2026年1月16日掲載

農学部 教授(令和8年1月現在 農学部長)
2025年度の「宮崎県文化賞」を受賞したのは、宮崎大学のブルーベリー研究を牽引してきた農学研究者であり、現在、農学部長を務める國武久登教授だ。
國武教授は、平成13年に宮崎大学農学部 応用生物科学科の助教授として着任し、平成18年に教授に昇任。果樹の遺伝育種という基礎研究を軸に、研究成果の事業化や地域への普及にも力を注いできた。
さらに、出前講義や市民向け公開講座を通じて、研究の面白さや農業の魅力を社会に伝える活動も続けている。
平成27年からの6年間は、宮崎大学の副学長(産学・地域連携担当)を兼務。現在は、動植物資源生命科学領域 教授 兼 農学部長として、教育・研究だけでなく、大学運営や社会との連携強化にも尽力してきた。


こうした数々の実績の背景には、学生時代から変わらず持ち続けてきた探究心と、仲間と喜びを分かち合うことを大切にする研究者としての姿勢、哲学がある。
また、取材や日々の仕事を通して強く感じるのは、國武教授の穏やかで飾らない人柄だ。
その場にいる学生や仲間が自然と笑顔になる雰囲気があり、「この先生と一緒に何かやってみたい」と思わせる不思議な魅力を持っている。その"人を惹きつける力"はどこから生まれているのか。
将来、研究者を志す人や進路に迷っている人にとって、國武教授の研究人生は、一つのヒントになるかもしれない。

今回の受賞を機に、研究の原点から、文化賞の対象となった取り組み、学生との向き合い方、そしてこれからの挑戦まで、"地域とともに歩んできた研究者・國武久登教授"の軌跡をたどる。
國武教授が"研究の面白さ"に夢中になるきっかけは、佐賀大学の学生時代に所属していた「生物研究会」。
名前からは堅い印象を受けるが、実態はとても自由な雰囲気のサークルだったという。
登山に出かけたり、その傍らで魚や鳥、昆虫など、それぞれが好きなものを思い思いに追いかけたり。個性豊かな仲間たちに囲まれ、國武教授は部長まで務めた。当時の仲間とは、今も交流が続いているそうだ。
大学4年間をかけて、研究会で夢中で取り組んだもの。
それは、佐賀県の唐津湾沿いに広がり、沿道が虹の弧のように松が連なり合う景勝地「虹の松原」。
そこに植生するクロマツの実態調査だった。
夏の海水浴客でにぎわう唐津湾の白い砂浜ビーチ。
それを横目に、砂浜沿いに続く無数のクロマツの幹の太さを測り、ひたすら本数を数える。汗だくになりながら黙々と続けた、まさに青春のフィールドワーク。
「今思えば、よくやったと思いますね」と、当時を懐かしそうに笑顔で語る。
大学4年間で6回もの合宿を組み、その虹の松原の植生や害虫被害の状況を調べ、成果を公表。
新聞でも大きく取り上げられたが、そこで明らかになったクロマツの総本数「約40万本」。
この数字が独り歩きして、こんな声が寄せられたという。
「100万本のクロマツ林と言われているのに・・・夢を壊さないでくれ!」
國武青年は、「生物実態の真実を突き止める!」という純粋な好奇心から、この地道で壮大な調査に粘り強く取り組んだ。
「大変でしたが、とにかく楽しかった。そのときの探求心が、私の研究の原点だったと思います」
この経験が、その後の研究人生の大きな礎になっている。
今回の受賞は、ブルーベリーの葉専用品種「くにさと35号」の開発をはじめ、健康機能性の研究から栽培普及、商品化までを一貫して進めた取組が高く評価されたものだ。
基礎研究にとどまらず、産学官連携によって地域産業の創出に結びつけた点が、本県の学術文化と産業振興への大きな貢献として認められた。
ここからは、その研究功績の概要を、できるだけ分かりやすく紹介していく。
ブルーベリーといえば、強力な抗酸化作用のある果実の方が知られている。
しかし國武教授が注目したのは"果実"ではなく、その"葉"。
分析の結果、葉には果実の約10倍ものポリフェノール類が含まれることが分かった。
「果実の研究をしていたのに、葉のほうが機能性がすごいって...複雑な思いでした(笑)」

