宮崎大学
ニュースリリース

「副作用が発現しやすい患者」を事前に見極める ―新世代睡眠薬レンボレキサントによる悪夢のリスク因子を世界で初めて解明―

2026年06月12日 掲載

「副作用が発現しやすい患者」を事前に見極める ―新世代睡眠薬レンボレキサントによる悪夢のリスク因子を世界で初めて解明―

【発表のポイント】
●    精神科患者327名の実臨床データを用いた解析により、新世代睡眠薬レンボレキサントによる悪夢のリスク因子を世界で初めて明らかにしました。
●    「若年層(10~29歳)」「タンドスピロン併用」「ベンゾジアゼピン系からの切り替え」の3因子が悪夢の独立したリスク因子であることを確認し、注意が必要な患者像を示す実践的な知見を得ました。
●    悪夢発現率は8.0%で、市販後調査の報告(1.76%)の約4.5倍に相当し、 精神科臨床の現場では想定以上に悪夢が多くみられる実態が明らかになりました。
●    先行研究では、スボレキサントにおいても若年層で悪夢が多くみられることが報告されており、若年層における悪夢リスクはオレキシン受容体拮抗薬に共通する特性である可能性が示唆されました。
●    50歳以上の患者ではレンボレキサントによる悪夢の発現が少なく、高齢者においても比較的安全に使用できる睡眠薬である可能性が示唆されました。

【概要】
 宮崎大学医学部附属病院薬剤部の保田和哉らの研究グループは、宮崎大学医学部臨床神経科学講座精神医学分野 平野羊嗣 教授らとの共同研究により、新世代睡眠薬であるデュアルオレキシン受容体拮抗薬(DORA)レンボレキサントによる悪夢のリスク因子を世界で初めて明らかにしました。
 精神科患者327名を対象とした後方視的研究の結果、「若年層(10~29歳)」、「タンドスピロンの併用」、「ベンゾジアゼピン系薬からの切り替え」の3つが、悪夢の独立したリスク因子であることを見出しました。一方で、50歳以上の患者では悪夢の発現は少なく、高齢者にとって使いやすい睡眠薬である可能性が示されました。この「若年層ほど悪夢が多い」という傾向は、先行研究で報告したスボレキサントの結果とも一致しており、DORA共通の特性であることが裏付けられました。
本研究結果は2026年に米国の学術誌『Journal of Clinical Psychopharmacology』に掲載されました。

【背景】
 精神疾患を持つ患者では不眠が多く、 不眠の持続は精神症状の悪化や日常生活、 治療全体に大きな影響を及ぼします。従来広く使われてきたベンゾジアゼピン系睡眠薬には、依存性や転倒リスク、筋弛緩などの問題があり、特に高齢者では注意が必要です。
 近年登場したDORA(注1)は、覚醒を促す神経ペプチド「オレキシン」の働きを抑えることで、自然な睡眠を促す新しいタイプの睡眠薬で、 ベンゾジアゼピン系睡眠薬のような依存性や転倒のリスクが少ない一方で、REM睡眠の増加に伴う悪夢のために中断を余儀なくされることがあります。悪夢は単なる不快な体験にとどまらず、精神疾患の悪化に関連することが知られており、その使用が増えてきた臨床現場ではそのリスク因子の解明が急務でした。
 宮崎大学病院ではスボレキサントの採用当初から、精神科医による中止理由の体系的な記録と薬剤師によるフォローアップ記録を維持しており、主観的な症状である悪夢を信頼性高く把握できる独自のデータ基盤を有しています。研究グループはそのデータを用い、 先行研究で、DORAの1つであるスボレキサントにおいて若年層で悪夢が多いことを報告しました(関連論文)。さらに、 使用症例が蓄積したレンボレキサントについて詳細な後方視的解析を行うことにしました。

