宮崎大学
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豊かな海を次の世代に残したい ~世界にひとつだけの「門川の海の絵本」に秘めた想い~
緒方 悠輝也(おがた ゆきや)さん



2022年3月7日掲載

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緒方 悠輝也(おがた ゆきや)さん(2023年度修了)

農学工学総合研究科 博士後期課程

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宮崎市出身。男3人兄弟の長男として生まれる。
小戸小学校・宮崎西中学校・宮崎第一高等学校を経て、宮崎大学農学部海洋生物環境学科に進学。2018年に宮崎大学農学研究科に進学し、2020年3月に修了。その後一年間の農学部技術補佐員(非常勤)を経て2021年4月に宮崎大学農学工学総合研究科博士後期課程に進学。
大学3年次に、村瀬敦宣准教授の研究室に配属となり、延岡フィールド(宮崎県延岡市赤水町)を拠点に研究を進める。2017年に宮崎大学と門川町が包括連携協定を締結したことをきっかけに始まった、「門川の魚図鑑制作プロジェクト」における責任者である村瀬敦宣准教授の右腕として、時間があるときは門川町の朝競りに顔を出し、標本のない個体があれば採取して標本作製に尽力。2019年には、515種を掲載した「門川の魚図鑑」が完成。
2021年には815種を掲載した大図鑑「ひむかの海の魚たち」の発行に尽力。また、それらの基礎データを有効活用して、門川町内の小中学生に対する環境教育にも熱心に取り組み、門川町に特化した「海辺の生き物ガイドブック」・「門川の魚かるた」・「門川おさかなガイドブック」・「門川の海の絵本(夏休みの思い出)」などを制作。その際、研究室の学生を中心としたプロジェクトチームのリーダーとして活躍。

■魚マニアになるまでの道のりを教えてください。

小さいころから根っからの生き物好きで、学校から帰るとすぐに網とバケツを持って大淀川に通っていました。大学入学直後は、大学までの約15kmの道のりを自転車で片道1時間ほどかけて通学していましたが、毎日講義の前後に釣りをしていたため、釣り竿とクーラーボックスをもって大学構内をほっつき歩いていました。日々の通学ですれ違う人たちは、私のことを大学に通っているなんて思っていなかったでしょうね。笑

大学では、農学部海洋生物環境学科であったので、魚好きの学生が多かったことはもちろんですが、他学部の学生にも魚好きが多く、一緒に釣りをするなど、釣りバカの私を理解してくれる学生は多く、キャンパスでも浮いた存在にならずにすみました。本当にいい仲間に恵まれたと心から感謝しています。

大学3年になると、専攻分野を決めるために、どの先生に指導を仰ぐかを決めなければなりません。当然魚は好きなのですが、具体的にどの分野を専攻すべきか色々と考えていた時に、若い村瀬先生が着任されました。村瀬先生は、東京都出身の「サカナ君」のような筋金入りの魚マニアで、博士号取得後に、JICA海外協力隊でコスタリカに派遣されたユニークな経歴を持っていました。その村瀬先生の研究分野の話を聞き、標本を見せてもらったときに、ここしかない!と思いました。それからはさらに魚に明け暮れた日常を過ごしております。魚マニアの世界も、上には上がいるので、もっと極めたいですね。

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第1弾 ~「海辺の生き物ガイドブック」完成(2018年)~

大学4年生だった2017年に、大学と門川町が連携協定を締結することになり、私の指導教員の村瀬先生が主担当を務めるプロジェクトが開始されました。私はそのプロジェクトのアシスタントを務めながら、図鑑の制作に向けて奔走していました。

一方で、2018年には、学生の自主的な地域貢献活動を後押しする制度である「学生地域貢献活動補助事業」を利用して、この図鑑の基礎データなどを利用して、当時の研究室の先輩であった新倉弘基さん(農学研究科修士課程2年)などと一緒になって、小学生向けの「門川町周辺の海辺の生き物ガイドブック」の制作に取りかかりました。

このガイドブックは、A5サイズ48ページのもので、門川町周辺の岩場や潮だまりなどで一般的に観察できる魚、カニ、エビなどの海辺の生き物をジャンル別に掲載することで、釣った魚や磯遊びなどの際に見た生き物の名前を手軽に調べることができるようにし、夏休みの親子での遊びが、そのまま自然環境を学ぶきっかけになればとの想いで制作しました。

