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《前編》道を選ぶときの根幹は、ただ“好き”かどうか

2021.5.7
一般社団法人つの未来まちづくり推進機構
川越大輝さん

『県庁おもてなし課』を読んで公務員を志す

読書が好きだった高校時代。たくさん読んだ本の中で特に印象に残っているのが『県庁おもてなし課(有川浩 著)』。映画化もされたこの小説は、公務員が地元の観光を活性化するために奮闘する物語。「面白そうだな、地元を元気にできるなんていい仕事だな、とシンプルに心に響いて」と話すのは、2020年11月に宮崎へUターンしてきた、一般財団法人つの未来まちづくり推進機構(以下、つの財団という)の川越大輝さん。もともと周囲に公務員の親類が多かったこともあり、小さいときからその道は視野に入っていたそう。お父様が小学校教師ということで「最初は教員を目指していたけれど、父に向いてないと言われて(笑)」。公務員を目指しての県外大学進学となりました。

アプリを駆使した国際交流で視野を広げた大学時代

大学生になったら海外を回りたいと思っていたという川越さん。「最初の目的地は、憧れのオードリーヘップバーンに縁のある場所を選びました」と少し照れながら話してくれたその場所は、ニューヨーク。当時、大学生になったばかりの18歳で、単身、渡米しました。滞在期間は1か月間。英語は得意だったといいますが、それでも、宿を取る日を間違えて途方に暮れたことも。お金もないしどうしようと困っていたとき、現地の人から教えてもらったのが“カウチサーフィン”だったそう。

カウチサーフィンとは、旅行中に宿を探しているゲストと、自分の家を宿として提供してもいいというホストをマッチングするプラットフォーム。アプリ等をダウンロードすることで利用でき、費用が発生しないこともあり欧米ではポピュラーなサービスです。でも、危険な目に遭うことはないのでしょうか。「ここでは話せないようなこともありましたよ」と川越さんは笑いますが、「それでも、当時ニューヨークで韓国人のホストと出会って助けられたことは事実だし、今度は自分がサポートする側になれたら」と、帰国後は30~40人ほどの外国人に自身のアパートを宿泊先として提供しました。「リアルな海外の情報に触れられたし、何より英語の勉強になった。1年間海外留学をするよりも自分には合っていたと思います」。

NY単身留学中 タイムズスクエアにて

熊本地震からの復興~枠に囚われないまちづくりを目指して

大学で所属していたのは社会学系のゼミ。指導教員は度々、県知事や海外で活躍する日本人との懇談の機会を設けてくれました。「トップを走る方々との話の中で一番感じたのは、道を選ぶ時の根幹は有利不利のものさしではなく、ただ“好き”かどうかということ。その頃から自分が本当にやりたいことはなんだろうと考え始めました」。

そして迎えた平成28年4月、最大震度7の熊本地震が発生しました。現地の大学に通っていた川越さんは、熊本県と協力しながらどうやったら災害に強い自治体になるのか共同研究を始めます。それを論文にまとめ海外でのプレゼンテーションの機会も得たそうです。それらの経験から、新しいシステムを作る場面において、自分が考えた構想を提示できるポジションで仕事がしたい、それには民間企業がいいのではないかと考えが変わってきたといいます。なにより「枠に囚われないまちづくりにチャレンジしたかった」と。

学生時代に訪れたワシントンD.C. 世界銀行にて。本人は左から2番目

大手通信会社から人口1万人のまち・都農町へ

突然ですが、「Society5.0」という言葉をご存知でしょうか。これは、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムによって、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)をいいます。(内閣府ホームページより)

この取り組みを国と共に推進していた大手通信会社に就職した川越さん。ここでは、自社と異業種他社とが協力することで新しい事業を生み出す部署に所属。長崎県でドローンを使った二次離島支援や遠隔医療の分野で支援を行っていました。「大学を出たばかりの自分にできることは限られている。だけど、優秀な方たちと地方をつなぐことができれば課題を解決できるはず」とマネジメントに注力しながら取り組んでいたそうです。

Society5.0の最前線で働いていた川越さんですが、“家族もびっくり!”の事後報告で、宮崎県都農町(つのちょう)へと移住。町の拠出により平成31年4月に設立されたつの財団で働くことを決意します。

「人口1万人の町ってなんでもできそうだなと思って。ひとりひとりの家を回ればなんとかなる感覚。全てをゼロから変えていけるかもしれないフィールドは何より魅力でした」と川越さんの奮闘が始まります。
~続きは《後編》へ~

文:黒木 順子 Kuroki Junko