ニュースリリース
2026年03月09日 掲載
概要宮崎大学工学部工学科電気電子システムプログラム(GX研究センター兼任)の永岡章准教授を中心とした研究グループは、身の回りの熱を効率よく電気に変換するp型Cu2ZnSn(S1−xSex)4 (CZTSSe)単結晶の開発に成功しました。本研究は国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)の佐藤直大博士とシドニー大学のKeita Nomoto博士との共同研究です。本研究成果は、2月19日付で材料工学分野の主要国際学術誌「Journal of Materials Chemistry A」のオンライン版に掲載され、同誌Inside front cover論文に選出されました。この材料を利用する事によって、例えば車のエンジンで利用されずに大気中に放出される高温の熱を電気に直接高効率で変換する技術への展開も期待されます。独自の熱電変換材料からカーボンニュートラルやSDGs実現へ貢献していきます。
【研究背景】我々の身の回りに存在し、生活で利用している熱エネルギーについて考えてみると、車のエンジン(排ガス)温度は、アイドリング時や全開時で様々だが200~800 ºC程度、ガスコンロの火炎温度は1700 ºC程度です。車のエンジンの効率は40%程度であり、ガスコンロを利用して100 ºCのお湯を沸かすことを考えると、熱エネルギーが未利用のまま環境中に放出されていることが実感できます。こうした日本中で発生している年間の排熱量は原子力発電所数十基分の発電量に相当すると試算されています。熱電変換技術は、工場や自動車から排出される廃熱を再資源化する技術として注目されています。これまで熱電材料として、PbTeやBi2Te3が知られていますが、希少元素や有害元素を含んでいます。さらに実用化するための指標として、1以上の熱電性能指数ZTが求められますが、達成できている材料は限られてきました。再生可能エネルギーの代表格である太陽電池と熱電発電を比較してみると、太陽電池の変換効率が20%であるのに対して熱電発電では10%以下であり、世の中に普及させるためには変換効率が低い点が研究課題となっています。
論文誌のInside front coverとして掲載https://doi.org/10.1039/D6TA90065H
【研究成果】基本的な熱電発電デバイス構造は図1に示すように柱状に切り出されたp型とn型1)の熱電材料部(single-legデバイス)の両端を金属電極と接続するパイ型構造を基本構造としています。そして、それらを直列に接続する事で大出力の熱電発電デバイスとなります。材料毎にそれぞれ異なったZTの温度依存性、熱膨張率、融点といった特性を有するため、熱電特性や安定温度が大きく異なったp型材料とn型材料を用いた熱電デバイスは、変換効率の低下や長期安定性が期待できません。これまでpn両伝導を有し、それぞれが高い熱電性能を示す材料はほとんどありませんでした。研究グループは、地殻中に豊富に存在し、毒性の低い元素で構成された環境調和型Cu2ZnSnS4(CZTS)に注目しました。この材料は、もともと永岡准教授が本学博士課程在学時から研究を続けてきた経緯があります。永岡准教授は博士課程時に大型で高品質なCZTS単結晶成長に世界で初めて成功しました。構成元素組成などをチューニングすることで環境調和したp型硫化物熱電材料において世界最高値の性能指数ZT=1.6を達成しています(2021年7月28日プレスリリース)。さらにCZTSにAgを混晶した(Cu1-xAgx)2ZnSnS4 (CAZTS)単結晶において、x > 0.4の組成でn型化に成功し、最適な組成制御を行うことで、最終的にn型硫化物熱電材料において世界最高値のZT=1.1を達成しています(2024年8月22日プレスリリース)。本研究では、これまでのデータの蓄積によりCZTSにSe元素混晶とK元素ドーピング3)の戦略から熱電特性の高性能化へアプローチしました。永岡准教授の開発した高品質なCZTSSe単結晶を用いて、最先端の観測技術(シドニー大学Nomoto博士)からK元素はSn近傍の格子間位置に存在することを確認し、詳細な局所構造を明らかにしました。さらに原子レベルの構造を取り入れた理論計算(NIMS佐藤博士)により、電子のエネルギー構造が整えられ、利用可能な電子の数が増えることが、高い熱電変換性能の鍵であることを解明しました。結果として、多元系硫化物ベースの材料において最高値である熱電性能指数ZT = 1.9@500 ºCを実現しました。実験的に得られた熱電特性を用いたシミュレーションからデバイス構造を最適化し、これまでの研究で得られた電極形成技術も用いながら、温度差500 ºC程度で変換効率10.4%を示すp型CZTSSe single-legの開発に成功しました。さらに1000時間以上の高温動作試験においても性能劣化が10%以内と、極めて高い長期安定性を確認し、本材料が中温域(~500 ℃)排熱回収向けの実用熱電材料として有望であることを示しました。
【今後への期待】 宮崎大学独自の技術により、レコード熱電性能指数を示すp型CZTSSe材料の開発と高性能・長期安定性single-legデバイスを実現しました。本成果で得られた技術的アドバンテージを活かしながら、長期安定性・高効率な熱電デバイスの開発を着実に進めています。今後は、n型CAZTS single-legの開発に取り組み、p型CZTSSeデバイスとの組み合わせによる高出力パイ型熱電デバイスの実現を目指します。さらなる研究開発を通じて、従来技術を凌駕する高性能熱電デバイスを創出することができれば、熱電変換技術が汎用的なエネルギー源として社会実装されることが期待されます。
【論文情報】論文名 : Realizing a thermoelectric conversion efficiency of 10% with long-term stability in a kesterite Cu2ZnSn(S1−xSex)4 single-leg device掲載誌 : Journal of Materials Chemistry A著者 : Akira Nagaoka, Shoma Miura, Keita Nomoto, Kangwei Chen, Naoki Sato, Kenji Yoshino, and Kensuke NishiokaDOI : 10.1039/d5ta08640jURL : https://doi.org/10.1039/D5TA08640J
【研究支援】 本研究は、科学研究補助金(基盤研究B:課題番号23K26603)および公益財団法人東電記念財団研究助成(基礎研究:課題番号23-006)の支援を受けて実施しました。
【用語説明】1) p型伝導とn型伝導・・・材料中の電荷を運ぶキャリアがプラスの電荷を持つホールである場合をp型伝導、マイナスの電荷を持つ電子である場合をn型伝導と呼ぶ。2) 単結晶・・・構成元素が規則正しく、周期的に並んでいる材料。単結晶が多数集まってランダムに結合している材料を多結晶と言う。
3) ドーピング・・・材料にほんの少量の別元素を加えて、電気の流れやすさを調整する技術。
プレスリリース詳細はこちらからhttps://www.miyazaki-u.ac.jp/public-relations/20260306_02_press.pdf
【以前の研究成果については下記のリンクから】
最高性能値を有する高効率n型熱電変換材料の開発~独自技術で高効率熱電発電デバイスの実現へ前進~https://www.miyazaki-u.ac.jp/newsrelease/edu-info/n.html
過去最高の熱電変換性能指数を示す環境調和型熱電材料の実現-独自の材料開発技術から熱エネルギーの有効利用に貢献-https://www.miyazaki-u.ac.jp/public-relations/20210728_01_press.pdf
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