門川町立草川小学校をはじめ、門川町内にある3つの小学校に在籍する全ての児童に無料で配付するとともに、中学生や一般の方にも、数量限定で無料配付して、とても喜んでもらえました。今思うと、自分の撮影した生き物が載ったガイドブックが作れるという喜びと、このガイドブックを配付したときの子どもたちの喜びの声や笑顔が、私のエネルギー源となり、次へのステップになったのかもしれません。

▼「門川町周辺の海辺の生き物ガイドブック」は以下のURLからダウンロードできます
https://www.town.kadogawa.lg.jp/industry/cat/page003634.html

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写真:門川町立草川小学校にて贈呈式を行ったときの様子(2018年)

第2弾 ~「門川の魚図鑑」完成(2019年)~ 

門川町は「さかなのまち」として、古くから有名でしたが、どうしてこれほどの漁獲量があり、他の海と比べてどれくらい海が豊かなのか証明した十分なデータはありませんでした。この図鑑制作は、「さかなのまち」として知られてきた門川町(湾)周辺の魚類多様性を学術的に証明し、門川町の魅力を発信することを目的としたプロジェクトでした。

「門川の魚図鑑」ですので、地元で水揚げもしくは採集された魚の大半を研究室がある宮崎大学延岡フィールド(水産実験所)で撮影しなければなりません。きれいな写真を残すために、魚の形を虫ピン(昆虫標本を作る際に形を整える針)で整えたのちに薬品を塗り、固まったタイミングで虫ピンを外して撮影します。その際、魚表面の反射を抑えるため水の張った水槽に魚を入れて、ライトの角度を調節しながら撮影します。時間が経つほどに魚の色は悪くなるので、その調節がとても難しいです。

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標本用の写真を撮影する様子

また、魚図鑑はどこにでもあり、他の図鑑との差別化を図り、魚に興味が無い人にも見てもらいたいという想いから、デザインの得意な城嶋るなさん(農学部)と寺本安美香さん(教育学部)にも協力してもらいました。学部を超えたチームとなることで、様々な視点を取り入れることができたため、これまでの魚図鑑とは異なり、とてもおしゃれで読みやすい図鑑になりました。

この魚図鑑は、門川湾周辺の沿岸のみから水揚げされた魚だけを掲載していて、「生息地アイコン(港or岩場or河川or干潟)」・「利用アイコン(食用or毒あり)」・「気候アイコン(熱帯種or温帯種or冷温帯種)」・「めずらしさ」表示により、魚に興味のある人は誰でも食いつくような図鑑となっています。

図鑑の表紙

各種の魚を紹介するページ

第3弾 ~「門川の魚かるた」完成(2020年)~

2019年度までには、小学生~大人まで学ぶことができる「ガイドブック」と「図鑑」は完成しました。
では、次に何をすべきか考え、未就学児でも楽しみながら学ぶことができるものが作れないかと考えた末に行き着いたのが日本の伝統的な遊びである「かるた」です。図鑑を基に、門川町周辺の海でぜひ知ってもらいたい魚をピックアップし、「門川の魚かるた」が完成しました。このかるたは絵札が両面構成となっているのが特徴で、表面には門川で多く水揚げされる代表的な44種の魚を学生・先生の4名が手分けして個性豊かなイラストとして描き、裏面にはその魚の標本写真を載せ、生態などの特徴についても記載しました。また、読み札は全て学生が考えていて、「金ハモは 門川町の ブランド品」「宮崎で 付いた呼び名は ひだりまき」など、地域に根差したユニークな内容で、遊びを通して地元の魚の知識を得ることができるように工夫しているところが特徴です。

ようやくかるたが完成し、かるたをお披露目するためのイベントを実施したのは、新型コロナウィルス感染症の影響が首都圏で出てきた2020年はじめ頃です。宮崎ではまだ影響が少なかったことから、ギリギリのタイミングでかるた大会を実施することができました。「門川の魚かるた大会」と称して、門川町立中央公民館において開催し、保護者を含めて約120名の方に参加していただきました。

この「魚かるた」は、「とっても元気!宮大チャレンジ・プログラム」の助成を受けて作成したので、今回の大会参加者に無料配付しましたが、子ども達が喜びの笑顔を浮かべてくれたことがとても印象に残っています。また、門川町内にある3つの小学校や公共の施設などに無料で配付したほか、各種イベントを通して数量限定で無料配付しました。さらに、門川町の役場の方々にも評価され、現在では門川町から販売されています。