【成果】
 本研究では、2020年1月から2024年9月までに宮崎大学医学部附属病院精神科でレンボレキサントを処方された精神科患者327名を対象に、悪夢による中止率とそのリスク因子を後方視的に解析しました。主な結果は以下の通りです。
■ 悪夢の発現率は「想定以上」
 悪夢によるレンボレキサントの中止率は8.0%(26名/327名)であり、市販後調査(1.76%)の約4.5倍に達しました。精神科患者では一般集団よりも悪夢のリスクが高いことが明らかになりました。悪夢発現までの中央値は35.5日で、最短1日から最長1476日と幅広い分布を示しました。
■ 3つの独立したリスク因子を同定
 多変量ロジスティック回帰分析により、以下の3因子が悪夢の独立したリスク因子として同定されました。
●    若年層(10~29歳):オッズ比3.1倍
●    タンドスピロンの併用:オッズ比6.2倍
●    ベンゾジアゼピン系からの切り替え:オッズ比3.0倍
 これらの結果は、Cox比例ハザード回帰分析でも確認され、3因子いずれも悪夢のより早期の発現と関連していました(下図)。

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図 リスク因子別の悪夢の累積発現率(A: 年齢、B: BZD切り替え、C: タンドスピロン)
■ 50歳以上の患者では悪夢のリスクが低い
 年齢によるリスク層別化を検討した結果、50歳以上の患者では悪夢の発現が少なく、レンボレキサントは高齢者にとってより安全な睡眠薬である可能性が示唆されました。高齢者ではREM睡眠が生理的に減少することが知られており、これが悪夢リスク低下の一因と考えられます。
■ スボレキサントでも同様の傾向―DORAに共通するリスク特性
 研究グループの先行研究では、同じDORAであるスボレキサントにおいても、若年層(20~39歳)で悪夢の発現率が有意に高く、発現までの期間が短いことを報告しています。今回のレンボレキサントでの結果と合わせ、若年層における悪夢リスクはDORAという薬剤クラスに共通する特性であることが確認されました。

【展望】
 本研究はDORA継続に問題となる要因を具体的に示すことで、日常診療に直結する実践的な知見を提供します。若年患者やベンゾジアゼピン系からの切り替え中の患者に対しては、投与初期の注意深いモニタリングが求められます。一方、50歳以上の高齢患者では悪夢のリスクが低く、せん妄予防効果も報告されていることから、DORAは高齢者に特に適した睡眠薬と考えられます。
 スボレキサントとレンボレキサントの両薬で若年層の悪夢リスクが一貫して示されたことは、DORAに共通する特性である可能性を示唆しており、今後登場する新規DORAを含め、DORA全体の安全管理にも活用できる知見です。今後は大規模多施設の前向き研究による検証が期待されます。

【論文情報】
掲載誌:Journal of Clinical Psychopharmacology
タイトル:Clinical Characteristics Associated With Nightmares During Lemborexant Treatment in Psychiatric Patients: A Retrospective Study
著者名:Kazuya Yasuda, Hiroaki Kubo, Shunsuke Tamura, Ryuichiro Takeda, Ryuji Ikeda, Yoji Hirano
DOI:https://doi.org/10.1097/JCP.0000000000002194
関連論文:Yasuda K, Hirano Y, Takeda R, et al. Characteristics of psychiatric patients with nightmares after suvorexant administration: a retrospective study. Neuropsychopharmacology Reports. 2025;45(1):e12506.

用語説明
<注1> デュアルオレキシン受容体拮抗薬(DORA):覚醒を促進する神経ペプチドであるオレキシンの受容体をブロックすることで、過度な覚醒を抑えて自然な睡眠を促す薬剤。レンボレキサントはOX2Rへの選択性が高く、スボレキサントはOX1R・OX2Rへの親和性が同等である。
<注2> ベンゾジアゼピン受容体作動薬:GABAₐ受容体のベンゾジアゼピン結合部位に作用し、抑制性の神経伝達を強めることで鎮静作用を発揮する従来の睡眠薬。依存性や転倒リスクなどの副作用が知られる。
<注3> タンドスピロン:セロトニン5-HT₁A受容体の部分作動薬である抗不安薬。REM睡眠に影響を与え、悪夢やREM睡眠行動障害との関連が報告されている。
<注4> REM睡眠:急速眼球運動(Rapid Eye Movement)を伴う睡眠の一段階。夢を見ることが多く、DORAによるREM睡眠の増加は悪夢の頻度上昇に関連すると考えられている。高齢者ではREM睡眠が減少することが知られており、これが高齢者での悪夢リスク低下の一因と考えられる。

プレスリリースはこちらから
https://www.miyazaki-u.ac.jp/public-relations/20260612_01_press.pdf

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