宮崎大学
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食べることの楽しさを伝えたい~ 食の力で子どもたちを笑顔に ~

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山﨑 有美(やまさき ゆみ)さん
地域資源創成学部 准教授

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1980年生まれ。広島県安芸郡熊野町出身。2023年時点で二児(5歳、1歳)の母。
幼少期から、新体操、そろばん、習字、スイミング、ピアノ、エレクトーンを経験。
中学時代は書道部、高校時代は吹奏楽部に所属しクラリネットを担当。
食べることも好きだが、飲むことも好きで、特にビールとワインを好む。
好きな球団は広島東洋カープ

2000年 九州大学農学部に進学し、食品機能学を専攻
2006年 九州大学農学部前期博士課程卒業
2006年4月 宮崎県産業支援財団へ知財活用エージェントとして就職
2007年 結婚相手が日本学術振興会(JSPS)の海外特別研究員としてスイス・Bellinzona(ベリンツォーナ)へ派遣されることになり、
    2年間をスイスで過ごす。
2009年 宮崎大学産学・地域連携センター産学官連携コーディネーター。
2012年 宮崎大学農学部研究員を務めながら、博士号を取得
2014年 宮崎大学みやだいCOC推進機構特任助教
2015年 宮崎大学地域資源創成学部講師
2016年 宮崎大学地域資源創成学部准教授(現在に至る)


■食いしん坊ばんざい!

私は小さい頃からとにかく「食」に関することへの好奇心が旺盛でした。食事やおやつが大好きなのはもちろんのこと、道を歩けば野イチゴを見つけて食べ、土手に生えているイタドリもおやつ替わり、祖父と一緒に七輪でスルメを炙ってかじるなど、食にアクセスするチャンネルは幅広かったと思います。

また、食べるだけではなく、ご飯作りのお手伝いや、おままごとも大好きでした。特に、お庭でのおままごとでは、花柄を集めてはすり鉢ですりつぶし謎のスープを作り瓶で発酵させ、「このお花のスープは臭い!」、「これはいい匂いがする♪」など、楽しんでいました。考えてみると、今とあまり変わっていないような気がしますね(笑)。このように好奇心が旺盛なので、嫌いな食べ物を聞かれると本当に困ってしまって。あえて自分から買わないとしたら、虫系の食べ物でしょうか。ただ、お土産等で頂く機会はあるので、その場合は必ず一口は食べています!

食べることも好きですが、飲むことも大好きです!20代は、お酒には強いけれど、そこまで好きと言うわけではなかったんです。結婚して、お酒好きのパートナーの英才教育(!?)により、30代を超えてからは金曜日や休日前が楽しみになりました。特に、2年間滞在していたスイスで覚えたビール&ワイン、チーズ、サラミは今でも週末には欠かせない3点セットです!もちろん、日本酒&お刺身も大好きですよ(笑)。

20240110_hito08.jpg△楽しく美味しいスイスでの毎日(2007-2009年)


こんな私が現在地に至るまでですが、中学・高校と次第に成長するにつれ、食で体の調子を整えることや病気についても関心を持つようになっていきました。そして、大学受験をする頃には、がんや糖尿病といった病気を「食で解決できないか」、という思いを持つようになり、食について深く学ぶことができる農学部を選びました。

■食の力で病気を解決できないか

大学1・2年次はどこの大学の学生も同じでしょうが、教養教育(基礎教育)を中心に受講し、3年次から本格的に専門を学ぶようになります。私は、入学当初より漠然と食と健康に関することを研究してみたいと考えていたのですが、大学2年次に大好きな祖父が糖尿病と診断されました。糖尿病は代表的な生活習慣病で、食事、特に血糖値を上昇させる糖質を制限する必要があります。大変な疾患ではあるのですが、「食」の力で少しでも緩和できる可能性がある...! その思いから、大学4年次に「食糧化学研究室」への所属を希望し、所属することができました。当初、食糧化学研究室では、ビタミンの研究をしたいと思っていたんです。何となく、爽やかなイメージがありませんか(笑)?ビタミンは必須の栄養素ですが、糖尿病にも関わっていることが報告されていました。食糧科学研究室ではビタミンについても研究を進めていたので、この研究に携わることで病気などの予防に寄与できるとともに、祖父に少しでも楽しさを感じる食生活を送ってもらえる道筋が見えないかと期待していました。

一方、当時は2003年。その頃は、佐賀県・福岡県・長崎県にまたがる有明海の水門を閉めたことで海の生態系が変化し、有明海特産である高品質な海苔の収穫量が激減、廃棄海苔が大量に生じることが問題となっていました。そのような背景もあって、所属する研究室の先生に、その「廃棄海苔」の魅力を「可視化して欲しい」との研究依頼があり、その研究の担当者に私が指名されることになりました。

当初は、自分がやりたいと思っていた研究分野とは少し違うなとは思いましたが、研究室の先輩が、海苔の脂質代謝改善作用の効果を発見していたので、海苔という食材にも大きな魅力が隠されているのではと思い引き受けました。

