宮崎大学
ニュースリリース

防鹿柵の設置はブナの成長低下と土壌微生物の多様性低下を防ぐ

2024年11月27日 掲載

防鹿柵の設置はブナの成長低下と土壌微生物の多様性低下を防ぐ ~シカの過採食による森林衰退を止める有効な手立てとして期待~

テニュアトラック推進室徳本雄史准教授と、九州大学、岡山大学からなる研究グループは、熊本県白髪岳のブナ林に設置された防鹿柵の内外で、ブナの成長と土壌微生物相を比較しました。ブナの成長量は、年輪解析を通じて比較し、柵外の個体はシカ採食の激化に伴い成長が低下していたのに対し、柵内の個体ではそのような成長低下は見られませんでした。土壌微生物相については、環境DNA分析を通じて比較し、柵内の土壌は真菌類など一部の微生物群の多様性が高い状態にあることが判明しました。これら柵設置による保全結果は、下層植生が土壌侵食を抑制し、ブナの成長に影響する樹木根系の露出や、土壌微生物に影響する土壌の物理化学特性の変化を抑止した結果であることも分かりました。以上の成果は、防鹿柵の設置が樹木衰退や土壌微生物相の劣化の防止にも有効なことを意味します。

ポイント

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1 白髪岳の様子

【研究の背景と経緯】

近年、個体数の増加したニホンジカによる、強度な植生採食が全国的な問題となっています。特に九州南部の山岳森林では下層植生の消失が顕著であり、ブナの大径木の枯死も起こっています(図1)。本研究チームはこれまで、九州南部の山岳ブナ林において研究を展開し、下層植生の消失が土壌侵食を加速させ、ブナの衰退や土壌微生物相の劣化などを引き起こすことを報告してきました。こうした林床環境の変化に関連する樹木群集や土壌微生物群集の劣化は、森林生態系全体の衰退へと波及する恐れがあります。本地域では現在、シカの侵入を防ぐ防鹿柵の設置が進められています。防鹿柵は下層植生を保全する一方、先述のブナの衰退や微生物群集の劣化の防止にも有効かは不明でした。従って、本研究チームは熊本県あさぎり町に位置する白髪岳において、防鹿柵の内外でブナの成長と土壌微生物相を比較し、防鹿柵による保全効果とそのメカニズムを評価しました。

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図2 柵内外のブナの根の露出状況(左)と成長量の推移(右)

図は論文1Graphical Abstractより引用。

【今後の展開】

今回の研究により、防鹿柵の設置に伴う下層植生の保全が、在来の樹木群集と土壌微生物群集の保全に貢献することが分かりました。これは、今後の森林管理において、強度なシカ採食による樹木成長や土壌環境への悪影響を最小限に抑えるため、防鹿柵の設置が有効な手段であることを示唆します。一方、本地域の保全効果が他の地域でも得られるのかは未だ不明なため、本研究の一般化には地域ベースの知見をさらに集積していくことが期待されます。

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図3 柵内外の環境変数と土壌微生物群集のパラメーターの比較

左からa)土壌炭素窒素比、b)容積重、c)真菌群集の多様性指数、d) 土壌炭素窒素比と低栄養細菌の相対的な存在量の負の関係

【論文情報】

論文1:ブナの成長の比較に関する研究

掲載誌:Journal of environmental management
タイトル: Protection of understory vegetation by deer exclosure fences prevent the reduction of beech growth due to soil erosion
著者: Hayato ABE*, Dongchuan FU, Tadamichi SATO, Yuji TOKUMOTO, Fujio HYODO. Ayumi KATAYAMA
DOI:https://doi.org/10.1016/j.jenvman.2024.123146

論文2:土壌微生物相の比較に関する研究

掲載誌:Forest Ecology and Management
タイトル: Effects of deer-exclusion fences on soil microbial communities through understory environmental changes in a cool temperate deciduous forest in Southern Japan
著者: Yuji TOKUMOTO, Yuki SAKURAI, Hayato ABE, Ayumi KATAYAMA
DOI:https://doi.org/10.1016/j.foreco.2024.121993

詳細はこちらから

プレスリリース
202411月27日:https://www.miyazaki-u.ac.jp/public-relations/20241127_02_press.pdf

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