ニュースリリース
2024年02月21日 掲載
令和6年2月20日(火)、農学分野における顕著な研究業績を残した学生を表彰する宮崎大学農学部表彰式(研究部門)を開催し、國武久登農学部長から学生に賞状と記念品が授与されました。宮崎大学農学部では、令和4年度から、学部学生および大学院生の研究意欲向上を図るともに、宮崎大学の研究成果の国際発信力を高めるため、国際的に評価の高い学術誌等に論文を掲載した学生を顕彰しており、2年目となった今年度は、8名が表彰されました。受賞した学生の皆さんおめでとうございます。
△國武農学部長の挨拶
宮崎大学農学部では、今後も県内自治体や地域企業などと密接に連携しながら研究を進めるとともに、社会から必要とされる人材の育成に力を入れ、農業振興に貢献できるよう努めてまいります。
▼農学部創立100周年記念特設サイト https://www.miyazaki-u.ac.jp/agr100th/
▼のうがく図鑑 https://www.miyazaki-u.ac.jp/agr/books/
▽2023年度宮崎⼤学学⽣農学特別賞(研究部門)受賞のことば 受賞者の論文とコメントが紹介されています(2024年4月8日追記) https://www.miyazaki-u.ac.jp/agr/news/award/2023-6.html
▽各受賞者の論文概要
論文名:Effect of Growth Stages on Anthocyanins and Polyphenols in the Root System of Sweet Potato
受賞論文の発表誌名等:plants, Vol.12, p.1907
サツマイモの紫肉色品種に豊富に含まれるアシル化アントシアニンは、その構造中に少なくとも1つのカフェオイル基を持ち、ポリフェノールと共に高い抗酸化活性をもつことで注目されている。これまで、貯蔵根の肥大が開始される前の根系におけるアントシアニンの蓄積の有無やその変化は未解明のままであった。本研究では、サツマイモの根系におけるアントシアニンおよびポリフェノール含量やその組成について調査した。その結果、根系のアントシアニンやポリフェノールは形成初期から蓄積されており、特に、根系の形態が大きく変化する定植45日前後に総ポリフェノール含量が高くなることを明らかにした。本研究の成果は、サツマイモの育種だけでなく、塊根肥大の生理学的な研究にも貢献できるものと考えられる。
論文名:Visual Perception of Density and Density-Dependent Growth in Medaka (Oryzias latipes): A Suitable Model for Studying Density Effects in Fish
受賞論文の発表誌名:Zoological Science, Vol.40, p.404-413
魚類は高密度で飼育すると、成長阻害が起こる。これは密度効果の一つである。高密度下の成長阻害と密度認識機構に関する知見は乏しく、この機構の解明は「高密度でも成長が良い魚」の作出に繋がる。本研究ではメダカが密度効果および認識機構のモデル魚となるかを評価した。段階的に飼育密度を設定した実験の結果、水質や給餌条件が同じにも関わらず、密度依存的に成長は阻害された。また6匹と8匹/2Lという2匹の違いでもの成長差がみられ、メダカは周囲の個体数を正確に認識できることが示唆された。二重水槽を用い、疑似的に高密度を再現した疑似高密度群において成長阻害が認められたことから、密度認識には視覚が重要となることを初めて示した。ホルモン等の生理学的解析からは、高密度の成長阻害はストレスが主な要因ではなく、高密度群で補償的に成長を担保する機構が働いていたことから、中枢における未知の密度効果関因子(成長阻害因子)の存在が考えられた。本成果では、メダカが密度効果のモデル魚として適していることが示され、今後の研究展開における重要な基礎知見を得た。
論文名:スギ植栽木に対するススキ型および落葉広葉樹型競合植生の被圧効果の違い
受賞論文の発表誌名:日本森林学会誌, 105巻, p.147-153
森林資源の循環利用には人工林伐採後の適切な再造林が必要である。これを達成する上で下刈り作業の省力化は最も重要であり、植栽木の成長を低下させる競合植生の被圧効果の科学的定量が喫緊の課題となっている。本論文は、異なる競合植生の被圧効果の違いを光の制限と樹冠発達の抑制の二つの側面から定量的に明らかにしたものである。
ススキ型植生と落葉広葉樹型植生の林地でスギの成長・被圧の高頻度モニタリングと光合成器官量の多サンプル計測を行い、期首サイズ依存性と植栽立地の微環境の不均一性を考慮した一般化線形混合モデルを用いて各被圧効果を定量するとともに、樹冠発達を競合植生タイプ間で比較した。その結果、ススキ型では、(1)ススキの密な葉が着葉量の多いスギ樹冠下部での光合成生産を制限する即時的被圧効果に加え、(2)葉の物理的な接触によってスギの樹冠発達を抑制する累積的被圧効果も強いことを見出した。
論文名:Development of a digital phenotyping system using 3D modelreconstruction for zoysiagrass
受賞論文の発表誌名:The Plant Phenome Journal, Vol.6, p.e20076
本論文は、植物育種研究に応用することを目的として、デジタル3Dモデルから機械学習も活用しながら各種形質を非接触、非破壊で計測する技術開発を行ったものである。
材料として日本シバ(Zoysia属)20系統を用い、温室内でポットにて栽培しながら1年間にわたり全周囲画像を毎週撮影し、その画像からポイントクラウドによるデジタル3Dモデルを再構築した。このデジタル3Dモデルから、計測の対象となる植物部分と不要なポット部分などを機械学習にて分離した。分離された植物部分から、高さ、上部からの面積、色(NDI)の情報を取得した。これらの値は、従来法であるノギスによる計測による高さ、通常の上面からの2D写真による面積計測、NDVI(正規化植生指数)の各値と、高い正の相関を示した。また、デジタル3Dモデルからボクセル化等を行い体積も推定し、乾燥重量と高い相関を示すことも明らかとした。
