ニュースリリース
2025年03月17日 掲載
宮崎大学医学部機能制御学講座 生命分子科学分野の徐岩教授の研究グループは、メチル化CpGリピートによって安定化されたZ型DNA-RNAハイブリッドが、岡崎フラグメントの開始および伸長に影響を与え、DNA複製を阻害することを初めて明らかにしました。また、NMR分光法および動的計算を用いて、世界で初めてZ型DNA-RNAハイブリッドの立体構造を決定し、その分子メカニズムを解明しました。Z型ハイブリッドの特徴的なジグザグ構造、小さなヘリックス直径(15Å)、および極めて狭いマイナーグルーブ(8.3Å)がDNA複製の抑制に重要な役割を果たしていることを示しました(図1)。今回の研究では、「Z型DNA-RNAハイブリッド」と呼ばれる特殊なねじれ構造がDNAのコピーを邪魔することを発見しました。本研究成果は2025年3月4日に英国科学雑誌「Nucleic Acids Research」(インパクトファクター:16.7)に掲載されました。
岡崎フラグメントは、1960年代に日本の分子生物学者岡崎令治と妻岡崎恒子によって発見されました。私たちの体の細胞は、成長したり傷を修復したりするためにDNAをコピー(複製)します。DNA複製時に、ラギング鎖がDNA-RNAハイブリッドからの小さな断片(フラグメント)の形で不連続に複製され、「岡崎フラグメント」と名付けられました。この発見は、DNA複製のメカニズム解明に大きく貢献し、分子生物学の重要なマイルストーンとなっています。分子生物学の教科書なら必ず記載されている岡崎フラグメントの研究は、日本の分子生物学の金字塔であると言われています。しかし、DNA-RNAハイブリッド構造が岡崎フラグメントの形成にどのように影響を与えるかは、長年未解明のままでした。
岡崎フラグメントの謎を解明1962年、ジェームズ・ワトソンとフランシス・クリックはDNAの二重らせん構造を解明し、ノーベル生理学・医学賞を受賞した。彼らが示した「右巻き」のB型DNAは、まさに生命の設計図そのものです。しかし、生命のコードはそれだけでは終わりませんでした----「もう一つのDNAらせん」、それがZ型DNAです。Z型DNA(Z-DNA)は、通常のB型DNAとは真逆の「左巻き二重らせん」を持つ特殊なDNA構造です。そしてこの最新の研究により、このZ型DNAがRNAと結びつき、「Z型DNA-RNAハイブリッド」として機能することが発見されました。
Z型核酸と疾患との関連性 Z型DNAおよびZ型RNAは、遺伝子発現の調節、ヌクレオソームの配置、損傷修復を含む多くの生理学的プロセスに関与していることが知られています。さらに、がんや炎症などの疾患との関連も徐岩教授の研究グループによって報告されています(Nature 606, 594-602, 2022. Cell 180, 1115-1129, 2020.)。本研究は、Z型核酸が生体機能に与える影響について、分子レベルでの新たな知見を提供しており、本研究成果は、DNA複製の基本メカニズムの理解を深めるだけでなく、がんや遺伝病の新たな治療標的の開発にも貢献することが期待されます。
(図1) Z 型と A 型のハイブリッドの構造比較。Z 型ハイブリッドは直径が15 Åと非常に小さく、副溝の幅が8.3Åと狭くに対し、A型ハイブリッドは直径が25Åと大きく、副溝の幅が9.5 Å前後と広くとなっている。
この研究は、核酸構造の多様性と機能を深く理解し、新たな治療法の開発につなげる重要な一歩です。今後のさらなる研究によって、Z型DNA-RNAハイブリッドの生物学的意義が明確になり、疾患治療への応用が進むことが期待されます。Z型DNA-RNAハイブリッドの形成を促進する分子をスクリーニングし、新たな創薬ターゲットとしての可能性を検討し、がん治療において、Z型DNA-RNAハイブリッドを標的とする治療戦略を開発し、従来の抗がん剤とは異なる新規な治療アプローチを確立します。
▽詳細はこちらから▽https://www.miyazaki-u.ac.jp/public-relations/20250317_02_press.pdf
Z-form DNA-RNA hybrid blocks DNA replicationhttps://academic.oup.com/nar/article/53/5/gkaf135/8051570?utm_source=advanceaccess&utm_campaign=nar&utm_medium=email&login=true
掲載誌:Nucleic Acids Research論文タイトル: Z-form DNA-RNA hybrid blocks DNA replication著者: Shiyu Wang, YanXuDOI:10.1093/nar/gkaf135
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