宮崎大学
ニュースリリース

腎臓における水分再吸収状態を読み解く指標を世界に先駆けて尿から発見 ~新規診断マーカーへの応用に期待~

2026年07月24日 掲載

腎臓における水分再吸収状態を読み解く指標を世界に先駆けて尿から発見
~新規診断マーカーへの応用に期待~

宮崎大学研究・産学地域連携推進機構テニュアトラック推進室 東島佳毅准教授、農学部獣医学科6年 森脇茉結氏、同 川口珠実氏(研究当時)、同 横手飛洋氏(研究当時)、医学獣医学総合研究科 Natasha Imanuelle氏、農学部 園田紘子准教授、群馬大学医学部 松崎利行教授、宮崎大学農学部 池田正浩教授のグループは、尿中に排泄される細胞外小胞(uEVs)(注1)に含まれる水チャネル・アクアポリン2(AQP2)(注2)のリン酸化体を解析することによって、腎臓の水分再吸収状態を評価できる可能性を明らかにしました。このことは、生体の水分調節状態を非侵襲的に評価できる診断マーカーの開発につながることが期待されます。研究成果は、2026年7月22日にAmerican Journal of Physiology Renal Physiologyに掲載されました。

【発表のポイント】

【概要】
 尿中には、エクソソームやマイクロベシクルなどの細胞外小胞(uEVs)が排泄されています。近年、こうしたuEVs中に含まれるタンパク質や核酸を調べることで、病気や体の状態を非侵襲的に評価する技術が注目されています。バソプレシンは腎臓に働きかけて尿量を調節する重要なホルモンであり、その分泌異常や作用不全は尿崩症などの多尿を呈する疾患に関わります。また、心不全などの循環器疾患でも血中バソプレシン濃度が変化することが知られています。一方で、血中バソプレシン濃度の測定は、バソプレシンの不安定性などにより技術的に困難でした。
 本研究では、腎臓のAQP2がバソプレシンによってリン酸化されること、またリン酸化されたAQP2がuEVs中に排泄されることに着目し、uEVs中のAQP2リン酸化体を調べることで、腎臓でバソプレシンがどの程度働いているのかを評価できるのではないかと考えました。ラットを用いた研究により、269番目のセリン残基がリン酸化されたAQP2(pS269-AQP2)が、腎臓でのバソプレシンの作用を鋭敏に反映する可能性が示されました。これらの結果から、uEVs中のpS269-AQP2は、腎臓の水分調節状態を非侵襲的に評価する新たな指標となることが期待されます。

【背景】
 汗などをかいて体の水分量が減少したとき、抗利尿ホルモン・バソプレシンが脳下垂体から分泌されます。バソプレシンは腎臓に働きかけ、水分の再吸収を促進することで体の水分バランスを維持しようとする重要なホルモンです。バソプレシンの生理機能が不全に陥ると、腎臓での水分再吸収が正常に行われなくなり、多尿となる尿崩症が生じます。一方で、心不全などの循環器疾患では、代償的に血中のバソプレシン濃度が上昇することによって臓器障害を進展させる可能性があります。このように、血中のバソプレシン濃度を測定することは、尿崩症の診断や体液バランスを把握する上で重要です。しかし、バソプレシンは血中での半減期が短く、不安定であり、さらに血小板などにも結合しやすいため、活性を反映したバソプレシン濃度を血中で正確に測定することは技術的に難しいと考えられています。そのため、血中バソプレシンの代替マーカーとしてコペプチン(注3)の測定が考えられています。しかし、コペプチンにはバゾプレシン活性はなく、腎臓での活性を直接的に反映するものではありません。
 バソプレシンが腎臓に作用すると、AQP2が細胞質から尿が接している側の細胞膜へ移動し、水の再吸収が促進されます。この過程では、AQP2がリン酸化されることが知られています。近年、尿中にはエクソソームやマイクロベシクルなどの細胞外小胞(uEVs)が排泄されており、uEV中に含まれるタンパク質や核酸がバイオマーカー(注4)として有用である可能性が報告されています。さらに、uEVs中にはリン酸化されたAQP2が含まれることも分かっていました。
 そこで本研究では、uEVs中のリン酸化AQP2を解析することで、腎臓でのバソプレシン活性を推定できるのではないかと考えて、研究を実施しました。

