宮崎大学
ニュースリリース

本学テニュアトラック推進機構の安田仁奈准教授らのグループの研究成果がScientific Reports誌(電子版)に掲載されました

2019年02月21日 掲載

和歌山以南の温帯域が準絶滅危惧種のサンゴの避難場所として機能/サンゴの遺伝子解析による生物集団の安定性の評価

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↑ 20-30年前には海藻類が繁っていた場所が今は様々な種のサンゴで覆われている(宮崎県・串間市)撮影:グリートダイバーズ 福田道喜氏

 近年、気候変動による海水温上昇などにより温度変化に敏感なサンゴが減少し、サンゴ礁生態系は劣化の一途を辿っています。そのため多くの造礁サンゴは熱帯・亜熱帯域で生息域を追われています。その一方、日本のようにサンゴが生息する北限域に位置する場所では温暖化とともにサンゴが年々北上している現象が見られ、こうした日本の温帯域では亜熱帯・熱帯で絶滅の危惧にあるサンゴにとって避難場所になりえるのではないかということが考えられていました。

 しかし、こうした海域が避難場所として機能するには、今後もサンゴ集団が維持できることが必要です。本研究ではこうした北上・分布拡大しているサンゴ集団のうち、温帯域で優占するクシハダミドリイシというサンゴに注目し、今後も環境変化に耐えてサンゴ集団を維持できるかどうか、遺伝的多様性を指標として調べました。同時に、亜熱帯海域から温帯域にどの程度サンゴの幼生(プランクトン時代の子供)が海流に乗って移動しているのかについても明らかにしました。

 その結果、和歌山以南のもともとサンゴがいた温帯域では概して遺伝的多様性が高く、集団が比較的安定していると考えられました。一方、過去80年に北上して出来たばかりの比較的新しい最北限域周辺のサンゴは遺伝的多様性が低く、環境変化に脆弱であると考えられました。

 このことから、まず、サンゴの避難場所としては、遺伝的多様性が高くかつ温暖化と共にサンゴが増えつつある和歌山以南の温帯域が良いと考えられました。

 次に、亜熱帯域(奄美諸島以南)から温帯域へのサンゴ幼生の海流による移動をコンピューターシミュレーションで推定した結果、亜熱帯から温帯域への1世代での分散量は決して多くないことがわかりました。実際、本研究でもクシハダミドリイシの中に3つの遺伝系統(恐らくは別種)が見つかったのですが、そのうち現時点において温帯域で増えているのは3つのうちの1種のみであるということがわかりました。今後、残りの2種が北上してくることで温帯域が同様の避難所として機能するかどうかはモニタリングしていく必要があります。

 以上の成果は、これまであまり注目されていなかった日本の温帯域、特に和歌山以南の温帯海域が少なくともクハダミドリイシの一部の遺伝系統にとっては遺伝的多様性の面からも、避難場所としての機能を果たしうるということを初めて示した点で重要な成果です。

 本研究は、環境省環境総合推進費(4RF-1501)および文部科学省科学研究費補助金の支援を受けて行われ、この成果は平成31年2月13日(日本時間19:00)のScientific Reports誌(電子版)に掲載されました。

URL:https://www.nature.com/articles/s41598-018-38333-5

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↑ クシハダミドリイシのサンプリング地点とクシハダミドリイシの写真。青丸がサンプリング地点。赤点線で記された海域付近で温帯域と亜熱帯域に分かれており、この赤点線を超える亜熱帯から温帯への海流による直接の幼生分散はやや制限される。灰色線は黒潮の流れを示す。

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