さらに驚いたのが、医学部との共同研究で判明したC型肝炎ウイルスの増殖抑制効果だ。
「ウイルスの抑制効果も、葉のほうが果実の10倍以上強いことがわかり、みんなで驚きました。
当時は"植物成分がウイルスを抑える"なんて、誰も想像していなかったんです」
その頃、研究チーム内では、「これは未発見の何かがあるに違いない」と、ブルーベリーを"RP(Red Pine)"というコードネームで呼び、極秘機密のように扱われていたというエピソードも印象的だ。
この"葉の力"の発見が、後の産業化への大きな転機となった。
宮崎大学農学部は、当時、日本最大級のブルーベリー遺伝資源を保有していた。それを基に高い機能性と収量、栽培しやすさを兼ね備えた系統を選抜育種された。そして誕生したのが、ブルーベリー葉の収穫を目的とした専用品種『くにさと35号』だ。
そして平成24年、世界初となるブルーベリー葉収穫専用の品種登録に至った。
品種登録という大きな一歩を踏み出したものの、産業化に向けては、まだ課題もあった。
食品としての安全性の確認、有効成分を損なわない加工技術の確立──。越えるべき課題は次々と現れた。
なかでも最大の壁となったのが、"量をどう確保するか" という根本的な問題だった。
従来の「果実中心の栽培」では、葉の収量に限界がある。そして手摘みではコストが合わない。
そこで宮崎県総合農業試験場(茶業支場)と連携して、新たな取組が始まった。
密植栽培、定期刈り取り、葉の品質を保つための乾燥工程──。
"果実を育てる畑"から、"葉を収穫する畑"へ。
従来とはまったく異なるブルーベリーの栽培体系を作り、圧倒的な葉の生産、収量を実現した。
「葉が取れ始めたときに、『これなら産業になる!』と感じました」
しかし、まだ壁は続く。
ブルーベリー葉のお茶を作ろうとしても、茶工場は他の茶葉と混ぜられず、製造を断られることも多かったという。
それでも、試験場や協力工場が力を貸してくれ、少しずつ加工体制を整えていった。
「最初は5人の小さな挑戦でしたが、生産者も増え、10ヘクタール規模に広がりました。」
こうして、「くにさと35号」は、幅広い用途に展開できる"産業化に耐えうる素材"としての基盤を固めていった。
最大の課題であった量産の仕組みも整えていき、大学の研究成果をもとに、宮崎大学発ベンチャー「なな葉コーポレーション」が平成21年に誕生した。
原料生産から加工、商品化まで、まさに地域の方々とともに築き上げた研究、そして産業化だ。
「自分でもよくやったと思うね(笑)」
現在、ブルーベリー葉は、お茶や健康食品、のど飴など、宮崎の新たな特産品となっている。

國武教授の歩みを振り返ると、その中心にはいつも"人とのつながり"がある。
ブルーベリー葉の研究でも、成分分析、品種開発、産業化、商品化―。その長い道のりには、医学部、県試験場、食品開発センター、地域企業など、分野も立場も異なる多くの仲間が関わってきた。
宮崎県文化賞の受賞に結びついた背景には、まさにこの"地域の力を結集して、1つの成果の形に結実させた"という点も、大きな要因の1つだろう。
この"人をつなぐ力"は研究分野にとどまらない。
農学部長や副学長(産学・地域連携担当)、COC推進室長などを歴任し、大学と地域の連携・協働を牽引。研究・教育に加えて大学運営や県内キャリア教育の推進など、さまざまな面で挑戦を続け、成果を積み重ねてきた。
「産学・地域連携センターにいた時も、本当にスタッフがよくてね。忙しくても、みんなで成果を出せたんです」
そう柔らかく笑う國武教授の言葉が決して誇張ではないことは、農学部長室に一歩足を踏み入れればすぐに伝わってくる。

