宮崎大学
ニュースリリース

鳥インフルエンザウイルス検出手法の確立と社会実装を目指し共同研究を開始

2024年06月17日 掲載

2024年613日(木)、宮崎大学と株式会社AdvanSentinel(本社:大阪府大阪市、代表取締役社長:古賀 正敏、以下「AdvanSentinel」)は、渡り鳥が飛来する湖沼の環境水を用いた鳥インフルエンザウイルス検出手法の確立とその社会実装を目指す共同研究に関する記者会見を行いました。

この共同研究は、2023年12月に宮崎大学が実施したドローン採水により得られた環境水からAdvanSentinelの技術による鳥インフルエンザウイルスのH5遺伝子検出の成功を受けて、低コストで汎用性の高い高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)ウイルスのモニタリング手法の確立とHPAI対策への有効性の検証を行うことを目指して開始したものです。

△記者会見の様子
△記者会見の様子
△山田教授
△山田教授

宮崎大学産業動物防疫リサーチセンター(CADICは、家畜伝染病に対する防疫・減災に関する国内外の様々な課題に取り組んでおります。養鶏業に甚大な被害をもたらすHPAIの対策もその一つです。養鶏が盛んな宮崎県は、これまでにたびたびHPAIの被害を受けてきました。2020~2021年シーズンの全国的なHPAIの猛威を受けて、CADICは翌シーズンから毎年、県内の渡り鳥飛来池において渡り鳥の糞便を採取してHPAIウイルスの保有を調査しており、陽性例が出た場合には県の家畜防疫対策課と情報を共有して養鶏業者に注意を喚起するなど地域に貢献して参りました。

しかし、糞便を用いたモニタリング手法は、飛来シーズン早期では採取できる糞便が非常に少ないことが、HPAI早期警戒アラート発出における課題でした。湖沼等の環境水を用いたHPAIウイルスのモニタリング手法は、それを補完する手法として知られています。飛来シーズン早期でも湖沼では群れをなして遊泳する渡り鳥が確認されます。もしHPAIウイルス陽性の個体がいるのであれば、ウイルスは糞便とともに水中に排泄されるため、鳥が群れている場所から採水すればウイルスを検出できるのではないかと考えました。しかし多くの場合、採水が困難な箇所で渡り鳥は群れています。そこでCADICでは2023~2024年シーズンにドローンを用いた採水とHPAIウイルスの検出を開始し、糞便サンプリング調査と並行して進めてきました。このときは全国にHPAI発生が少なかったためか、環境水からのHPAIウイルス検出には至りませんでした。

AdvanSentinelは下水疫学調査(ウイルス等のモニタリング)を行なっており、新型コロナウイルスの流行動態調査においてはその有用性が立証されています。そのための同社の革新的技術であるCOPMAN法(Coagulation and Proteolysis Method using Magnetic Beads for Detection of Nucleic Acids in Wastewater)による超高感度RNA検出法は、環境水からのHPAIウイルス検出において突破口となりました。2023年12月に宮崎県下の調整池でドローンにより採水され保存されていたサンプル水から、COPMAN法により鳥インフルエンザウイルス遺伝子(MおよびH5)の検出に成功しました。

この結果を受けて、宮崎大学CADICAdvanSentinelは、環境水からHPAIウイルスをモニタリングする手法の最適化とモニタリングデータのHPAI対策への有用性の検証について、共同研究を開始しました。本モニタリング手法の有用性が実証されれば、これを「宮崎モデル」として全国に展開し、養鶏場におけるHPAI発生の低減、ひいては鶏肉・鶏卵の安定供給につなげることができると考えています。

研究期間は2025年531日までの1年間。主に以下3点を中心に進める予定としています。

△古賀社長
△古賀社長
前列左から:吉田センター長、片岡理事(研究担当)、古賀社長、山田教授 ※中央は採取用ドローン
前列左から:吉田センター長、片岡理事(研究担当)、古賀社長、山田教授 ※中央は採取用ドローン
宮崎大学 CADIC(農学部獣医学科教授)山田 健太郎 コメント

2010年の宮崎県での口蹄疫発生を受けて、2011年に産業動物防疫リサーチセンター(Center for Animal Disease ControlCADIC)が宮崎大学に設置されました。本センターは日本で唯一の産業動物防疫に特化した教育研究拠点で、畜産の生産基盤の安定化に寄与することを目的とし、家畜の伝染病や越境性感染症の防疫・減災に関わる多様な研究・開発・対策立案を国内外において学際的に進めているだけでなく、教育啓蒙やグローバル人材の育成も行なっています。

高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)ウイルスは、この地球ではすでに常在化しており、渡り鳥によって毎年日本国内にもたらされることは避けられないことから、その防疫として養鶏場における飼養衛生管理が重要になります。しかし、見えない相手に警戒体制を「常に」高レベルに保つことは難しいことで、リスクに応じて警戒レベルを変動させるのが合理的です。そのためにはHPAI早期侵入検出システムが必須となります。HPAIへの対応は世界規模の課題であり、宮崎大学のスローガンは「世界を視野に、地域から始めよう」です。今回、宮崎をフィールドにしてAdvanSentinel社と連携して早期侵入検出システムの確立と有効性の立証を行い、HPAI対策のソリューションの一つとして日本だけでなく世界にも向けて提案できるようにしたいと考えています。

AdvanSentinel 代表取締役社長 古賀 正敏 コメント

AdvanSeninelは、感染症の脅威に立ち向かう企業として、島津製作所と塩野義製薬の出資を受けて2022年に創設されました。以来、下水中の新型コロナウイルスの高感度検出を皮切りに、環境中の遺伝子検出に係る研究開発と社会課題の解決へのチャレンジを進めております。

鳥インフルエンザウイルスも、その被害の大きさとグローバルな拡大傾向、ヒト感染も含めた将来への懸念から、取り組むべき対象としていましたが、脅威の存在の見える化だけでは課題解決には遠いというもどかしさを感じていました。そんな折に、口蹄疫への対策以来、リスクに対して組織間連携が効いたチームの編成と対策の実行まで、スムーズで一体感がある実働が宮崎県では成り立っていること、更に、宮崎大学も弊社と同じく環境中の鳥インフルエンザウイルスの検出に着手していることを知りました。ここへ連携しない選択肢はないと判断した所以です。見えないリスクに日々対策を要す、養鶏事業者や県・家畜保健衛生所の方々の苦心は大変なものだと思っています。ここから始める宮崎大学との連携によって、先行性のある良い研究成果と、養鶏事業が受けている被害や苦心労力の低減、消費者の安心に繋がる成果を目指して参ります。

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