ニュースリリース
2024年02月15日 掲載
この度、2024年2月14日内閣府講堂において開催された内閣府主催の第6回日本オープンイノベーション大賞授賞式において、本学医学部・下田和哉教授らが「科学技術政策担当大臣賞」を受賞されましたので、お知らせいたします。
同賞の審査においては、Chordia Therapeutics株式会社(本社:神奈川県藤沢市、代表取締役:三宅洋、以下、Chordia)、京都大学、宮崎大学及びAMEDとの産学官連携により、官民ファンドからの協力を得て、新規抗がん薬MALT1阻害薬(後述)を創出し、国内の製薬会社への導出を成功させたことが、今後日本の創薬エコシステムの新しいロールモデルとして高く評価されたものです。
下田教授らのグループは、基礎研究~臨床研究を通してMALT1阻害剤「CTX-177」を創出しました。CTX-177の創出に係る研究は、下田教授が約10年前に成人T細胞白血病リンパ腫(世界的には日本に多く発症し、特に九州地方に多い難治性の血液がん、以下、ATL)のゲノム異常を解明し発表した研究成果を基に始められたものです(Nature Genetics, 2015)。本研究成果は、当初の研究対象であったATLのみならず他の悪性リンパ腫に対する治療方針に大きな示唆を与えたことでも重要な発見として位置づけられています。さらに下田教授のグループは、新規な薬剤のターゲットとして粘膜関連リンパ組織リンパ腫転座1(Mucosa-associated lymphoid tissue lymphoma translocation protein1、以下、MALT1)を選定しました。MALT1の活性化はリンパ球系の血液細胞のがん化に重要であることが報告されており、MALT1の選択的な阻害剤として創出されたCTX-177は、リンパ球系の血液腫瘍に抗腫瘍効果を示す画期的な新薬として期待されています。
これらの成果については、下田教授をはじめ、本研究に関わった研究者の共同発表の成果として、米国血液学会にて数回にわたり発表されています(2020年、2022年米国血液学会)。
日本オープンイノベーション大賞について
イノベーションの創出を巡る国際的な競争が激化する中で、研究開発等の成果を迅速に社会実装し、社会的ニーズの解決や新たな価値の創造につなげることが大きな課題となっています。そのための方法として、産官学の組織の壁を越えて知識や技術、経営資源を組み合わせた新しい取組みを推進するオープンイノベーションが注目されています。
こうした状況を踏まえ、日本のオープンイノベーションを更に推進するために、今後のロールモデルとして期待される先導性や独創性の高い取組みを「日本オープンイノベーション大賞」として表彰しています。
第6回日本オープンイノベーション大賞について(内閣府) https://www8.cao.go.jp/cstp/openinnovation/prize/2023.html
Chordia Therapeutics株式会社についてChordiaは、2017年11月に臨床開発品を有する、がん領域に特化した研究開発型バイオベンチャーとして、神奈川県藤沢市の湘南ヘルスイノベーションパークに設立されました。
Chordiaは、小野薬品工業株式会社(本社:大阪市中央区、代表取締役社長:相良暁)と、2020年12月15日付でCTX-177およびその関連化合物に関するライセンス契約を締結しました。契約一時金~開発マイルストン~売上高に応じたマイルストンとして、Chordiaには最大496億円が支払われる見込みです。そのほか、同社では、特定の異常を有するがんに効果が期待される複数のパイプラインの研究開発を行っています。
詳細については、以下をご参照ください。https://www.chordiatherapeutics.com
【プロジェクト関係者リスト】
宮崎大学医学部内科学講座血液・糖尿病・内分泌内科学分野 教授 下田和哉京都大学医学研究科腫瘍生物学講座 教授 小川誠司Chordia Therapeutics株式会社 Chief Scientific Officer 森下大輔公益財団法人京都高度技術研究所 京都市ライフイノベーション創出支援センター アドバイザー 谷田清一京都大学イノベーションキャピタル株式会社 投資第二部部長 上野博之
▼受賞者のコメント;
本研究は私が米国留学の中で温め、帰国後に具現化したものです。ただ正直なところ、新しい医薬品を患者に届けたいという情熱だけで突き進んできたというのが実際かと今は振り返っています。その私の荒削りな志を共同受賞者の方々との出会いが、そして相互信頼が、支えてくださったからこそ、予期せぬ研究環境の変化もあった中でも1つの形として完遂出来たのだと強く実感しています。これまで一緒に取り組んでくださった方々皆様に心より感謝を申し上げ、また次なる新薬開発に一緒に取り組む機会を頂ければ幸いです。
私が京都大学で研究を開始してまもなく、米国留学から帰国した森下氏と出会ったのが2014年、それから産学連携での創薬研究に協力して取り組んで参りました。これまで私自身はがんのゲノム異常という観点でがんの性状を明らかにすることを行ってきましたが、その成果を基にして新薬候補が創出する場に直接関わり、そして貢献できたことは私の研究者としても初めての経験となりました。今回の経験を踏まえて次のさらなる新薬創出に関わる取り組みを行っていきたいと考えています。
私たちの研究の目的は、得られた研究成果を患者さんの治療に直接還元することです。そのため、大学単独での研究にとどまらず、企業と一体となった医薬品開発を約10年前に開始しました。今回の森下氏との共同研究により新薬候補の創出を行うことができたのは得難い経験であり、今回の成果を礎に、産学連携による創薬研究にさらに取り組んでいきたいと考えています。
薬づくりのエコシステムの構築を念頭に置きながらオープンイノベーション創薬を支援するプログラムの推進役を務めるなかで、アカデミアの最先端を行くがんゲノム技術に支えられて大手製薬企業をカーブアウトしたスタートアップで研究する森下氏に巡り合いました。私自身はテーマ担当者に寄り添いながらテーマの進捗を側面から支え、ここまでその「航路」を見守ってきました。その成果として、新規抗がん薬の創出と、世界に通用するグローバルスタートアップとしての確かな成長を見届けることができたと考えています。
産官学連携による本研究成果の社会実装を、スタートアップであるChordia Therapeutics株式会社へ引継ぐことに貢献できたことを光栄に思います。Chordiaでは、森下CSOが率いるチームが、本研究開発を京都大学・宮崎大学などの研究機関と協力し、迅速かつ有効に進めました。更に、本研究成果を基とした高度なビジネス判断を実施してきたと振り返ります。Chordia従業員の皆様、投資家や事業会社の皆様、研究機関や国機関の皆様、本イノベーションに関わっていただいた多くの関係者の皆様に感謝申し上げます。
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