宮崎大学
ニュースリリース

共生細菌リケッチアに感染した天敵昆虫のメスは増殖に有利

2024年10月09日 掲載

共生細菌リケッチアに感染した天敵昆虫のメスは増殖に有利
-共生細菌リケッチアの働きを利用した天敵昆虫の性能強化に期待-

農研機構と宮崎大学は、農業害虫のコナジラミやアザミウマ等を食べる天敵昆虫タバコカスミカメに広く感染している共生細菌リケッチアが、感染したメスの子孫が多くなるような生殖への影響をタバコカスミカメに与えていることを明らかにしました。本成果は、リケッチアのような共生細菌の感染状況がタバコカスミカメの効率的な増殖に重要であることを示しています。この知見を活用し、共生細菌によってタバコカスミカメの増殖効率を最適化することで、天敵を利用した害虫防除技術の向上につながることが期待されます。

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1 天敵昆虫タバコカスミカメ

多くの昆虫では、健康な状態で細菌に感染していることが知られており、それらの細菌のことを共生細菌1)と言います。共生細菌の一部は、昆虫に栄養を提供する機能や、昆虫の不妊化や性比異常などの生殖操作を引き起こす機能を持っています。コナジラミやアザミウマ等の農業害虫を食べる天敵昆虫タバコカスミカメ2)(図1)には、リケッチア3)という共生細菌が感染していることがわかっていましたが、その機能は明らかになっていませんでした。

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2 感染系統と非感染系統の交配組み合わせ

農研機構と宮崎大学は、共生細菌リケッチアに感染したタバコカスミカメが、非感染のタバコカスミカメよりも子孫を残しやすく、増殖に有利であることを発見しました。共生細菌リケッチアの感染・非感染個体を全4通りの組み合わせで交配させると、感染オスと非感染メスを交配させた場合には卵が孵化せず、それ以外の組み合わせでは正常に孵化しました(図2)。共生細菌リケッチアに感染したメスは、感染オスと非感染オスのどちらと交配しても子孫を残せるため、感染したメスの繁殖が感染していないメスに比べて有利になると考えられます。共生細菌の機能の一つとして、共生細菌に感染したオスと非感染のメスの組み合わせのみ卵が孵化しない現象は、『細胞質不和合4)』と呼ばれています。共生細菌リケッチアは、コナジラミやアブラムシなど様々な昆虫から発見されていますが、細胞質不和合の機能を持つリケッチアは初めて見つかりました。

天敵昆虫を害虫防除に利用する際は、ほ場や栽培ハウス内で天敵が増殖し、害虫を防除するのに十分な個体数を維持することが重要です。本成果により、共生細菌リケッチアに感染したタバコカスミカメが、効率的な増殖に有利であることが実験室レベルで明らかになりました。今後、ほ場や栽培ハウス等の農業現場で、共生細菌リケッチアに感染したタバコカスミカメの増殖効率や、害虫の抑制能力を実際に確認することで、現場で効率的に増殖しやすい天敵利用方法への発展が可能になり、化学農薬のみに依存しない害虫被害ゼロ農業の実現に貢献することが期待されます。

今後の予定・期待

天敵昆虫を利用した害虫防除効果の持続性には、ほ場や栽培ハウスに天敵昆虫のメスとオスを放飼した後に、十分な個体数を維持することが重要なポイントです。本研究の成果により、共生細菌リケッチアに感染した天敵昆虫タバコカスミカメが、効率的な増殖に有利なことが、室内実験でわかりました。今後、ほ場や栽培ハウス等の農業現場で、共生細菌リケッチアに感染したタバコカスミカメの増殖効率や、害虫の抑制能力を実際に確認することで、天敵昆虫の性能を強化した害虫防除技術の実装が期待されます。また、野生のタバコカスミカメ個体群ではどれくらいの頻度で細胞質不和合が起こっているのか、野外環境での実態を明らかにしていくことで、地域に合わせた様々な条件下での応用利用が期待されます。

共生細菌リケッチアの仲間は、カメムシやコナジラミ、アブラムシなど、農業を取り巻く害虫類からも広く見つかっています。今後、共生細菌リケッチアによる細胞質不和合の原因遺伝子や分子メカニズムの詳細を明らかにすることで、多様な害虫類の増殖制御をターゲットとした害虫防除技術の開発が期待されます。

用語の解説

1)共生細菌
他の生物と共生している細菌。宿主の生存に欠かせない有益な細菌や、生殖を操作する細菌など、宿主に様々な影響を与える。

2)タバコカスミカメ(Nesidiocoris tenuis)
体長3.5mmほどのカメムシの仲間で、コナジラミやアザミウマなどの微小害虫を捕食する。国内に広く分布し、特に西日本の温暖な地域では普通に生息している。土着天敵として害虫防除に活用されるほか、生物農薬として販売もされている。

3)共生細菌リケッチア
昆虫から広く見つかっている共生細菌のグループで、様々な系統が存在する。昆虫に感染している多くの系統は昆虫の体内でのみ見つかり、哺乳動物に病気を引き起こすダニ類媒介性リケッチアとは異なる。一部は昆虫の生存や繁殖に影響を与えているが、機能がわかっていない系統も多い。

4)細胞質不和合
昆虫類に感染する共生細菌に見られる性質の1つで、非感染メスが感染オスと交配した場合、卵が孵化しない現象。感染メスは、感染オスと非感染オスのどちらと交配しても卵が正常に孵化する。そのため、感染メスの繁殖が有利になり、母親から子へと伝わる共生細菌が、宿主個体群内で広まりやすくなる。

発表論文

Owashi Y, Arai H, Adachi-Hagimori T, Kageyama D. (2024) Rickettsia induces strong cytoplasmic incompatibility in a predatory insect. Proceedings of the Royal Society B, 291: 20240680.
URL: https://doi.org/10.1098/rspb.2024.0680
2024/7/31論文公開

詳細はこちらから

プレスリリース
2024109日:https://www.miyazaki-u.ac.jp/public-relations/20241009_01_press.pdf

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