この時期は、修士論文の追い込みの時期であったことから、睡眠時間を削りながら、かるた制作とイベントの実施を行いましたが、かるたを受け取った子ども達の笑顔を見て苦労が報われた気がしました。また、大会参加前の事前アンケートと事後アンケートのデータを集計することで、地域の魚かるたが環境教育の導入に効果があることも示唆されています。

▼「門川の魚かるた」
 1セット1,500円で販売されており、門川町役場・門川町観光協会・門川温泉心の杜で購入することができます。

大会のルールを説明する緒方さん

かるた大会の様子

かるた大会の様子

カルタの絵札

プロジェクトメンバーの学生

集合写真(午後の部終了後撮影)

第4弾 ~「門川おさかなガイドブック」完成(2021年)~

そしてかるた発表の翌年になると、門川町の水辺や漁港にも通う回数がさらに増えてきていて、様々な魅力に気付きました。そこで、この魅力をまずは町内の住民に知ってもらおうと思いました。図鑑やかるたよりも手に取りやすいものとして、最終的に考え付いたのがガイドブックでした。以前出版した「海辺の生き物ガイドブック」とは異なり、門川町民にとって身近な存在である漁業と水辺環境を紹介しました。この年は学生ではなく大学の職員として勤務していたので、仕事の合間に漁師さんの取材で船に乗せてもらったりしました。(船が苦手で酔いとの戦いでした)

この「門川おさかなガイドブック」も「とっても元気!宮大チャレンジ・プログラム」の助成を受けて完成していて、なんと門川町内の全6000世帯に1冊ずつ配布することができました。門川町や観光協会のスタッフの皆様の熱意もあったからこそこのようなことを実現することができました。

▼『門川おさかなガイドブック』は以下のURLからダウンロードできます
https://www.town.kadogawa.lg.jp/industry/cat/page003631.html

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写真:門川おさかなガイドブック

第5弾 ~ 「門川の魚大図鑑」完成(2021年) ~

門川町との連携事業が開始して5年半の歳月が経ち、ついに、大図鑑「ひむかの海の魚たち」が完成しました。この大図鑑の最大の特徴はその魚種の多さです。沿岸(水深約0m~40m)でとれた魚種644種、陸棚(水深約20m~110m)でとれた魚種186種、深海(水深約200m~363m)でとれた魚種88種の合計815種が掲載されています。さらに、3段階の水深で分けられたそれぞれの環境別に魚類を紹介していて、立体的に門川の海の多様さと、それぞれの環境に生息する魚種の違いを知ることができる、357ページにおよぶ大作となっています。

この図鑑の制作のために1年間技術補佐員として村瀬先生のもとで勤務しました。前作で載せきれなかった魚たちに出会うため、毎日のように漁港や海・川に通い、がむしゃらに魚を集めました。魚の写真を撮ることもそうですが、本作で何よりも大変だったのが写真の加工です。写真加工の方法は、撮った写真から魚だけをなぞって切り抜くというものです。ある程度魚に詳しくないと、魚の体の一部を忘れていたりするので、専門性のある塗り絵みたいな作業でした。ひれが長い魚やフサフサが多い魚などは1枚で8時間以上かかることもあり、毎日目の疲れとの戦いでした。前作の図鑑が出た後から、種類が増えるたびに加工していたので、約2年以上やったことになります。これは本当に頑張りました。

写真:加工前

写真:加工後

この大図鑑は、2021年7月1日より販売が開始されたほか、門川町のふるさと納税の返礼品としても採用されました。門川町に10,000円寄附していただければ、大図鑑一冊を返礼品として受け取ることができます。また、一冊3,000円で販売されており、門川町役場・門川町観光協会・門川温泉心の杜で購入することができます。

▼大図鑑「ひむかの海の魚たち」に関する詳細
https://www.miyazaki-u.ac.jp/crcweb/news/15898

図鑑の表紙
代表的な魚を紹介するページ

第6弾 ~ 世界にひとつだけの「門川の海の絵本」に秘めた想い(2022年) ~ 

これまで、自分たちの研究成果を地域の子どもたちの教育にも利用して欲しいと思い、「とっても元気!宮大チャレンジ・プログラム」という事業などを利用して、門川の海をテーマにしたプロジェクトとして、「海辺の生き物ガイドブック」・「門川の魚かるた」・「門川おさかなガイドブック」を制作してきました。全ての制作物を門川町の関係者に寄贈してきましたが、毎回とても好評で、地域の皆様からの喜びの声が私のエネルギー源になっていました。