【成果】
 合成バソプレシン誘導体であるデスモプレシンをラットに投与し、バソプレシンがリン酸化AQP2のuEVs中への排泄に及ぼす影響を調べました。デスモプレシンは、AQP2のリン酸化体であるpS256-AQP2およびpS269-AQP2のuEVs中への排泄を増加させました。バソプレシンは腎臓でのAQP2タンパク質の総発現量を増加させる働きも有していますが、pS269-AQP2については、腎臓でのAQP2タンパク質発現量の増加が明らかになる前の早い段階から、uEVs中への排泄が増加する可能性が示されました。また、脱水条件にしたラットにおいても、pS256-AQP2およびpS269-AQP2のuEVs中への排泄は増加しており、pS269-AQP2の方が尿濃縮の指標である尿浸透圧や尿電解質濃度(尿中のナトリウムやカリウムなどの濃度)と強く関連していました。
 以上より、pS269-AQP2のuEVs中への排泄は、バソプレシンの作用を鋭敏に反映する可能性が示されました(図1)。uEV中のpS269-AQP2は、腎臓の水分調節状態を非侵襲的に評価する新たな指標となる可能性があります。

【展望】
 今回のラットを用いた研究から、uEVs中のpS269-AQP2が、腎臓でのバソプレシンの働きを反映する指標となる可能性が示されました。この成果は、将来的に、尿を用いて腎臓の水分調節状態を調べる新しい検査法の開発につながる可能性があります。一方で、げっ歯類(ラットやマウスなど)ではAQP2の269番目のアミノ酸はセリン残基ですが、ヒトではスレオニン残基に置き換わっています。ヒトのuEVs中にも、この269番目のスレオニン残基がリン酸化されたAQP2が含まれることが報告されていますが、その役割はまだ十分に分かっていません。今後は、バソプレシンや体液バランスの変化に応じて、ヒトのuEVs中の269番目のスレオニン残基がリン酸化されたAQP2がどのように変化するのかを検証する必要があります。

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図1.本研究の概要図(論文中のグラフィカルアブストラクトを改変)

【論文情報】
雑誌名:American Journal of Physiology Renal Physiology
論文タイトル:Phosphorylation of aquaporin-2 at serine 269 in urinary extracellular vesicles reflects renal vasopressin activity in rats
著者:Yoshiki Higashijima, Mayu Moriwaki, Tamami Kawaguchi, Takahiro Yokote, Natasha Imanuelle, Toshiyuki Matsuzaki, Hiroko Sonoda, Masahiro Ikeda*
DOI:https://doi.org/10.1152/ajprenal.00328.2025

【用語説明】
(注1)尿中に排泄される細胞外小胞(uEVs)
様々な細胞から、エクソソーム(直径約30-150 nm)やマイクロベシクル(直径約100-1000 nm)などの小胞が細胞外に分泌されます。これらを総称して細胞外小胞と呼びます。本稿では、腎臓から尿路にかけて尿に接する細胞から分泌され、尿中に存在する細胞外小胞を、尿中細胞外小胞(urinary extracellular vesicles; uEVs)と呼びます。

(注2)水チャネル・アクアポリン2(AQP2)
抗利尿ホルモン・バソプレシンが、腎臓の集合管主細胞に発現するバソプレシン2型受容体に結合すると、水を選択的に透過するチャネルであるアクアポリン2(AQP2)のC末端側に存在する複数のセリン残基のリン酸化状態が変化します。その結果、AQP2が細胞質から管腔側膜(尿が接する側の細胞膜)へ移動し、水の再吸収が促進されます。

(注3)コペプチン
コペプチンは、バソプレシン前駆体からバソプレシンと共に生成されるC末端側のペプチド断片です。バソプレシンと同様に、脱水などによる血漿浸透圧の上昇や、循環血液量の減少に伴って血液中に分泌されます。バソプレシンは不安定で測定が困難ですが、コペプチンは安定性が高いため、バソプレシンの代替マーカーとして活用されています。

(注4)バイオマーカー
疾患の有無や進行度、治療に対する反応性、薬効などを客観的に評価するための指標です。血圧や心拍数などの生理学的データ、血液検査の項目、血液や尿に含まれる核酸やタンパク質などが該当します。例えば、がんの早期診断を可能にするバイオマーカーの開発が盛んに行われています。

詳細はこちらから

https://www.miyazaki-u.ac.jp/public-relations/20260724_03_press.pdf

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