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■上手くいかなかった大学時代の試行錯誤の日々

まずは、先輩方が発見していた脂質代謝改善作用について、自ら細胞実験を行うことにしてみました。しかし、何度繰り返しても先輩方が発見したような効果は確認できません。「なぜ?」「どこに問題がある?」色んな要因を探りながら、何度も研究プロセスを見直す試行錯誤の日々が続きました。
結局何度やっても上手くいかず、指導教員に伝えたところ、指導教員の先生からもらった言葉は、「過去の結果が正しいとは限らない」。過去の研究成果は全てが正しいと思っていた当時の私には衝撃的で今も覚えています。その後、視点を変えて他の魅力を探す研究を進め、最終的には海苔が持つ腸管免疫作用を見つけることができました。
私はこのとき、与えられた環境の中で試行錯誤し、「上手くいかないことから得られる学び」を実感しました。また、この時の経験が研究者人生としての転機になったような気がします。

20240110_hito03.jpg△大学時代の山﨑有美さん


■学生自身の興味関心の高い題材を研究

今の研究室では、学生が興味関心を持っている題材を研究するようにしています。地域資源創成学部なので、できるだけ地域資源を活用しながら、私と学生が共感できる研究をするようにしています。今年でいうと、ラーメンが好きだけれど血糖値が気になるという学生の思いと、妊娠糖尿病を経験した私の実体験を伴う関心を組み合わせて、糖尿病の研究を行う予定です。

2021年度に卒業した学生の例ですが、ソフトボールをしている女性アスリートの学生がいました。この学生は、女性アスリートのためになる商品を開発したいという強い思いを持っていました。研究室では前例のない取り組みでしたが、女性アスリートの課題の一つである「骨粗鬆症」に着目した食品開発に挑戦することにしました。

「骨粗鬆症」の予防には、柑橘類に含まれるβ-クリプトキサンチンという成分が有効であることが知られているのですが、この成分は宮崎県特産品のキンカンにも多く含まれていました。この地域資源を生かして商品開発ができないかと考えていたところ、アスリート向けに食品を提供していた株式会社Milk Lab.さんにご協力いただけることになり、共同開発で「優乳甘酒きんかん」を作り上げ、商品化されるに至りました。

商品化までの道のりは、長いものでした。商品に用いるキンカンの適切な加工条件や殺菌条件の検討、混合によるβ-クリプトキサンチンの変化、β-クリプトキサンチンの体内への吸収性など、多岐にわたり解析が必要でした。ただ、担当の学生さんは、情熱をもって研究に取り組み、商品化まで完走しました。この研究結果は、日本食品科学工学会誌に掲載されています。

出来上がった食品は、宮崎県の生乳と米麹で作った甘酒に、宮崎の特産品である完熟きんかんペーストを使用した「フローズン優乳甘酒 完熟きんかん」です。砂糖や添加物を一切使っておらず、自然の甘さだけでさっぱりとしているためとても美味しいです。これからも学生自身が興味のある分野を中心に研究してもらい、それが最終的には地域課題の解決につながればと考えています。

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■食べることの楽しさを伝えたい

食べることは生きていくうえで必要不可欠なことです。
しかし、毎食の献立で栄養素を考えて調理することは、大変ではないですか?私自身、職業柄結構考えている方だとは思うのですが、子供がいると、時間も無いし、結構雑になっています(笑)。以前は、子供にこそ栄養バランスが取れている、よりよい食事を...!と考えていました。ただ、現実には、腕によりをかけた時ほど食べてくれないということが日常茶飯事です(笑)。「食べて~!」と頭から角が出てしまい、あとから反省することもしばしば。「楽しい時間」になって欲しいお食事タイムが、母の鬼の角により苦痛になってしまうのは本末転倒ですよね(苦笑)。

もし、子供の食事について悩んだり、ため息がつい出ちゃう保護者の方には、声を"大"にして言いたいです。「大丈夫!十分頑張ってる!凄い!」と!!!子供の食事について悩むほどの方であれば、必要な栄養は準備してあげられていると思います。食べない日があったって、お腹がすけば子供は食べます!自分を存分に褒めて、肩の力を抜いて、家族との食事のひと時を楽しんでください。

最近は、その日の中でバランスよく食べられたら花丸!食べられなくても、次の日に調整すればいいじゃないと考えらるよう、私自身も修行中です。シンプルに、食べることは、楽しいものだと思って欲しいですし、「楽しく美味しく食べる」ことが大切だという新しい視点を、子供達に教えてもらいました。この「楽しく美味しく食べる」という感覚を、素直な幼少期に学んでいてほしいなという想いから、地域のこども園での活動も行っています。

最近では、「五感の認知と五感と食べ物の関係」や「五感を感じながら食事をする楽しさ」を知ってもらい、しっかり噛み、美味しく、楽しく食べる方法を身に付けて欲しいとの想いで38名の園児を対象に大学生と一緒に劇やワークショップを行いました。

