開拓研究本部 倉谷形態進化研究室
基礎科学特別研究員(研究当時)高木 亙 (たかぎ わたる)
(現 東京大学 大気海洋研究所 海洋生命科学部門 助教)
生命機能科学研究センター 形態進化研究チーム
チームリーダー 倉谷 滋 (くらたに しげる)
(開拓研究本部 倉谷形態進化研究室 主任研究員)
研究員 日下部 りえ(くさかべ りえ)
バイオリソース研究センター iPS細胞高次特性解析開発チーム
テクニカルスタッフⅡ 佐藤 伊織 (さとう いおり)
脳神経科学研究センター 触知覚生理学研究チーム
研究員 大石 康博 (おおいし やすひろ)
東京大学 大気海洋研究所
教授 兵藤 晋 (ひょうどう すすむ)
技術専門職員 小川 展弘 (おがわ のぶひろ)
兵庫医科大学 教養部門 生物学
准教授 菅原 文昭 (すがはら ふみあき)
広島大学 大学院医系科学研究科
助教 樋口 真之輔(ひぐち しんのすけ)
マラガ大学(スペイン)Faculty of Science
Senior Researcher パスクアル・アナヤ・フアン (Pascual-Anaya Juan)
宮崎大学 農学部
助教 宮西 弘 (みやにし ひろし)
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
助教 足立 礼孝 (あだち のりたか)