今回構築した方法は、時間と労力を要する植物の形態計測を、デジタル計測技術により作業者の負担軽減や再現性の向上のみならず、手計測では困難な評価項目である体積を非破壊で経時的に調査することも可能とした。これらの結果は、ハイスループットで正確に表現型値を評価できることを示しており、有用な植物評価ツールとなる可能性があり、植物育種研究の発展に寄与するものである。
なお、開発したプログラムコードはGitHubより公開しており、自由に使用することが可能である。
論文名:Generation of a porcine cell line stably expressing pig TMPRSS2 for efficient isolation of viruses from pigs with respiratory diseases
受賞論文の発表誌名:Pathogens, Vol.13, p.18
ブタにおける重要なウイルス感染症のうち、インフルエンザウイルスなど呼吸器系のウイルスは、培養細胞を用いて分離培養を行う際、感染効率の向上のためにトリプシンを培養液に添加する必要があるが、通常の培養液ではトリプシンの効果が減弱することから、特殊な培養液を準備する必要があるなど作業が煩雑になる。これらの課題を解決するため、本研究ではインフルエンザウイルスの増殖を顕著に亢進させるブタTMPRSS2持続発現細胞の樹立に取り組み、インフルエンザウイルスの増殖を1,000倍以上向上させる細胞の樹立に成功した。また、TMPRSS2非依存性ウイルスを用いた実験により、その特異性についても確認できた。今後、本細胞をブタ由来の様々なウイルスの実験に応用することで、検査、診断、薬剤開発における本細胞の有用性を検討していきたい。
論文名:Interleukin-22 induces immune-related gene expression in the gills of Japanese medaka Oryzias latipes
受賞論文の発表誌名:Developmental and Comparative Immunology, Vol.148, p.104916
サイトカインであるインターロイキン(IL)-22はいくつかの魚種で同定されているが、これらの魚種の鰓(エラ)における機能的意義は不明である。本研究では、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘発炎症下における野生型(WT)およびIL-22ノックアウト(IL-22 KO)メダカの鰓における炎症性サイトカイン、抗菌ペプチドおよびIL-22結合タンパク質の遺伝子発現を解析した。また、メダカ組換えIL-22(rIL-22)を作製し、rIL-22で刺激した鰓の初代細胞培養物における免疫関連遺伝子の発現を解析した。il1b、il6、tnfaおよびhamp遺伝子は、WTメダカの鰓ではDSS刺激により、ナイーブな状態に比べて有意に発現が上昇したが、IL-22 KOの鰓では上昇しなかった。一方、rIL-22を添加した鰓細胞の初期培養においてil1b、il6、hampおよびil22bpの発現は有意に上昇した。これらの結果は、IL-22が魚類の鰓における炎症性サイトカインおよび抗菌ペプチド産生を誘導し、免疫応答に関与していることを示唆した。
論文名:Chemical screening approach using single leaves identifies compounds that affect cold signaling in Arabidopsis
受賞論文の発表誌名:Plant Physiology, Vol.193, p.234-245
植物の細胞内プロセスを制御する化合物は数多く報告され、新しい農薬などの開発に繋がっている。本研究では、低温に反応して発光する遺伝子組換えシロイヌナズナを作製し、成熟した植物個体の葉を用いて化合物スクリーニングする方法を開発した。約500種類の化合物から、低温応答遺伝子の発現に影響を与える化合物として1,4-ナフトキノン誘導体を同定した。1,4-ナフトキノン誘導体は、低温による急速かつ一過的なCBF遺伝子群の誘導と、それに続くCOR遺伝子群の発現誘導を阻害した。この結果は、1,4-ナフトキノン誘導体が低温シグナル伝達経路上流に位置する因子に作用し、シグナルプロセスを変化させたことを示している。本研究成果は、植物の環境応答を制御する化合物の大規模スクリーニングを可能にした。
論文名:Suppressive effects of sugarcane molasses concentrate on starch-induced hyperglycemia in mice
受賞論文の発表誌名:Journal of Functional Foods, Vol.107, p.05652
糖蜜はサトウキビから砂糖を精製する際の副産物である。本研究では、食後高血糖に対する濃縮サトウキビ糖蜜(SMC)の抑制効果をマウスモデルを用いて評価した。食後高血糖に対する濃縮サトウキビ糖蜜(SMC)の抑制効果をマウスモデルを用いて評価した。雄性ICRマウスにデンプンを投与すると血糖値が上昇し、投与60分後にピークに達した。同時にSMCの同時投与はこの上昇を顕著に抑制し、曲線下面積は投与240分後まで減少した。SMCのエタノール沈殿画分(Et-Fr)とデンプンの同時投与は、血糖値の上昇を著しく抑制した。Fr)も有意な抑制効果を示した。Et-Frを6週間にわたって自由摂取しても、空腹時血糖値には変化を及ぼさなかった。In vitroの実験では、SMCとEt-Frは有意にα-グルコシダーゼ活性を阻害したが、α-アミラーゼ活性は阻害しなかった。これらの結果は、SMCには食後過血糖を抑制する可能性があることを示唆している。
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