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もっと良い牛を育てたい  ~愛牛ハルとの思い出を胸に~ 藤井 琴未(ふじい ことみ) さん

20230126_hito_banner01.jpg2023年1月26日掲載

藤井 琴未(ふじい ことみ) さん

学生(宮崎大学 農学部 畜産草地科学科

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木花キャンパスにて撮影(2023年)

2003年8月5日生まれ。愛知県田原市出身。3人姉妹の長女。獅子座。A型。
中日ドラゴンズファン

愛知県立渥美農業高等学校出身。高校1年次から動物科学部に在籍して、和牛の肥育を実践的に学び、各種コンテストなどにも出場しながら知識を深めた。
2022年1月の「第5回和牛甲子園」(新型コロナウイルス感染症の影響によりオンライン形式開催)では、同校の総合評価部門の最優秀賞受賞に大きく貢献した。

高校卒業後、宮崎大学農学部畜産草地科学科に入学。週末は子牛の世話をするアルバイトに従事するなど、動物が好きで、特に牛が大好き。
音楽を聴くよりも牛の鳴き声を聞くことでリラックスできる。

初めての肥育牛との触れ合いは恐怖だった

愛知県と言えば九州の方は都会をイメージするかもしれません。私の地元は愛知県の中でも一番南の太平洋に面した渥美半島の田原市です。名古屋市からはかなり離れていて、宮崎と同じ農業大国です。今でも豊かな自然が沢山残っている地域で、美しい海の景色も宮崎とよく似ています。私は、その田原市でトマト農家の長女として生まれました。両親も動物好きだったので、幼少期からペットでいろいろな動物を飼っていました。犬・猫・ハムスター・シマリス・ニワトリ・ウズラなど、動物に囲まれて育ちました。

その中でもニワトリが可愛くて、庭で散歩をさせたり、産んだ卵を朝ごはんに食べていました。とてもなついていて、名前を呼ぶと近寄って私の後を追いかけてきました。家畜として飼育されているニワトリより、ずいぶん長生きしました。また、母の実家が市内で酪農を営んでいたことから、牛とは小さい頃から触れ合い、畜産を身近に感じて育ちました。

高校は、"学校に動物がいる"という理由だけで、地元の渥美農業高等学校に進学しました。同校では、1・2年次に運動部か文化部の何らかの部活に原則として入部し3年次に産業部(果樹部・野菜部・動物科学部・草花部・農業機械部・環境科学部など)のいずれかの部に所属して卒業論文のための研究をしていくことになります。

私は、とにかく動物と触れ合いたいとの想いが強かったので、同じような想いをもった友人と一緒に先生に交渉して、1年生から産業部(動物科学部)に入部させてもらいました。高校で初めて牛に触れた時は、肥育牛のあまりの大きさに圧倒され恐怖感を覚えました。しかし、先生や先輩に手ほどきを受けながら、牛のブラッシングをしてみると、牛が気持ちよさそうにしていて、その優しい目を見た時に「牛ってこんなに可愛いんだ」と思いました。


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写真:小学3年生の時

愛牛・ハルとの出会い

動物科学部に入部してすぐ、顧問の先生に「和牛甲子園やってみない?」と言われ、2年後の第5回大会の候補牛がお腹にいる雌牛(名前はレジナ)に会わせてもらいました。それからは、まずはお母さん牛と仲良くなろうと、こまめにブラッシングをしたりしてレジナとの信頼関係を深めました。

高校1年の7月26日。レジナは無事に元気な雌牛を出産し、私は奇跡的にその出産に立ち会うことができました。私がハルと名付けた子牛は、3年の和牛甲子園まで私の担当牛になりました。そして、同じ日に生まれたマロという子牛は、一緒に一年次から入部した友人が担当する事になりました。

ハルは生まれた頃はマロよりも大きかったのですが、マイペースな性格でエサをあまり食べないこともあり、マロはどんどん大きくなり、体格差は開いていきました。「どうしたらハルがエサを沢山食べてくれるのか?」「どうしたらハルを大きくできるのか?」「どうしたら肉質の良い牛に育てられるのか?」と考え続ける日々が続きました。また、農場の先生にあれこれ相談したり、地域の農家さんの牛舎や牛を実際に見学させていただいたり、試行錯誤を繰り返しているうちに、牛にどっぷりはまっていきました。

高校2年次には、新型コロナウイルス感染症の蔓延により、休校となるなど、牛舎にも行けず歯がゆい時期が続きました。先生に週1回の体重測定の結果やハルとマロの写真をメールで送ってもらい、早く牛舎に行きたいと休校が明けるのを待っていました。

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写真:大好きなハルとのツーショット

和牛甲子園で最優秀賞を受賞

高校3年の1月(20221月)、これまで手塩に育ててきたハルとマロを「第5和牛甲子園」に出品することになりました。このコンテストに出品することは、出荷すると言うことであり、ハルとマロとの永遠の別れも意味します。高校3年間の多くをハルとの時間に費やした私は、ハルとの思い出が走馬灯のようによみがえり、永遠の別れを直ぐには受け入れることもできず、後輩たちの前で泣き続けてしまいました。

残念ながら、私が手塩にかけて育てたハルは、マロと比べて十分な大きさに育つことはできずB5認定となり、受賞することはできませんでした。とても悔しかったことは今でも忘れません。

