ニュースリリース
2021年09月06日 掲載
冠動脈疾患治療に関する研究成果が発表されました。本研究成果は、循環器領域のトップジャーナルであるCirculationの姉妹誌「Circulation: Cardiovascular Interventions」オンライン版で公開されました。論文の発表者には、医学部内科学講座循環器腎臓内科学分野 海北幸一教授が含まれています。
冠動脈疾患治療における新たなエビデンス- 抗血栓療法は出血させないことが重要! -
宮崎大学医学部内科学講座循環器腎臓内科学分野 海北幸一教授 (元熊本大学大学院生命科学研究部循環器内科学准教授)、熊本大学小川久雄学長(元国立循環器病研究センター理事長)、東北大学大学院医学系研究科循環器内科学 安田聡教授(元国立循環器病研究センター副院長)、熊本大学病院総合診療科松井邦彦教授を主要メンバーとする日本人研究グループは、心房細動を合併した安定冠動脈疾患患者における大規模臨床研究であるAFIRE研究(Atrial Fibrillation and Ischemic events with Rivaroxaban in patiEnts with stable coronary artery disease Study)のサブ解析結果を公表しました。AFIRE研究は、本邦の294施設が参加して行われた心房細動を合併した安定冠動脈疾患患者のランダム化比較試験で、登録総数2,240例中、熊本大学からは29例が登録されました。今回の研究では、約2年間の観察期間中の脳心血管イベント(脳卒中、全身性塞栓症、心筋梗塞、血行再建術を必要とする不安定狭心症、総死亡の複合エンドポイント(評価項目))と、出血性イベント(ISTH(国際血栓止血学会)基準による重大な出血性合併症)が検討され、重大な出血性イベントの発生がその後の脳心血管イベント発症の引き金になることが明らかになりました。本研究論文は、循環器領域のトップジャーナルであるCirculationの姉妹誌「Circulation: Cardiovascular Interventions」オンライン版に米国東部標準時の2021年9月3日午前5時(日本時間9月3日午後6時)に掲載されました。
(概要説明)急激に高齢化が進む本邦において、不整脈の一種である心房細動の患者数は、100万人を超すと言われています。心房細動に対する抗血栓療法としては「抗凝固療法」が必要ですが、心房細動を合併した冠動脈疾患症例においては、「抗凝固療法」に加え「抗血小板療法」が必要になります。一方で、複数の薬剤を組み合わせた抗血栓療法は出血リスクも高めることが懸念されていました。このような背景から、欧米や本邦のガイドラインでは、冠動脈疾患の侵襲的治療である経皮的冠動脈インターベンション(PCI)や冠動脈バイパス術(CABG)後でも、1年を経過した安定期には抗凝固療法単独が推奨されるようになりました。しかしながら、大規模臨床試験による検証がなされていない状況でした。そのような中本邦で施行されたAFIRE研究は、心房細動を合併した安定冠動脈疾患患者を対象に、「経口抗凝固薬リバーロキサバン」単独と「リバーロキサバン+抗血小板薬」併用との有効性・安全性の比較を行いました。多施設共同研究で、登録総数2,240例中、2,215例(1,107例単独療法vs. 1,108例併用療法; アスピリン併用70.2%)が研究解析対象となりました。約2年間の観察期間において、脳心血管イベント(脳卒中、全身性塞栓症、心筋梗塞、血行再建術を必要とする不安定狭心症、総死亡の複合エンドポイント(評価項目))では、リバーロキサバン単独療法群の治療効果が併用療法群に対して劣っていないこと(非劣勢)が証明されるとともに、事後解析にてリバーロキサバン単独療法群の優越性も示されました。さらに出血性イベント(ISTH基準による重大な出血性合併症)においても、リバーロキサバン単独療法群の治療効果が併用療法群に対して高いことが証明されました。良好な結果を示した主解析でしたが、リバーロキサバン単独療法が出血性イベントのみならず、脳心血管イベントにおいても優越性を示した理由が不明でした。以上のような背景より、今回のサブ解析研究では、AFIRE研究対象2,215例において出血性イベントと脳心血管イベントとの関連性を検討致しました。解析項目は、①出血性イベントの有無による脳心血管イベント発症の比較、②出血後の脳心血管イベントの発症率の評価、③出血後の時間経過と脳心血管イベント発症までの関連性、としました。2,215例中、386例(17.4%)が出血性イベントを発症し、そのうち63例(16.3%)が脳心血管イベントを発症しました。脳心血管イベント発症率は、出血群で年率8.38%、非出血群では4.20%でした(相対的な危険度を示すハザード比は2.01 [95%CI、1.49-2.70]; P <0.001)(図1)。出血と脳心血管イベントの両方を有する63例中、46例(73.0%)は出血後に脳心血管イベントを発症していました。さらに時間依存性多変量解析により、大出血後30日以内の脳心血管イベント発症のリスクが高いことが明らかとなりました(ハザード比、7.81 [95%CI、4.20-14.54])(図2)。本研究により得られた結果から、心房細動を合併した安定冠動脈疾患例における大出血とその後の脳心血管イベントとの関連性が明らかとなり、より出血リスクを考慮した抗血栓療法が重要であることが示唆されました。
(論文情報)論文名Bleeding and Subsequent Cardiovascular Events and Death in Atrial Fibrillation with Stable Coronary Artery Disease: Insights from the AFIRE Trial著者名(*責任著者)Koichi Kaikita*, Satoshi Yasuda, Masaharu Akao, Junya Ako, Tetsuya Matoba, Masato Nakamura, Katsumi Miyauchi, Nobuhisa Hagiwara, Kazuo Kimura, Atsushi Hirayama, Kunihiko Matsui, Hisao Ogawa, for the AFIRE Investigators掲載誌Circulation: Cardiovascular Interventions
プレスリリース(2021.9.6) https://www.miyazaki-u.ac.jp/public-relations/20210906_04_press.pdf
熊本大学プレスリリース https://www.kumamoto-u.ac.jp/whatsnew/seimei/20210906-2
東北大学プレスリリースhttps://www.tohoku.ac.jp/japanese/2021/09/press20210906-01-afire.html
〇宮崎大学研究者データベース 海北 幸一https://srhumdb.miyazaki-u.ac.jp/html/100002400_ja.html
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