3.発表概要: 東京大学医科学研究所 附属感染症国際研究センター システムウイルス学分野の佐藤准教授が主宰する研究コンソーシアム「The Genotype to Phenotype Japan (G2P-Japan)」は、新型コロナウイルスの「懸念される変異株(VOC:variant of concern)」(注6)のひとつである「デルタ株(B.1.617.2系統)」が、従来株に比べて病原性が高いことを明らかにしました。また、デルタ株のスパイクタンパク質の細胞融合活性は、従来株や他の変異株に比べて顕著に高く、その活性は、スパイクタンパク質のP681R変異によって担われていることを明らかにしました。そして、P681R変異を持つ新型コロナウイルスを人工合成し、ハムスターを用いた感染実験(注7)を実施した結果、P681R変異の挿入によって、病原性が高まることを明らかにしました。 本研究成果は2021年11月25日(英国時間午後4時、日本時間26日午前1時)、英国科学雑誌「Nature」オンライン版で公開されました。
用語解説: (注1)研究コンソーシアム「The Genotype to Phenotype Japan (G2P-Japan)」 東京大学医科学研究所 システムウイルス学分野の佐藤准教授が主宰する研究チーム。日本国内の複数の若手研究者・研究室が参画し、研究の加速化のために共同で研究を推進している。現在では、イギリスを中心とした諸外国の研究チーム・コンソーシアムとの国際連携も進めている。 (注2)デルタ株(B.1.617.2系統) 新型コロナウイルスの流行拡大によって出現した、顕著な変異を有する「懸念すべき変異株(VOC:variant of concern)」のひとつ。現在、日本を含めた世界各国で大流行しており、パンデミックの主たる原因となる変異株となっている。 (注3)スパイクタンパク質 新型コロナウイルスが細胞に感染する際に、新型コロナウイルスが細胞に結合するためのタンパク質。現在使用されているワクチンの標的となっている。 (注4)細胞融合活性 新型コロナウイルスのスパイクタンパク質を介して、細胞どうしが融合する活性。 (注5)P681R変異 デルタ株のスパイクタンパク質に特徴的な変異。スパイクタンパク質の681番目のプロリン残基(P)がアルギニン(R)に置換した変異。Furinという細胞性プロテアーゼによって認識・切断される部位の近傍に位置している。 (注6)懸念される変異株(VOC:variant of concern) 新型コロナウイルスの流行拡大によって出現した、顕著な変異を有する変異株のこと。現在まで、アルファ株(B.1.1.7系統)、ベータ株(B.1.351系統)、ガンマ株(P.1系統)、デルタ株(B.1.617.2系統)が、「懸念される変異株」として認定されている。伝播力の向上や、免疫からの逃避能力の獲得などが報告されている。多数の国々で流行拡大していることが確認された株が分類される。 (注7)ハムスターを用いた感染実験 ハムスターが、COVID-19の感染動物モデルとして有用であることが示されている。