しかし、友人が主として担当したマロは、肉質を評価する枝肉評価部門において、霜降りの質を示す「牛脂肪交雑基準」で最上級品の12番と評価され、ロース芯面積も100平方センチメートルを超えたことで優秀賞をいただきました。さらに、取組評価部門でも優秀賞をいただき、2評価の総合得点を競う総合評価部門では、合計88・8点の最高得点を獲得し、最優秀賞に選ばれました。

それでも私にとってこの大会は、うれしさ半分と悔しさが半分でした。でも、その悔しさが私のエネルギーの源になり、「もっと良い牛を育てたい」「もっと深く勉強したい」と強く思うようになりました。

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△ 動物科学部の仲間と一緒に

牧草ロールのサイレージに胸キュン

顧問の先生が大学進学を勧めてくれて、1年生の頃から大学進学は視野に入れていました。そこで、自分に合う大学を探していたところ、当時の校長先生は宮崎大学農学部を勧めてくれました。実は、校長先生は宮崎大学農学部の卒業生だったんです。校長先生が宮崎大学の魅力を話してくれたので、自分でも調べてみると西日本最大級の住吉フィールドや畜産に特化した研究室など、知れば知るほど私は宮崎大学にいきたくなりました。

しかし、遠く宮崎への進学を両親は大反対。それでも、説得して3年の秋頃に母親と共に観光も兼ねて宮崎大学の見学に来ました。すると、母親は自然豊かな環境や大学の雰囲気を気に入って、宮崎大学を受験することを応援してくれました。

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△ 宮崎市内では南国情緒あふれる景色をよく目にする(宮崎市一ッ葉有料道路)

宮崎の牧草地帯を車で回ると、牧草を丸めたサイレージが至る所にあり、まずその景色に驚くとともに、畜産王国であることを実感することができました。育った田原市ではほとんど目にする事はありませんでした。だから、右を見ても左を見ても広い畑にサイレージが転がっているのを見るとなぜかわくわくするんです。そのことをみんなに言うと笑われますが。愛知に帰ってからも、私の頭の中は宮崎でいっぱいになりました。

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△ 宮崎県内の牧草地帯ではこのような光景をよく目にする

実際に宮崎大学に入学してみると、私は農業高校出身なので、農業関係の知識は普通科卒業の学生よりも豊富かもしれませんが、英語や理科系の科目は苦手で、単位を修得するのに必死です(笑)。でも、これを乗り越えれば大好きな畜産の専門科目を受講できるんだと自分に言い聞かせて頑張ることができています。

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△ 宮崎大学農学部附属住吉フィールド開放事業にて

どうせならアルバイトも牛に関わりたい

畜産を幅広く学ぶには、公共交通機関の発達していない地域に出向く必要があります。入学して直ぐに自動車学校に通い普通自動車免許を取得し、牛に携わることができるアルバイト先を探し始めました。現在、宮崎大学から車で45分くらいかかる綾町にある「妊娠牛供給センター(JA宮崎経済連)」で週末にアルバイトをしています。そのセンターでアルバイトは募集していなかったのですが、自ら経済連の肉牛課の課長さんに交渉して働かせてもらうことになったんです(笑)。

私は、主に保育舎の生後3か月までの子牛の世話をしています。約50頭の子牛に朝と夕方にミルクを与えます。50頭分でだいたい100Lくらいですね。一日2回のミルクだけでクタクタです。あとは、牧草や水替えはもちろん、熱を測ったり注射を打ったりすることもあります。職場の方々は牛に関する知識も技術も高くて、わからないことがあれば優しく教えてくれます。私にとっては、1番の先生たちです。

時には、月1回の子牛市場のセリに連れて行ってもらって、実際に子牛に値段が付く瞬間を見たり農家さんと話をしていろいろな知識を得ています。牛の血統もまだまだ勉強中で難しいことも多いですが、何より難しいのは宮崎弁です(笑)。農家さんが使う方言が、さっぱり分からなくて、アルバイト始めたころは指示を聞き直してばかりでした。牧場のアルバイトは、牛と触れ合えるだけでなくいろいろな角度から畜産の勉強ができると感じています。

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△ 牛との触れ合い(アルバイト先にて)

視線の先に

令和4年10月6日(木)から10日(月)にかけて、「第12回全国和牛能力共進会鹿児島大会(通称:和牛のオリンピック)」が鹿児島県で開催され、高校の後輩達も参加すると言うことだったので応援に行きました。和牛オリンピックを見るのは初めてでしたが、出品される牛の背筋が綺麗に伸びていて、毛並みもつやつやで、なんて美しいんだって見とれてしまいました。そして、「いつか自分もあの舞台で自分の牛をひいてみたい」と強く思いました。

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△ 第12回全国和牛能力共進会鹿児島大会にて

現時点では、大学生活を楽しみながら牛について深く学ぶことくらいしか考えていません。将来は、「海外留学して海外の畜産を学ぶ」、「高校の農業の教員として和牛甲子園日本一を目指す」、「愛知県の牛と和牛オリンピックで最高賞受賞を目指す」など、色々と興味ばかりで、まだ目標は明確に定まっていません。

まずは、一日一日を全力で駆け抜けながら、その過程で何か目標が見えてくるのかと思います。今年の目標としては、家畜人工授精師の資格取得です。その資格を取得すれば牛の見方が広がるので、とても楽しみです。限られた大学生活の時間の中で、多くのことにチャレンジしていきたいです。

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△ 牛と対話する藤井さん。常に視線の先には牛がいる。


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