twitterロゴ
B!

「学生は未来のアドバイザー」木を育てるように人を育てる、ゆっくり丁寧に

2021.1.29
株式会社川上木材
川上宰さん

デザインシンキングで地域商社へ舵を切れ

「デザインシンキング」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。美術用語かなと思った人もいるでしょう(担当は思いました)。ここでいう”デザイン”は、美術で使われるそれではなく“設計”という意味合いが強いもの。一般的には、製品などを開発する際に「人を中心に据える」考え方とされ、ユーザーに寄り添うことでイノベーションを生む手法であり、近年、モノづくりの重要な要素とされています。この手法を取り入れて、宮崎県内のいいものをまるごと地域内外や海外へ販売するという、壮大な地域商社へ舵を切ろうとしているのが「株式会社川上木材」です。

木のぬくもりあふれる場所で生まれるイマジネーション

敷地に入るとふわりと香る木のにおい。オフィスは優しい照明と木のぬくもりであふれています。初めて来たのに落ち着くこの感覚は、社長である川上宰(おさむ)さんの笑顔のおかげもあるかもしれません。

ここは宮崎市生目の杜運動公園に隣接する「株式会社川上木材」。宮崎市を拠点に木材の販売や加工、住宅用の建材を販売する創業40年を超える老舗メーカーです。数十年の時をかけ大事に育てられた良質の木材を切り出し、デザインや技術を追求しながら新たな命を与えます。

公共施設など大きな建築物はもちろん、木をふんだんに使ったキッチン、どこから見ても様になるテーブルやスツール、日常に色を添えるおしゃれな小物たち。大手雑貨メーカーで採用されている商品もあり、細部までこだわったつくりは技術の高さを感じずにはいられません。

ストーリーを語れる地域商社になるために

このように数々の木の作品を生み出している川上木材ですが、近年、その必要性を感じているのが、宮崎のいいものをまるごと輸出する“地域商社”の構想です。長年、木材の仕事を通して、宮崎にしかない素晴らしい農産物や加工品に出会うことが多くあったといいます。しかし、それを効果的に販売する術がない。「地域全体を盛り上げていくことが自分たちの使命でもある」。強くそう感じたと言います。だからこそ、「農家さんやメーカーさんのニーズを聞き取り、思いをくみ取り、商品の背景にあるストーリーを語れる人材が必要だと感じている」と川上社長は断言します。

「学生は未来のアドバイザー」木を育てるように人を育てる、ゆっくり丁寧に

川上木材の財産はまさに”人”。緻密な作品を作り上げる高い技術は時間をかけて丁寧に育くまれます。あたかも木を育てるように。

それはインターンシップで訪れた学生に対しても同じこと。ここには口コミで東京の大学生や県内の留学生など多様な学生が集まります。しかも1~2年という長期間、会社の仕事に携わるのです。川上社長は言います。「学生は単なるワーカーではない。学生・企業双方のためになるものにしなければいけない」と。

その考えが最も現れたのが、インターン生も同行する海外研修「グッドデザインジャーニー」。海外の歴史的な建築物や地元大学を訪れ、デザイン思考の旅を経験し、これからの仕事や人生に活かしていこうというものです。

インターン生の育成にここまで力を入れる理由を尋ねました。「この旅で何かを感じてくれたらいい。それが人生のサジェスチョン(示唆)になる。これからの長い人生のなかで、どこかでまた出会うかもしれない。そのときいろいろな話ができるといい。学生は未来のアドバイザーだと思っています。」

世代を超えたつながりが宮崎の未来を変える

さらに最近では、高校生や大学生とチームを組んでSDGsの取り組みをスタートさせました。地域課題をSDGsの視点で解決しようと、世代を超えたディスカッションを続けています。

「若い人たちからインスピレーションをもらえることはもちろんだが、この取り組みの最大の意義は、若者がSDGsの視点を獲得するということ。その視点をもった行動ができる若者が増えることは、必ず宮崎の未来を変え、林業をも変えていくと信じています」と言い切ります。

世代や場所を超えてチーム力で事業に取り組む川上さん。その視線は、ずっとずっと未来を見つめているのかもしれません。広大な山地に一本の苗木を植えるような、そんな気持ちで。

文:黒木 順子 Kuroki Junko