宮崎大学
ニュースリリース

スダジイの高精度なドラフトゲノムの構築:温暖帯林の生態系や木材科学、品種改良への貢献に期待

2025年09月29日 掲載

宮崎大学研究・産学地域連携推進機構テニュアトラック推進室徳本雄史准教授と、農学部 雉子谷佳男教授の研究チームは、日本の温暖帯林に広く分布し、生態系や文化的に重要な役割を担う常緑広葉樹「スダジイ」の高精度なドラフトゲノム(※1)を構築しました。本研究成果は、これまで不明であったスダジイとその近縁種のツブラジイとの種分類や、交雑個体の遺伝的背景の解明に大きく貢献するものです。また、木材科学や樹木の品種改良といった応用研究の加速が期待されます。

【発表のポイント】

【概要】
 日本の温暖帯林に広く分布する常緑広葉樹「スダジイ」は、生態系や文化的に重要な役割を担う一方で、近縁種のツブラジイとの間で長年にわたり種分類をめぐる議論が続いていました。また、木材や燃料としても利用されてきたことから、品種改良を含めた応用研究の基盤となるゲノム情報の解明が求められていました。
 本研究では、熊本県合志市のスダジイを対象(図1)に次世代シーケンサー(※2)を用いて解析を行い、スダジイのゲノムサイズは推定8億1291万塩基対であり、ヘテロ接合率(※3)が2.13%と比較的高いことが分かりました。この情報に基づき、長鎖DNAシーケンスを組み合わせて、合計9億5900万塩基対、267本のコンティグ(※4)からなる高品質なドラフトゲノムを構築しました。このゲノムデータは、90%以上のリードマッピング率(※5)と98.7%という高い遺伝子完全性(※6)を示しており、今後の研究に十分に活用できることが確認されました。
 この成果は、これまで不明であったスダジイとツブラジイの形態的・遺伝的な違いを生み出す遺伝子の特定や、交雑個体の遺伝的背景の解明に大きく貢献するものです。また、木材科学や樹木の品種改良といった応用研究の加速が期待されます。
 本研究成果は、科学雑誌「Journal of Forest Research」誌の第30巻5号に掲載されました。本研究チームは、今回得られた知見を基にして、樹木やその利用について引き続き研究を進めています。

【展望】
今回構築したスダジイのゲノムデータは、種同定、分子生態学研究、そして木材科学の分野において極めて重要な基盤情報となります。特に、スダジイとツブラジイの形態的・遺伝的違いを生み出す遺伝子の特定や、交雑個体の遺伝的特性の解明が進むと期待されます。また、木材の材質向上や病害抵抗性を持つ個体の選抜など、樹木の品種改良に向けた研究開発にも貢献します。将来的にはより高精度なゲノムアセンブリの構築を目指します。

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図1 本研究で解析対象としたスダジイ。国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所 林木育種センター 九州育種場で生育している個体(熊本県合志市)。撮影者:徳本

【用語解説】
※1 ドラフトゲノム: ゲノム(生物の設計図となる遺伝情報の全体)の全塩基配列のうち、大部分が解読された暫定的なゲノム情報
※2 次世代シーケンサー:生物の設計図であるDNAの塩基配列を、高速かつ大量に、同時に解析できる装置
※3 ヘテロ接合性: 親から受け継いだ遺伝子が異なる状態
※4 コンティグ: ゲノム解析によって得られる、連続したDNA配列のまとまりのこと
※5 リードマッピング率: 得られたDNA断片(リード)が、構築したゲノム配列上のどこに位置するかを正確に特定できた割合
※6 遺伝子完全性: ゲノム解析によって、既知の遺伝子がどれだけ網羅的に含まれているかを示す指標

【論文情報】
タイトル: Genome assembly of the evergreen broad-leaved tree Castanopsis sieboldii (Makino) Hatus. ex T. Yamaz. et Mashiba subsp. sieboldii (Fagaceae)
著者: 徳本雄史1,*, 雉子谷佳男2 
所属:
1: 宮崎大学 研究・産学地域連携推進機構テニュアトラック推進室, 2: 宮崎大学 農学部農学科
*: 連絡責任者
掲載誌: Journal of Forest Research
Volume 30, Issue 5, 385-392
DOI: https://doi.org/10.1080/13416979.2025.2505153
オンライン出版日: 2025年5月20日

プレスリリースはこちらから
https://www.miyazaki-u.ac.jp/public-relations/20250929_02_press.pdf

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