今回制作した絵本は、将来を担う子どもたちへ「考える」機会を提供できればとの想いから「自然との共存」をテーマにしています。舞台は門川町の沖合に浮かぶ無人島である「乙島(おとじま)」です。「宮崎県のさかなのまち」として知られる門川町は、海や山をはじめとする自然の距離が心地よく、本企画にぴったりなまちです。応募作品の多くは門川町の小学生からいただきましたが、どれも想像力(創造力)や自然愛に富み、制作側も非常に考えさせるものばかりでした。そのため、子どもたちの想いを可能な限り表現するため、応募のあった数多くのストーリーを、日髙優衣さん(教育学部4年)が1つにつなぎ合わせてくれました。さらにイラストを担当した長友結依さん(農学部海洋生物環境学科3年)が、たくさんの想いがより多くの人々に伝わるように工夫をしながら、子供たちの絵を基に絵本を仕上げてくれました。

写真:門川の海の絵本「夏休みの思い出」

僕が子どものころからずっと浸ってきた海や自然の魅力を、僕が伝えられる範囲で次世代の子どもたちへつなぎたいと思ったことが形になりました。本当に良い指導者と仲間たちに恵まれて、さらには門川の人々の強い郷土愛があって、このような素敵な作品に仕上がりました。皆様に改めてお礼申し上げます。

生まれて26年間ずっと生活してきたこのみやざきの地ですが、未だに一度も飽きたことがなく、日々多くの発見や出会いがあります。特に、現在の活動拠点である県北部は、水辺が大好きな僕にとって毎日楽しくてしょうがない場所です。今後もここで楽しみながら地域への還元をしたいという想いが強くなってきております。博士課程を卒業した後も、宮崎県の魅力を発信していきたいです。第7弾も楽しみにしていて下さい♪

「宮崎大学・門川海の絵本プロジェクト」メンバー

① 緒方 悠輝也(農学工学総合研究科博士後期課程)
② 日高 優衣 (教育学部)
③ 長友 結衣 (農学部)
④ 大衛 亮正 (農学部)
⑤ 小原 直人 (農学部)

⑥ 栗原 巧  (農学部)
⑦ 斉木 悠亮 (農学部)
⑧ 眞田 樹也 (農学研究科)
⑨ 津守 康成 (農学研究科)
⑩ 村瀬 敦宣 (農学部准教授)

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写真左から:日高優衣さん(教育学部)、緒方さん

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写真左から:小原直人さん、緒方さん、安田修門川町長

~ 指導教員(村瀬准教授)から見た緒方さん ~ 

緒方悠輝也さんを一言で言うと行動力の塊です。思い立ったら動き出している、というのが彼の最大の強みの一つです。それでいて後輩への声がけ・サポートも忘れない。だからこそこれだけ内容のある複数の作品がこの短期間に発表できたのだと思います。そして何よりも、私自身の諸々の研究や、宮崎県発の魚図鑑の実現にも多大な貢献をしていただいたことに心から感謝しています。

そんな行動力のある緒方さんですが、魚を見る目も確かなもので、卒論生として研究室に来た時から研究室の調査に参加したり、自分でどこからか魚を集めてきたりしては、きめ細かに標本を扱い、いつの間にかあらゆる形や大きさをした魚の写真を自身で撮影できるようになっていました。これは宮崎で生まれ、少年時代から自然の中で育ててきた彼の感性が為せる技なのかと思い、驚嘆している次第です。博士課程の研究においても、綿密に資料を調べ、河口環境に生息する魚類の生態について大変興味深い結果を導き出しつつあります。

現代においては、持続可能な社会というキーワードが一般的に流布するようになりました。このことは、これまでの調査・研究・開発の流れに加え、振り返り、語り継ぐ、という原点に社会が戻ることでさらなる進歩が促されていることを意味しているように私は思います。自然を楽しみ、調べ、語り継ぐツールを形作れる彼のような存在は、これからいろいろな場面で活躍することになるかと思います。そして、今という輝かしい時間を楽しむその笑顔を次世代につないでいっていただければ本当に嬉しく思います(^^

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写真:指導教員の村瀬准教授

▼研究者データベース(村瀬敦宣准教授)
https://srhumdb.miyazaki-u.ac.jp/html/100001370_ja.html


 
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