宮崎大学
ニュースリリース

コンピュータシミュレーションによってセルロース繊維形成機構の一端を解明

2021年01月21日 掲載

宮崎大学工学部環境応用化学科教授の湯井敏文を代表とする、宮崎大学キャリアマネジメント推進機構テニュアトラック推進室の宇都卓也助教、北海道大学大学院工学研究院応用化学部門の田島健次准教授、北海道大学大学院先端生命科学研究院の姚閔教授、および東京大学大学院農学生命科学研究科の砂川直輝特任助教による研究グループは、植物細胞壁の主要成分であるセルロース繊維が形成される仕組みの一端をコンピュータシミュレーションによって明らかにしました。

セルロースは、グルコース残基がb-1,4結合で連結した、一見、単純な化学構造ですが、セルロース繊維を、直径十数ナノメートル(1ナノメートルは1メートルの10憶分の1)まで解して得られるセルロース単繊維はセルロースナノファイバー(CNF)と呼ばれ、同じ直径を持つ鋼鉄の5倍の強度を持つことが知られています。CNFがこのような並外れた強度を示す理由は、単繊維中のほぼすべてのセルロース分子鎖が繊維軸に沿って同じ方向に配列し(高配向)、セルロース分子鎖が規則正しく配置される(高結晶)ためです。

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植物やセルロース合成細菌の細胞表面には、ターミナルコンプレックス(TC)と呼ばれるセルロース繊維を排出する構造体が多数、存在します。近年になって、TCはセルロース合成酵素を含めた複数のタンパク質から構成され、セルロース分子鎖を紡ぎだす超精密ナノマシンであることが明らかになりました。
2010年に北海道大学の姚・田島グループは、酢酸菌TCの構成要素のひとつであるセルロース合成酵素サブユニットD(CeSD)と呼ばれるタンパク質の立体構造を報告しました。CeSDはドーナツ状の構造を持つホモ8量体タンパク質に相当し、4か所のセルロース分子鎖が通過する経路を形成することが分かりました。

図2.png

TC概略図(東京大学大学院農学生命研究科・砂川特任助教から提供頂いたものを改変)

TC構成要素の他のタンパク質は、それぞれの機能がすぐに分かったのですが、CeSDについては立体構造が明らかになっても、セルロース合成における役割が不明でした。しかし、CeSDを欠損した変異株は、大きくセルロース生産量を低下させます。そこで、我々は、北海道大学のグループと共同でCeSDの分子シミュレーション研究を行い、セルロース分子鎖の結合状態やCeSD分子の動きを観察した結果、次のようなことが明らかになりました。
(1)CeSDのセルロース分子鎖経路は、直線状でなく2か所で折れ曲がったS字状の形状になっている。
(2)屈曲部においてセルロース分子鎖は、周囲のCeSD表面から周期的に圧迫を受けている。
以上のことから、セルロース分子鎖はCeSD内部を単純に通過するだけでなく、その移動はCeSDによって周期的に制御されていること、そのため4本のセルロース分子鎖が同期して移動することで、セルロース結晶繊維の形成に寄与することを推定しました。

図3.png

本研究成果は、計算化学分野ではトップクラスに位置する米国化学会の国際学術雑誌「Journal of Chemical Theory and Computation」誌(IF=5.011)に掲載され、その論文掲載号のフロントカバーを飾りました。

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発表論文
掲載誌:Journal of Chemical Theory and Computation (American Chemical Society)
タイトル:Molecular dynamics simulation of cellulose synthase subunit D octamer with cellulose chains from acetic acid bacteria; Insight into dynamic behaviors and thermodynamics on substrate recognition
著者:Takuya Uto, Yuki Ikeda, Naoki Sunagawa, Kenji Tajima, Min Yao, and Toshifumi Yui
掲載巻号ページ:Vol. 17 (1) 488-496, 2021
DOI:https://dx.doi.org/10.1021/acs.jctc.0c01027

YouTubeチャンネル(湯井・宇都研究室 / Yui & Uto Lab.)で、CeSDタンパク質がセルロース分子鎖を制限する様子が観察できます。https://www.youtube.com/channel/UCYqzeTxMaXaV0MEmGRbyS2g

宮崎大学プレスリリース
https://www.miyazaki-u.ac.jp/public-relations/20210121_02_press.pdf

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