園児には目隠しをして食べてもらったり、手触りを確かめてもらったり、匂いを嗅いでもらったりしながら五感を感じながら食を体感してもらいましたが、みんな楽しそうな笑顔を見せてくれたのが何よりでした。

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■視線の先に

好奇心旺盛なので、これから何に挑戦していくのか、自分でもワクワクしています!今は小さな先生(子供達)からの「なんで?どうして?」に応える活動が多くなっていますが、食事は生きていくために不可欠なものであり、どの世代に対しても「食育」は必要ですから。いずれにしても、無限大の未来が広がる子供達への食育活動は継続していきたいですね。

今回は、五感で学ぶ「食」に関する活動をご紹介しましたが、宮崎固有の地域資源である伝統野菜などを播種、定植、栽培、収穫、調理、実食する活動や、かるたやペープサートを使った食育活動、レシピ動画の発信にも取り組んでいます。子供たちがこれらの経験を通じて、食への興味関心を持ってくれるよう、今後も地域の保育園や幼稚園、こども園などと連携しながら、食育活動を推進することで、子供たちに生涯を通じて食べることについて考える機会を提供していきたいと思います。

一人でも多くの若者が食に興味を持つことが、自らの健康にもつながるでしょうし、地域の宝である伝統野菜をはじめとする宮崎県の特産品を守っていくことにも繋がると考えています。私にできることは微力かもしれませんが、これからも元気なみやざきを後世に残すことができるよう、食べることの楽しさを伝え続けていけたらと思っています。

最後に。私のこれまでの歩みは、家族の支えや協力があったからこそ、そして、食が繋いでくれたご縁ある皆様のお力があったからこそだと感じています。そしてそこには、食を基軸として生まれた「笑顔」もあったなと。私の専門は食品機能学なので、やはり適切な食事を摂取することで、健康の維持増進に寄与する情報を伝えたいとの思いは変わらずあります。ただ、やはりそこに「笑顔」があって欲しいと思うのです。食で誰かを「笑顔」にできる研究に、これからも取り組んでいきたいと思います。

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△山﨑有美さん、大好きな子供達と(2023年、飫肥にて)

■取材を通して

宮崎大学の広報係でインターンシップをすることになり、その一環として私たちが在籍している地域資源創成学部の教員である山﨑有美先生の取材をすることになりました。

取材のなかでは、スイスに2年間いたときのことについて、イタリア語がわからず、電子辞書やイラスト等による筆談などでコミュニケーションをしていたこと、近所のおばさんにお裾分けしてもらった手作りのミネストローネが美味しかったこと、一緒にイタリア料理を作ったりしたことなど、写真を見せてくれたり、色んな話しを聞かせてもらいました。

また、「二人の子どもを育てながら大学教員をやっていくことは大変じゃないんですか?」と聞くと、「もちろん大変なこともあるけれど」と前置きした上で、旦那さん(宮崎大学農学部応用生物科学科教員)と「やれる方が、やれることをやる」と、柔軟に家事に育児に取り組めていることや、お酒も好きなので、週末に旦那さんと飲むワインや日本酒が息抜きになっていることなど、色んなことを包み隠さず話してくれました。そして、何より、育児の大変さ以上に、子供達からもらえる笑顔や喜びの方が大きいとのことでした。

全ての話しのなかで出てきたキーワードは「食べること」。食べることを突き詰めていった結果が今の山﨑有美先生の研究につながっているんだなと感じました。突然の取材依頼にも快く対応してくれて本当にありがとうございました。(地域資源創成学部3年広瀬莉奈、高見陽愛)


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△左:広瀬さん、右:高見さん


【関連記事】

▼未就学児を対象とした食育活動 ~ 『五感を通じて""を楽しむ力を育む実践活動』 ~ (2023.11.28)
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https://www.jstage.jst.go.jp/article/nskkk/advpub/0/advpub_NSKKK-D-23-00084/_article/-char/ja
▼宮崎の食を学ぶ「もぐもぐカルタ大会」を開催(2020.1.16
https://www.miyazaki-u.ac.jp/newsrelease/student-info/post-428.html

▼関連動画
【オープンキャンパス(キンカン関連)】
https://www.youtube.com/watch?v=jkm7-ml_bx0&t=1577s

【佐土原ナス】
https://www.youtube.com/watch?v=nrX1UVtSl8A&t=14s
https://www.youtube.com/watch?v=xYKq0XbOy0c
https://www.youtube.com/watch?v=yqCZGkLui_g
https://www.youtube.com/watch?v=_xByaqRpKwI

【カラーピーマン】
https://www.youtube.com/watch?v=VeHcxyoJIzI
https://www.youtube.com/watch?v=kxyihiK3v5U&t=9s
https://www.youtube.com/watch?v=kT2HGpAoaMw&t=43s




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