twitterロゴ
B!

Vol.4 令和4年の幕開けに“令和の人?”中西進さんを読む

企業の方へ
2022.1.5

『お気に入りの本や音楽と旅するように、このコラムを読みながら地域を旅してもらいたい』。そんな気持ちのまにまに綴る、Capa+部門長コラム。(不定期で掲載します)

令和の人?国文学者 中西進さん

明けましておめでとうございます。令和4年がスタートしましたね。コロナ禍で思うに任せない生活が続いていますが、今年こそ、好きな時に好きなところに行き、好きな人と会うことができる、そんな日常を取り戻したいですね。

「今年最初の本を何にしようかな?」と思いながら年末に県立図書館に足を運んだら、中西進さんの「卒寿の自画像 わが人生の賛歌」に出会いました。

《「令和」の名付け親?》
この本の表紙に小さな字で「『令和』の考案者は私と同じ名前なんですね」と書いているとおり、(もちろん公式に発表されたわけではありませんが)、中西進さんは「令和」の考案者と言われている日本を代表する万葉集の研究者です。

本物の知性と優しさ、そして艶やかな中西さんとの出会い

実は私は中西さんとお会いしてじっくり話を伺ったことがあります。7年ほど前になりますが、宮崎空港から延岡市まで移動する車の中で、ずっと隣に座り話をしました。万葉集は私にとっては全くの別世界であるため事前に付け焼刃ですが勉強をして、そして相当に緊張して隣に座りました。

でも心配は杞憂に終わりました。私の稚拙な質問にもとても丁寧に、魅力的に説明をくださり、私の関心を次々に引き出してくれました。また私の話す宮崎の現状や可能性についても、熱心に耳を傾けてくれました。本物の知性とはこういうことなのだと、そして何と色気のある、艶やかな人なのだろうと思ったことを鮮明に覚えています。

「虚構」の意味について

この本の中に、文学あるいは学問に関する中西さんの姿勢を感じさせてくれる一文があります。
高知県の桂浜にある旧制高知高校の寮歌碑の「この浜よする大濤(なみ)はカリフォルニアの岸を打つ」という歌詞について考察した一文です。紹介しますね。

桂浜からはカリフォルニアの岸なんて見えませんね。
でも、太平洋を通して桂浜とアメリカはつながっていることを表現したことで、
気宇壮大な青春の志が伝わってきます。
こうした宇宙があるからこそ、
人は与えられた矮小な世界を超えられます。
そうして文学研究とは、人々が何を虚構し、
その虚構が人類にとってどんな意味があるかを考えることです
。』

素敵な文章だと思いませんか?
このところ私の頭の中には「物語の復権」という言葉が棲みついています。データ化された社会、AIの社会だからこそ、もう一度私たちは物語性を取り戻すべきではないかと。中西さんの言われる「虚構」すること、そして「虚構」の意味を探索すること、これから暫く私のテーマです。

▲高知 桂浜

冷たい空気に包まれて

実は 「卒寿の自画像 わが人生の賛歌」 を大晦日に読み始めて元日の朝に読み終わりました。その後、妻と娘と一緒に加江田渓谷を散策しました。

木々の緑と冷たい空気、清流のせせらぎ、そして鳥のさえずりの中を歩きながら、自分と家族以外の何かがそこにいる、存在していることをずっと感じていました。でも、写真の私は、そこに存在するものは何かを、中西さんのように哲学している私ではなく、単に「疲れたけれどいい年明けだったな」と考えている私です。

最後に万葉集で私が好きな、大伴旅人の歌を紹介します。今年もよろしくお願いいたします。

「我が園に梅の花散るひさかたの天より雪の流れ来るかも」

▲鳥の声が響く加江田渓谷
▲渓谷でたたずむ部門長

文:永山 英也 Nagayama Hidenari
   Capa+部門長/宮崎大学長特別補佐

関連記事
▼部門長コラムVol.1 魅力的な14人との豊かな時間
▼部門長コラムVol.2 “一陣の風が通り過ぎたあと、花が香りを残してゆくような、そんなひと”に出逢う
▼部門長コラムVol.3「デザイン」や「アート」についての独断的考察