棚には、産学・地域連携センター長時代のスタッフ全員との集合写真。
壁には、卒業生が贈ってくれた似顔絵。
そして研究室には、宮崎県地域結集型共同研究事業のプロジェクト仲間との写真や、教授が愛する山登りの写真が並び、
"人と喜びを分かち合いながら歩んできた研究者"の姿を物語っている。
地域で働く行政、研究者、企業、そして学生たち。
立場の異なる人々が、ともに同じ未来を見据え、ともに走り出す環境が、國武教授の周りにはいつもある。
その様々な成果の裏側には、そんな"人を惹きつける力"が確かにある。
國武教授は、まさに現代で求められる"共創力"を、教育者・研究者という立場で体現し続けている。
國武教授が研究室の運営で大切にしているのは、「一緒に感動を共有できること」だという。
「新しい現象を発見したときの面白さもあるが、研究室のみんなで『やったね!』と喜べる瞬間が一番うれしい。
それが大学教員としての一番の醍醐味じゃないかな」
その原点には、学生時代に出会った恩師・三位(みい)正洋先生の存在があるという。
三位先生は"強制はしないけど、学生の探求心を自然と引き出す"指導が巧みで、学生が自ら「面白い」と思ったテーマを深め、その結果を報告しに行くのが楽しみになるような研究室だった。
「自由にやらせてくれるんだけど、指示は的確。気づけば自分の良さを伸ばしてもらっていた。そんな"学生を伸ばす魔法"を持った先生でした」
一方で、國武教授は"今の時代の学生"の変化も感じている。
「昔に比べると"がむしゃらに突き進む"タイプの学生は少なくなった印象。その分、一人ひとりに『自分はこれが得意』『ここが面白い』と思えるポイントを見つけて設定してあげることも必要」と話す。
こうした思いから、國武教授は「ワクワクが連鎖して喜び合える研究室の文化、そういった雰囲気づくりを大切にしている」と語る。
國武教授が研究テーマを選ぶうえで何よりも大切にしているのは、「自分自身がワクワクできるかどうか」。
その姿勢は、教授のこれまでの著作活動にも色濃く表れている。
教授が初めて手がけた単著『まるごとベリー』は、美味しそうなベリーの写真をふんだんに盛り込み、育て方から食べ方に至るまでを詰め込んだ、まさに"ベリー愛が爆発した一冊"。
「ベリー好きにはたまらない魅惑の本」といった評価もある。
「今思えば、自分のブルーベリーに対するこだわりが、相当強かったんでしょうねぇ(笑)」そう振り返る國武教授。
本書は、NHK出版『趣味の園芸』から刊行されたが、そこには「小さい頃から、自分の"バイブル"のような一冊を、いつかここで書きたい」という強い憧れが長年あったという。
その後も、大学教員としては珍しい"趣味分野の単著"を複数執筆している。
もちろん、「学術的な教科書もちゃんと書いていますよ」とのこと。
「楽しさ」と「学問性」を両立させる姿勢は一貫している。
そして、研究テーマを選ぶ際のもう一つの大きな軸が、「地域性」だ。
みかん、金柑、オリーブ、さつまいも----。
宮崎の主要作物や地域が抱える課題と向き合いながら、育種研究の力で解決策を提示してきた。
「果樹の遺伝、育種の研究からスタートして、ずっと果樹と歩んできました。宮崎という地域が、自分の研究を育ててくれたとも思っています」
國武教授自身が、研究を心から面白がっている。
だからこそ、教授の発する言葉や行動には、不思議と人の心を動かす力が宿るのだろう。
「一緒にやってみよう」「これ、面白くない?」----そんな一言が学生や研究仲間、地域の人たちの背中を自然に押し、気がつけば多くの人を巻き込みながら、研究や取り組みが広がっていく。
研究の広がりの原点には、常に"面白がる姿勢"がある。
現在は、金柑に関する新しい本を執筆中だという。
今後も園芸に関する著作や講演を通じて、研究の面白さや植物と向き合う楽しさ、園芸の魅力を、より多くの人に伝えていきたいと話す。
学生時代の地道な調査から始まった研究者人生。
研究、教育、地域連携----そのすべてに共通するのは、「面白い」を追い続ける姿勢だ。
出前講義で、國武教授はこう語る。
「なりたい職業から考えずに、一度、子どもの頃、夢中になったことを思い出してみてください。
それを仕事にできたら、人生はもっと楽しくなります」
取材の最後、こんな言葉もこぼれた。
「60を過ぎて分かったけど......どうやら僕、何でも面白がっちゃう性格みたいですね(笑)」
その"面白がる力"が、今日も新しい挑戦を生み、周囲を動かしている。
取材・撮影・執筆=広報係 河野 秀貴
【関連サイト】
▼宮崎大学 農学部 Webサイト
https://www.miyazaki-u.ac.jp/agr/
▼宮崎大学 入試情報
https://www.miyazaki-u.ac.jp/exam/
▼ブルーベリー葉 関連製品情報
●亀長茶園
https://kamenagachaen.com/
●SUNAO製薬
https://sunao-seiyaku.com/products/blueberry-leaf-plus-lutein/
●EDOBIO~びおらいふ~
https://edobio.jp/biolife
PDFファイルをご覧いただくためには、Adobe Reader(無償)が必要です。
Adobe Readerは
Adobe Readerのダウンロードページよりダウンロードできます。


